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あの日の君に恋をした。第12話

それから数日間何もなく日々が過ぎ去っていった。

一週間がたった頃だろうか、
ココロから一通の変化球が飛んできた、
「今なにしてる?」
会いたいという感情が膨らんでいる状態に追い打ちをかけてきた。
シンプルで最強な質問にひでは心を一気に踊らされたのだ。
理性というより本能だ。
「暇してるよ~」
ひでは海外に来ても女性にそこまで興味がない。
というよりも人に興味が薄い。
そして、その中で一目置いている人間からの誘いだ。
嬉しいでしかない。ひではとても一途で純粋だ。
「今からうち来て飲もうよ」
「いくよー」
その時ひではUBEREATSの配達員をしていたのだ。
家まで急いで自転車を漕いだ。
すぐに配達を切り上げ向かった。
家に帰るとパーティーが始まっていた。
日本の曲から英語の曲など様々なジャンルで流れている。
電気を消したり、つけたりしている。
手動式クラブの照明みたいに楽しんでいるらしい。
それくらい皆酔っていた。
ひでの家には多国籍の人間がたくさんいた。
チリ、フランス、イタリア様々だ。
チリ人、イタリア人の子は怒り始めるとめんどくさい。
なにより、手を組んで怒ってくる。
それで一度隣の家から苦情が入ったレベルだ。
素面のこの人たちとは関わりたい。
それ以外は無理だ。
それくらいめんどくさい。
そのため、ひではこっそりとワインを部屋から持ち出したのだ。
チリ人がワインをもってる姿を見られてしまった。
ひでがパーティーに行くと思ったらしくストップがかかる。
まるで容疑者を裁く事情聴取の始まりだ。
審判が下った。
「判決、被告人はウソをついている可能性があるため再度審議を書けます」
そういう結論に至ったとひでは悟った。
酒=パーティーだと思っている愉快な頭をしている人間がいるのだ。
そんな人間を連れて行ったらどうなるかなどわかりきっている。
ひでは酒に飲まれる人間など信用できない。
だんだんひでの顔も曇ってきた。
それと同時に音楽の音量も下がってきた。
ましてやココロの家も本来、人の出入りは禁止だ。

ひではしっかりと伝えた
「あなたたちを連れて行く理由もないし、無理だよ。」
それに対して「why?」の一点張りだ。
チリ人の子はあまり英語ができない。
ただ自信だけは人一倍ある。
ひではとてもめんどくさいと感じていた。
ひではずっと断っている。
関係のない人間を友達に紹介するなど嫌だからだ。

次第にチリ人とフランス人は怒り始めた。
とても仲間意識が強い。
そして、お酒を大勢で飲むことが楽しいと思っている。
それに対してひでは仲の良い人間であれば大勢でも良い。
「仲間なのに連れて行かないのはおかしい」
チリ人は言葉から伝わってくるイライラだ。
ひでの部屋の私服などを取って遊び始めたのだ。
いつもひでは服を大切にしているのを知っているからだ。
人質を取るのと同じだ。
もちろん人の部屋に入るのは違反だ。

ひでも時間がないため少し怒ったのだ。
「いい加減にしないと許さないよ?」
もうこの時には音楽は止まっていた。
というより、止めていた。
それに対してチリ人は負けずと言い返してくる。
「お前が悪い。なぜ連れて行かない?」
ひでは思わず笑ってしまった。
「このような態度をとる人間を誰が信用する。」
チリ人は椅子を蹴り飛ばした。
とても大人には見えない威嚇の仕方だ。
これも海外の文化なのだろう。
ひでは怒りながらも速くココロに会いたい一心でその人質を置いて去った。
暗闇を走りながらバス停へ向かった。

夜中の電車やバスは何か物静かで音楽が聞こえてくる気がした。
バスの中には人は数人。
疲れ切って人生に希望を持っていない人もいれば、今から始まろうとしている人。
バスの中は電気が今にも切れそうな薄暗さ。
心もどんよりと霧が立ち始めている感じだ。
外を眺めると街灯が歩いている人を照らす。
それを見て感じる。不思議な感じだ。
暗闇から差し込む光が幸せを感じる半面、暗闇にもぐりこむ人間を見て不幸を感じる。
幻聴の音楽は幸せを運んでくれる音楽なのか、はたまた不幸を呼ぶ音楽なのか。
それ次第で今日の飲み会も変わってくる。
ただ、そんな事を気にしていても始まらない。
ひではとにかく急いだ。
心では誰よりも急いでいた。
しかし、そのスピードにバスは追いつけていない。
そわそわしていた。
そんな時だ。
おつまみが欲しいと言われた。
今から自分で買いに行くのにはバスの時間がない。
自分が配達で使っていたアプリを開いた。
そして、デリバリーアプリで注文した。
さっきまでは配達してた側だから不思議であった。
ひでは家に到着する時間を予想してその場にUBEREATSに注文をした。

