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カナダ・トロントのキャバクラもどきで給料不渡りされた話

※結構昔の話です

カナダ・トロントでワーキングホリデーを満喫し約10か月、コネを必死でつくってある小さなデザイン会社で無休インターンをしていた頃、お金が尽きかけた。トロントがとても好きになり、移民したいと考えていた頃だった。まず観光や学生ビザに切り替えてもう少しステイしたいと考えていた。

ワーホリビザもあと2か月で有給で職を探すのは難しい。
それでもあと2か月働けるビザで仕事を探していた頃、当時トロントの日本人向けの新聞「Bits」(現在は無くなった?)の求人ページの
「カラオケバーのウェイトレス募集・日本人の女の子ばかりで働きやすい環境・電話000-0000・J子(日本の女性の名前)」
が目に入った。その時私はステージでカラオケができるバーで料理を運ぶウェイトレスをする仕事という安易なイメージを持った。すぐに電話をすると女性が日本語で
「すぐに来れる?面接しましょう」
と言われ私は浮かれた。

様子がおかしい場所と面接

まず「ここに来て」と言われた住所がチャイナタウンで有名なSpadina Aveの端っこあたりで夕方現地にいくとレストランがない。看板もない。地下に降りる階段があってそこを降りると大小さまざまな薄暗い部屋が何個もあった。
J子が出てきて面接が始まった。持ってきた履歴書はそっちのけでビザの話もせず世間話をした。そして
「この店は会員制で日本人の駐在サラリーマンや韓国のお客様が来るの。来たら一緒にカラオケを歌ったり飲んだりおしゃべりするのが仕事よ。待機中の時給は15(カナダ)ドル、お客さんがきたらそれプラスチップね、今から働ける?体験でもいいわよ」(※当時1カナダドル85円くらい)
と言った。
「(普通のウェイトレスじゃなくてキャバクラもどきじゃん。。。求人広告に騙された。。。)」
と、最初嫌だなあと思いながらも、時給15ドル(当時にしては高かった)、インターンの時間が終わってからできる夜の時間の仕事、カナダにまだい続けたいという思いが強く、面接が終わったあと待機室でお客さんを待つことにした。

暗がりの小部屋で待機

夜7時くらい、2人の韓国人のボーイっぽい男の子も来ておつまみ用意や料理などを手伝っていた。
数人の女の子が待機室に来はじめた。覚えている限りだが全部で5-6人の女の子で、ギャルとそのとりまき2人、新人ぽい普通の人、黒髪の大人しい人などなど様々なタイプの女の子がいた。
当時スマートフォンが普及されたばかりの頃で誰も持っていなく、みんなの暇つぶしは本を読む、勉強するか雑談だった。キャバクラの類など経験の無い新人の私はその場の雑談のノリについていけなくてスケジュール帳を眺めめたりしていた。
1時間くらい経った頃、「(これで15ドル貰えるのか、、いいじゃん。。。頼む、誰も来てくれるな。。)」と思っていた。

客が来たその1 日本人の駐在員

一人の日本人の駐在員が来た。彼は多分20代後半くらいでスーツを着ていたのを覚えている。女の子達は
「あ、A子ちゃんのお客さんだ」
と言い、A子ちゃんは待機室の隣の部屋へ一人で行った。隣の部屋とはカラオケ屋によくあるガラスのついたドアで仕切られていて様子が丸見えだった。
駐在員とA子ちゃんは楽しそうに飲みながら喋っているだけだった。その日はそれ以降誰も来ないで22時頃帰宅。待機だけで45ドル、スケジュール帳に時間と金額を記入した。待機のお金はこの時点ではくれなかった。

客が来た2 韓国人のおじさん達

その次の日、足取りは重たかったが少しでもカナダに居続けたいという気持ちが勝って出勤した。20時頃、5人位の韓国人の男(40-50代)が客でやってきた。待機している4-5人の私たちは全員駆り出され接客をした。カラオケで歌うお客さんを盛り上げ、お酒を注いだ。先輩のギャルは接客がとても上手で場を盛り上げていた。会話は少しの日本語と英語だった。男性たちが日本の歌を沢山歌っていたのを覚えている。そしてお酒を強要したり触られたりすることはなかった。「はやく帰りたい」とだけ思っていた記憶がある。おじさん達は女の子がテレサ・テンの歌を歌うととても喜んでいた。

宴会が終わり、J子が一人100ドルずつくれた。

辞めると伝える

結局週3-4回行って接客したのは合計2回、あとは全部待機で3週間くらい過ぎた。
そもそも酒は飲めないし、お触りは無いとはいえ、自分に合っていないと思った私は辞めると決意した。辞めることをJ子に電話をしたら
「今日日本人の駐在員が7人くらい来るの。今日だけでも出てほしい。今日が最後でもいい」
と言われた。待機のお金も貰ってないのでこの日を最後の仕事にしてお給料をもらってやめることにした。

