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虫捕り網を自分で取るのはイケナイこと?〜ルールって変えられるんだ〜

保育士おへそのごま の保育エッセイ(17)

「虫捕り網を自分で取るのはイケナイこと?〜ルールって変えられるんだ〜」


「ごまちゃん、アミ取って」とTくん達がやってきました。虫捕り網を置いてある所へ行くと、Hくんが手を伸ばして自分で網を取ろうとしていました。年中組の子も見ていたので「年長さんとして小さい子のお手本にならなくちゃ。網は大人に取ってもらうはずだよね」と話しました。叱られた形になり、黙り込んでしまったHくん。
 少し時間を置いて話そうとごまは一旦その場を離れました。そこへ幼児フリーの同僚Aさんが通りかかり、ゆっくりと時間を取ってHくんの話を聞いてくれました。
 話の中で、自分はなかなか思っていることを皆の前やごまちゃんには話せないんだ。とHくんから打ち明けてくれたそうです。その後、通りかかった同じ年長児のKくんやSくんも加えて、じっくりと何がいけなかったんだろう?どうすれば良かったんだろう?と話し合ったそう。その中で、そもそもなぜ「網は大人が取ること」になっているんだと思う?という話になり、「小さい子が自分で持っていっちゃうと、危ないから」という部分に考え至りました。

 ルールや決まりごとが何のためにあるのか、を考え納得することはとても大切なことです。ただ、そこで終わらずに「おかしいな、不便だな」と思った決まりごとは変えていける、ということも子ども達には経験してほしいと思っています。

 この時も、「じゃあ、(小さい子は取れないようにして)ぞう組だけが取れるようにしたらいいんじゃん」という発想が子ども達から出てきました。ルールを変えるという提案です。実際問題として、子ども達も自分の欲しい時にタイムリーに網がもらえないことや、大人も手を止めて網を取りに行かなくてはならないわずらわしさがあるという不便さもあり、この提案は検討に値するものです。
Aさんも、「じゃあさ、それごまちゃんに話してぞう組(年長児クラス)会議でみんなで話し合ってみたら?」と実現への方向性を提示してくれました。それを受けたHくんは「でも聞いてくれないかもしれないし・・・」と気弱な面が出たのだそうですが、一緒に話していたKくんやSくんも「一緒に言ってあげるから」と支えてくれ、Aさんからも「だいじょうぶだよ、きっと話聞いてくれるから」と背中を押してくれました。

 そんな話が合ったことをAさんから報告を受けていたので、ぞう組会議の前に少しHくんと話しました。「Aさんから、話聞いたよ。ごまちゃんや皆に話したいことがあるんだって?」と水を向けて、話し合った中身を聞き出しました。そのうえで、それはすごく大切なことだから、ぜひ、ぞう組会議でみんなの前で話してほしい。とお願いしました。
ぞう組会議では、緊張しながらもこちらからの質問に答える形で、みんなの前でAさん達と話し合った内容やいきさつと「網をぞう組だけが取れるようにしたらどう?」という提案を話すことができたHくん。
 その提案を受けてぞう組会議は活発な議論になりました。まず問題は場所をどこにする?という点。ぞう組の子ども達が自由にとりにいけるところで、でも小さい子達には取れないところ。難しい問題かと思いきや、子ども達はあっさりと「自転車置き場の奥は?」と解決。確かに園庭いちばん奥の自転車置き場は現状ぞう組の子どもしか入ってはいけない場所になっているので、そこに網を置けばバッチリです。他にも、小さい子が網を欲しがったらどうするの?や使った網が出しっぱなしになっちゃったらどうしたらいい?などなどひとつひとつの問題を解決しながら話し合いは進み、最終的に「自転車置き場の奥に、きちんと数が分かるようにして網置き場を作る。入れるのはぞう組と年中組だけ。他の子が取ってほしい時はぞう組が代わりに取ってあげる、使い方も教えてあげる」という新しいルールができました。

 ただ、これはぞう組だけで決めたこと。今度はその決まったことを年中組や年少組、他の職員や事務所にも伝えなくちゃ。ということで、夕方の幼児全体のお集まりで、再度Hくんが皆に説明することに。さすがに一人では不安だということで相棒にKくんを指名して、でもほとんどをHくん一人で説明することができました。
 今回のことで、Hくんには、人前で自分の思いや経験(特になかなか他者の前で認められない叱られたことや失敗談)を話すという大きな経験を。自分のなんだか納得いかないという思いも大人に話せば受け止めてもらえるんだという経験も。
 ぞう組や幼児クラスの子ども達には、ルールが何のためにあるのかと考え、必要ならそれを変えることができるんだという経験を。話し合い活動の中で、ひとつひとつの問題に対して工夫したり考えを深めたりすることで問題を解決していく事が出来るという経験も。
 それぞれにとても大切な経験になった出来事だと感じます。

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