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映画感想文│『JOLT』

Amazonオリジナルのアクション映画『JOLT/ジョルト』を鑑賞。

あらすじを読んだ限りではスーパーヒーロー寄りのスパイ映画かと思ったが、スーパーでもヒーローでもスパイでもなかった。ではナニ映画かと問われれば、オトナの恋愛&失恋コメディ映画にバイオレンスを添えてといった感じであり、悪く言えば眠たい映画だった。

しかしやりたいことも言いたいこともわかる。うんうんそうだよね!でもね…。

みたいな感じで、惜しい!と思える箇所は幾つも見られる。導入で主人公の生い立ちと困難な状況(実在する病気らしい)はサクサク説明してくれた。これがもし『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』の手紙を読むシーンみたいに「おや」と思える新しさを含んでいたら惹き込まれただろう。惜しい。

暮らしにくい日常生活を送る様子は共感できる部分も多くて悪くない。これがもっとコメディ寄りにテンポ良く展開されるか、或いは『ザ・コンサルタント』のように少し重厚で含みを持たせる演出なら尚共感を得られたのではないだろうか。惜しい!

TAXI』よりノンビリした眠たいカーチェイスも、深夜の街をマクラーレンの鮮やかなボディが駆け巡り、エンジン音をウォンウォン言わせて存在感を出しているところは単純にカッコ良い。けれど圧倒的に疾走感と緊張感が足りない。『アウトロー』のカーチェイスは派手さこそ無かったもののトム・クルーズが本当に運転しているからこその、リアルなアクシデントによる緊迫感や焦燥感が観る者の心を惹きつけた。

マニュアル運転を思い出しながら逃げている筈なのに余所見したりベラベラ喋ったりと妙な余裕を見せているあたりがチグハグな印象だし、折角クールな高級車で走っているのに顔や足元のアップが多いのも勿体ない。惜しい!!

そして肝心のアクションは、見栄えが良くて派手なのは想像の中だけであり、それも『イコライザー』や『シャーロック・ホームズ』のように理屈っぽくもなければ『アトミック・ブロンド』のような衝動も感じられない。格闘戦はスタント多めなので、ダイナミックな画作りをしづらかったのかも知れない。

衝動こそが重要な本作。瞳のアップなどでソレらしい演出はあるのだが、説明的過ぎるのと使い回しを多用し過ぎるせいで主役であるの魅力自体も引き出されていないように感じた。説明的なシーンの象徴はポストクレジットで、あのカットは完全な蛇足だと思う。観客はそりゃそうでしょうね…としか思わないのではないだろうか。でもやりたかったことはわかるのだ。惜しいのだ…。

またシナリオについても最初から続編を想定した作りにしている感じで、やたらと散らかしてはみたもののラストの展開がバレバレで、それでも想いを断ち切れず赦してしまうのか、それとも決別するの…?というリンディに初めて芽生えた恋愛感情のゆらぎを見せるのかと思いきや、アッサリと爆殺してしまうのだ。結局最初から最後まで、誰にも感情移入できないのだ…。惜しい…(のか?)。

しかしそれぞれのキャラクター自体はわかりやすく描かれているので、そこで余計な混乱を招くようなことはない。悪役がどいつもこいつも噛ませ犬にしか見えないのも、それほど悪くない。ただ一度無傷で追い返しておきながら、再潜入を許す間抜けさには養護のしようがない。

そして終始マヌケでしかない警察諸君には猛省を促したい。赤ん坊を投げるような奴は一刻も早く射殺すべきだし、そんな走りにくそうな靴で現場に出てる場合じゃない(リンディもだけど)。

赤ん坊のシーンに限らず、リンディの振る舞いは目に余るところが多いのも良くない。まずリンディに限らず全体的に下ネタが多い上、それらが効果的に作用することなく単なる品の無い景色にしかなっていないのは残念なところだ。そして何より、好き好んで暴力を振りかざしているようにしか見えない場面が多い。暴力に溺れそうな自分の本性に抗おうとする…という葛藤が観られればもっと面白くなってたような気もするのに…惜しい…。

写真という希望を見出したが、最後にそのカメラを捨てることで自立を描く…というのも理解はできるのだけれど、そこに至る心情描写は殆ど無く、そのくせカメラを奪還する場面では嬉しそうな表情になっているのがまた混乱を招く。

あらゆる面で狙いは良かったような気がするのだが、予算のせいだろうか、それ以外が追い付いていない。各々の芝居は悪くなかったのに、本当に色々と惜しいのだ。

リンディの腕にあるタトゥーは一体何なのか。頬の傷はいつできたものなのか。あんだけ暴れておいて何故頬にしか傷が無いのか。作中でも語られている通りだが、あの体格でどうやってゴリマッチョを薙ぎ倒すのか。どうして銃撃戦ではなく格闘戦が主体なのか…などなど謎は尽きないのだが、これ以上書くと単なる悪口になりそうなので控える。

いっそのこと続編よりもリブートの方が良さそうに思えるが、それでも続編が出れば私は観る。観るぞ!


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