出張ホステス

夜7時、いつもの場所に行くと職場のビルから煙が出ていた。消防車が数台停まっていた。火がすごく出ているとかではなく、煙がモクモクと上がっていた。
J子に電話をすると、火事の事には触れず、
「会場が変更になったから○○駅で待ってて。車で送っていくわ」
と言われた。駅前で待っていると車が来て韓国人の男に名前を呼ばれ車に乗った。数人の女の子たちが乗っていた。
内心ドキドキした。どこかへ売り飛ばされるんじゃないかと不安だった。そんな中車で20分くらい、ダウンタウンから離れたところに着いた。

会場は韓国系の大きなカラオケレストランだった。ステージがあり、食事が取れるところでソファ席もある。キャバクラとレストランが一緒になったようなところだった。やがて私たちのお客さんが7人位来た。
お客さんは会社名は忘れたが大きい企業の駐在員さんだったのは覚えている。上司と部下っぽい人達でその日もギャルが中心となって盛り上げていた。カラオケはしないである意味合コンみたいな感じだった。それでも酒が入って下世話な話になっていく雰囲気は慣れてなく、酒が飲めない私にとっては嫌々だったのは覚えている。

1時間後位、私の隣に座っていた酒が回った駐在員は、遂に触ってきたのである。最初は「あれ?触られてる??偶然??」と思っていたが徐々に触られていると確信し、すぐさま席を立ってトイレに行った。そのあと席に戻りたくなくて外に出た。

凍える白人と私

その日マイナス15度。店の前で白人の同じくらいの歳の男性がパーカー姿で震えながらたばこを吸っていた。目の前は雪景色。人通りもあまりない。
「(何をしているんだ私は)」
インターン先の優しいオーナーの顔や今までお世話になったカナダの知り合いの顔を思い出しながら宙を見ていた。
店の前でぼーっとしていたら、たばこの人が
「寒いねえ。。どこの国の人?」
と、話しかけてきた。
「日本人です。ここの人?」
と聞くと
「うん。近所に住んでる。たばこ吸う場所がカナダは無いよねえ。たばこいる?」
と言った。私は昔たばこを吸っていてカナダに行くのを機に止めていたが、たばこを貰って久しぶりに味わった。二人は無言でガタガタ震えながら雪景色を眺めていた。たばこは不味かったけれど今でもあの時間はよく覚えている。

たばこを吸い終わり、カナダ人にお礼を言い、意を決して店に戻った。お触り駐在員の隣は避けて端っこに座り、残りの時間をやり過ごした。

100ドル貰って終了。待機時間の給料は後日ということで無事に家に着いた。

お給料をもらいに後日お店へ

もう2度とこの仕事はしないと誓い、給料を貰いに行った。火事になったお店とは別のところを指定されそこに行った。スケジュール帳に書いていた時間と金額をJ子と大柄な韓国人の男性に見せて待機時間の給料合計800ドルくらいを求めた。J子は韓国人の男性に小切手を切らせ私に渡した。すんなり終わった。
これを機会にあと数か月のワーホリ時間とインターンを楽しんでそして日本に帰ってから移民手続きやカレッジ入学も視野に入れて日本でまた仕事をしようと誓いながら帰宅した。

不渡り

翌日銀行(韓国系)に行ってお給料の小切手を換金しようとしたところ、給料不渡りだった。混乱する私に銀行員が
「この小切手はbrokeしている、お金は出せない」
と、しきりに言っていたのを覚えている。J子に電話すると
「そんなの知らないし、銀行が悪い」
の1点張り。もしかして不渡り、、、?道理ですんなり小切手を切っていたと思った。その頃ルームシェアしていた一人が韓国人のおばちゃんだったので相談した。韓国系の銀行だったので銀行に電話をしてもらい韓国語で話をして貰ったが結局のところ私は不渡小切手を掴まされたのだった。ルームメイトのおばちゃんは
「そういうところ(J子みたいな所)は信用しちゃだめよ」
と言った。私はすぐにJ子に電話した。だがJ子は開き直り聞く耳を持たなかった。その時私は何を思ったのか、
「今週父がトロントへ来るので父とそちらに伺います」
と嘘を言った。当然J子は狼狽えることもなく
「お、おぉん、、」
と言い電話を切った。それ以降J子には会っていない。

約1か月、200ドルを稼ぎ、嫌な気持ちで過ごしただけだった。そして自分がどんでもなくバカだったと反省した。
そしてワーホリ残り1か月、割りきってインターン先での仕事に全力を注ぎ、個人移民の申請の際には協力してもらう約束をしてもらうまで仲良くなった。そしてワーホリ期間は終了、帰国した。

現在

これを書くにあたって久々にJ子はどうしているんだろうと気になりググってみたが、私がいた年の1年後くらいの掲示板の情報しかなく、そのカナダの掲示板には
「J子にだまされるな」「その仕事はカナダでは違法」「お金を稼ぎたい女の子が餌にされる仕事」
などと書かれていた。違法(掲示板の情報だけなので不明)だということも知らないで私は本当に馬鹿だったなぁと思った。

J子は今何をしているんだろうか。もう70-80代だと思う。結局日本人なのか韓国人なのかもわからない。
現在もトロントでは同じようなカラオケバーの求人はあるみたいだが、どうか気を付けていただきたい。面接会場兼職場のキッチンでイカの塩辛を手作りしている女の人がいたらそれはJ子かもしれない。

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