梅は咲いたか桜はまだかいな

保育士おへそのごま の保育エッセイ(27)

「梅は咲いたか桜はまだかいな」

「ごまちゃん!花咲いた!白い花!来て!いいから!」
Sくんが興奮して駆け寄ってきました。腕を引かれて連れていかれた先は園庭の隅の梅の木でした。Sくんの指さす先には、ぽっと開いた梅の花が二輪。

「おー、ホントだ。よく気がついたねぇ」
「うん、咲くかなーって見てたら咲いてた!」

 数日前に一緒に枝先を見上げて「まだ咲かないかな〜、だいぶつぼみが膨らんできたからもう少しだと思うんだけどね」なんて話していたのです。

 気になったことがらをよく覚えていて、関心を保って考え続けるのがSくんらしさ。

 そうこうしているうちに「なになに〜?」と他の子達も寄ってきて、みんなで枝先を見上げます。

「今年はたくさん梅の実がなるかもね〜」とつぶやいてから(そうか、もうこの子達とは梅の実をジュースにして一緒に飲むこともないんだよな)と改めて感じて寂しくなりました。
 Sくんも「でもオレ達そん時は一年生だもんな〜」と同じことを感じていたようです。Hさんは「小学校でも梅ジュース作って飲めばいいじゃん」と前向きです。

 季節の移ろいに間近に迫った別れを否応なく感じさせられますが、一方では成長への期待にもなります。子ども達には寂しさよりも期待に胸を膨らませて巣立っていってほしいもの。だから僕もあえてニヤリと笑って「別にいいんだよ〜、もっかい年長さんやっても」と軽口を叩いて見せます。すると「ヤダ〜!一年生になるんだもん!」と応じる子ども達。僕の言葉を子ども達に否定させることで、彼らの気持ちに区切りをつけます。

「でも大丈夫、でも大丈夫、ほらもうすぐ立派な一年生♪」卒園式で歌う曲の歌詞が自然と子ども達からこぼれてきました。

 きっと僕はこれから毎年Sくんの興奮した声と僕の手を引く力強さを思い出しながらこの木を見上げることになるのでしょう。Sくんがいつか梅の花を見てなにか懐かしい思いを持ってくれたらいいな。

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