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映画感想文│不気味の谷の『アリータ:バトルエンジェル』

上の子と一緒に『アリータ:バトルエンジェル』の吹替版を鑑賞。

公開当時はアリータのビジュアルがどうしても怖くて観に行くことができなかった。更に原作である『銃夢』も読んだことがない。

子供と一緒に「何観ようかなぁ」となっている時に観るのに丁度良いと思い、特に多くは期待せず軽い気持ちで観始めた(後で確認してみたら12+って書いてあったけど…)。

良かったよ、アリータ!

結論として、原作未読の私は大変満足できた。「没落戦争(ザ・フォール)から300年…」という説明から始まる本作だが、その簡単な記述意外に説明的なセリフは殆ど無い。直後には天空に浮かぶ都市「ザレム」から投棄される鉄屑をカメラが追い、その遥か下にある地表で屑鉄漁りをする人間の姿が映される。これだけでかなり多くの情報がもたらされ、そのテンポの良さに冒頭から引き込まれてしまった。

問題視していたアリータの姿については、やはり最後まで違和感がつきまとう。特に感情を露わにするシーンなどはギョっとしてしまう。が、それらは必ずしも悪い方に作用していない。何しろこの世界では数え切れない程のサイボーグが生活しており、冷静に見ればそれら全ての違和感が目に付いてしまうだろう。更にいくらサイボーグとは言っても無理があるんじゃないか?と思わずにはいられない格闘戦も、アリータを生身の人間が演じていたら相当な違和感が残っただろう。しかしアリータのビジュアルがそれら全ての違和感に蓋をして、まぁこれはこれでアリか。と思わせてくれる。

意図的かどうかは別として、これは面白い発見であった。何故か『アバター』は同じような違和感が邪魔にしか感じられず、未だ最後まで鑑賞できていないのだが、本作は非常に受け入れやすい仕上がりとなっていた。日本の漫画が原作であることも影響しているのだろう。

展開の速さが好印象

そんなアリータを拾ったイド役はクリストフ・ヴァルツであり、単なる善人かどうか疑わしく感じさせる良い配役だった。裏の稼業について明かされる場面でのミスリードにもそれが効果的になっており、更にそれについてもダラダラ引き延ばしたり過剰な演出をすることなくサラリと受け流してアリータの見せ場へと突入する。配役に加えて、このあたりの展開の速さも良い。

展開の速さで言えば、アリータのボディ換装に繋がる一連の流れも、結果的にアリータの狙い通りとなるミエミエな展開ではあるものの、酒場での乱闘シーン(ハリウッド映画の酒場って何であんなすぐ乱闘になるの…?)やグリュシカの生い立ち解説などきちんと情報を落とした上で、グリュシカとの因縁を深めるというイベントもこなすという密度のお陰で自然な流れに見せていた。酒場で急に人物紹介が始まるあたりはまぁ仕方ないかなという感じだが、同時にザバンの嫌なヤツ感も際立たせていたので退屈せずに観ていられる。ただ、画面に映らないとは言え、犬を殺してしまうのは気に入らなかった。そしてその後の化粧や標語についても特に大きな意味が無かった点は気になった。原作にあった要素なのだろうか。かなりカッコイイ場面なだけに勿体ない。

アリータがボロボロになりながらも一矢報いる戦闘は、ロボットならではのある意味お馴染みの演出となっており、ちょっと無理はあるものの「こまけぇこたぁいいんだよ!」と思わせる勢いがあった。半壊しながら戦うロボットが、男の子は全員大好きなのだ。

人間とアンドロイド

そんなアリータが心臓を差し出そうとするシーンは本作の中でも特にギョっとする部分ではあるが、ボディを換装したアリータにとっては本当に痛くも痒くもない提案だったのだろう。その提案をヒューゴが蹴ることで、彼がアリータを大切に思っていることと、そんなアリータに自らのコアを大切にして欲しいという願いが表現されていたのだろう。目まぐるしい展開の中で、人間とアンドロイドの恋愛が成立するかどうかというドラマをきちんと挟んでいた。ただそのドラマが少し希薄だったために、2人のシーンがどれも間延びした印象になってしまったのは痛いところだ。特にヒューゴはこのシーンくらいしか見せ場が無かった。