到着と同時に商品は届いた。
なんとグッドタイミング。
今日はついている。そう思ったのだ。

しかし、ココロに連絡しても一切連絡がつかない。
寝てしまったのだろうか。
「ここまで来て裏切られた?」
過去のトラウマなどから少しおびえていた。
感情が不安に支配された。
寒かったはずの風すら感じることができなくなっていた。
きっと心の中がもっと冷えてしまったのだ。
それこそ過去の感情を実感する一秒前。
それを30分間永遠にループしていたのだ。
そして、ココロのルームメイトの未来から連絡がきた。
未来は学校で仲良くなった友達だ。
休み時間になると話しかけに来てくれる優しくて面白い人間だ。
身長は少し高めで誰とでも仲良くなれそうな愛嬌のある顔をしている。
「まって、ごめん通知切ってた。」
ひでは心の中に灯火がついた。
それと同時に外の寒さも実感した。

すぐに迎えに出てきてくれた。
未来が走ってきた。
「ごめん、寒かったよね~」

「大丈夫だよ~、冷水シャワーに比べれば!」
ひでは毎朝冷水シャワーを浴びてるで有名な人だ。
そのため、援護になったと思いそう返した。
ココロの姿や顔の雰囲気などイメージはある。
ただ、実際に一度会っただけで、それも二カ月も前だ。
フードを被りながら未来の後ろに隠れている。
「顔がうまく見えない。」
だんだんと光に照らされ見えてきた。
走馬灯ってこんな感じなのかな?
ドキドキと心が高鳴りはじめる。
スローモーションに感じる。
この前電話していた時とはわけが違う。
小さい顔に綺麗なまつ毛。優しさの中にある自分の世界観を放っていた。
そんなココロは少し寝起き顔だった。
何も言わずにひでの背中をさすって謝ってきた。
「しっかり寝ちゃった。」
ひではこういう言葉にめっぽう弱い。
二カ月ぶりにココロの顔を見た。
「暖かい」
心の中の言葉が漏れた。
ニコっと笑うココロはひでの心を奪っていった。
「寒いから中はいろう」
未来が切り出してくれた。

初めての女の人の部屋に緊張と家の暖かさで鼻水がこぼれそうになった。
ココロがこっちを見ながら
「ひで君はお酒強いの~?」
ひでは実際一般的には飲める方である。
「人並みには飲めるよ」
あまり強いなんて自分からは言えない。
粋がっている高校生みたいだから。
そこからココロのお仕事のお話を未来が助言したりと会話が始まった。
未来はとても真剣で的確に物事を言う。
なんか印象が一気に大人に感じるようになった。
今まではふわふわしてる子くらいにしか思っていなかった。
やはり、人間は猫を被ることもあるのか。
ひでは二人の話を聞いているととても不思議と楽しくなっていた。
それに対して未来は笑いながら言った。
「ずっとひで君笑って聞いてくれてるの優しいね」
きっと未来はひでがココロに気持ちがあることに気が付いている。
それに対して応援してくれているのだろうと思った。
「ありがとう」
ひではこの言葉以外見つからなかった。
その瞬間少しの沈黙が生まれ、時計を見てみると夜中の三時であった。
「もう三時だよ」
ひでは会話を作ろうとした。
「ひで君は明日何時から学校?」
「明日は午後からだよ」
そこにいきなり目が覚めたココロがハイテンションで提案をした。
「じゃあ映画見よう!」
さっきまで一番眠そうだったのに。
ただ、みんなで映画を見るのは楽しいかもしれない。
「千と千尋」
「千と千尋」
ひでとココロは同意見だった。
それに合わせてくれたのか未来も続けて
「それでいいよ」
あっさり決まってしまい未来は寝る体制に入っていた。
そのまま気が付いたら未来は爆睡していたのだ。
さすがに悪いと思ったひではココロと横のベッドにズレた。
途中でねてしまい、映画のエンドロールであった。
エンドロールの中二人は同じ布団を共有し、静寂に包まれていた。
ココロの髪の匂いにひでは安心を感じ朝まで寝ていた。
「こんなに違和感なく髪の毛を感じられるなんて幸せだ。」
単なる変態である。

ただお互い同じ布団で寝ることになにも感じない人間であった。
よく同じベッドで異性と寝るなんて考えられないと聞く。
その感覚がないのだ。
そして、ひではほかの人との感覚が違う。
距離感から何からもわからない。そういう人間だ。
今になって思う。
「なぜ、今まで愛を感じてこなかったんだろう。」

その点では居心地が良かった。
ただ、ひではココロの事が気になっている。
そのため、喜ぶと思い友人に聞いていた一般的な意見を思い出した。
「嬉しかったよ。」
そう伝えてしまったのだ。

結果は裏目に出てしまったのだ。
「そう思ってくれる人とは勘違いさせることになるから寝れない。」
正直じゃないところが悪い。そう思いながら頑張るしかない。

やっぱ感じる。
今が楽しい。
今を楽しまなきゃだめだ。
「今」というもの自体は人それぞれ考え方が違うため、それぞれの受け取り方で良い。
そう思う。

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