対照的にイドのアリータ(どちらに対しても)に対する愛情は上手く描かれていたように思えた。最初は激戦に身を投じる生き方を忘れ、平和で人間の女の子らしい暮らしをして欲しいという本物の娘にダブらせた愛情だったのが、次第にアリータ自身の願いを叶えてやりたいという愛情へと移ってゆくのだ。

チレンについても本当は同じような感情の移り変わりがあったのだろうが、彼女に関してはイドと比べると尺も短く、どうしても唐突な印象が残ってしまう。最後は衝撃的な姿となってベクター(ノヴァ)の手に落ちている上に折角助けたアリータからは大した関心も向けられなかったことも考えると、色々な意味でかなり可哀想なキャラクターだ。自業自得ではあるのだろうけれど…。

モーターボールとサイボーグ

本作には実にバリエーション豊かなサイボーグが登場し、それらは概ね戦闘方面に特化している。従って日常シーンで登場することが難しいので、「モーターボール」なる競技にてお披露目されることになる。ここに登場する様々なビックリドッキリメカもまた見ていて楽しいし、序盤にヒューゴー達と練習するシーンがあるからこそ、モーターボールの疾走感も臨場感あるものに仕上がっている。吹替版では実況を古舘伊知郎が当てており、違和感ないアナウンスとなっている。1度目ではやや事務的な実況だったのが、2度目のアリータ包囲戦ではノリノリな感じになっているのも面白かった。どうしても競馬っぽい印象になってしまうのが玉に瑕ではあったが、それはそれで楽しめた。

良い部分は多かったモーターボールだが、どうしてもポッドレース感が拭えない。そう思えてくると急激に退屈で「長いなぁ…」となってしまうのは残念でならなかったが、これはきっと私のプリクエルアレルギーに起因するものなので、本作の作りが悪いわけではないだろう。まさかジェイ・コートニー演じるチャンピオンの活躍が全く描かれない上にクレジットにも表記が無いとは予想できなかったが、友情出演的な感じだったのだろうか。同様にエドワード・ノートン扮するノヴァについても表記が無く、どういった狙い或いは事情によるものなのか気になってしまう。

ラストと今後

ノヴァについては散々印象付けた上でラストの意味ありげなカットまで挟んでいるにも関わらず最後は「俺たちの戦いはこれからだ!」形式で終わるという、拍子抜け感を否定できないものになっていたが、それ故最初から最後まで徹底してザレムの詳細は見ずに終わった。これについては意見が分かれるだろうが、私はこれで良かったと思う。どんな場所だかわからないままで終わるからこそ想像は膨らむのだ。

そもそも300年前の戦争は侵略戦争だったのか。ザレムの支配体制に耐え兼ねた反抗勢力の武力蜂起であり、アリータはその精鋭部隊だったのかも知れない…とか何とか考えてみても、きっと詳細は原作で語られているのだろう。

だから私は敢えて原作を読むことなく、続編を待ちたいと思う。興行的にイマイチだったので続編が作られるかどうか怪しいところではあるが、それでも私はこの映画が気に入ったのだ。だから原作の知識を入れてしまうことによる「原作と違うなぁ」状態を避けたいのだ。

我が子の様子

さて、私の隣で最後まで退屈することなく鑑賞していた我が子(4歳)。鑑賞中には大小さまざまな質問を投げ掛けてきたが、その目は画面に釘付けだった。アリータが劣勢になると目を覆ったり頭を抱えるような仕草で反応し、戦闘シーンでは素直な応援や興奮のあまり両手をブンブン振り続ける様子も見られた。

まだまだ理解できない要素は多いだろうが、本人なりに色々と解釈できていたようで、ラストは「なんでおわっちゃったんだー!」と叫んでいた。ここからが本番だということは理解できていたのだろう。

鑑賞後は妻に対して猛烈な勢いで印象的だった場面の説明や感想を述べており、何も知らない妻は呆気にとられることしかできなかった。

楽しかったようで何よりだ。

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