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おじいさんとおばあさんと柴刈り


ある山あいの里のはずれに、おじいさんとおばあさんが住んでおりました。

おじいさんとおばあさんは2人暮らしです。今日も、2人で朝ごはんをいただきます。小さなちゃぶ台に並ぶのは、ご飯とお味噌汁とおばあさんの漬けたぬか漬けです。

「あぁ、ごちそうさま。おばあさんのご飯はいつもおいしいね。このぬか漬けもいい浸かり具合だねぇ」
「まあ、おじいさん、ありがとう。嬉しいことを言ってくれるねぇ」2人は和やかな朝のひとときを過ごします。

朝ごはんが終わるとおじいさんは、山へ芝刈りに出かけます。・・・と、今日は珍しくおばあさんもおじいさんについて芝刈りに出かけました。


2人は仲良く並んで山の小道に入って行きました。

「おばあさんや、今日はおばあさんも柴刈りに行ってくれるのかい?」と、おじいさんは尋ねました。

「そうですよ、私も行けば柴刈りが少しでも早く終わるでしょう?早く終わればおじいさんも趣味の川柳作りをする時間がたくさん持てるでしょ?」

「おぉ、それはうれしい。助かるよ、今度の趣味の会に持っていく句がまだできていないからねぇ。それを作りたいと思っていたんじゃよ。それに芝刈りも1人で行くより2人で行った方が話し相手もできて、楽しいしねぇ。」おじいさんは嬉しそうです。とはいえ、おばあさんにはおばあさんの仕事があります。おじいさんは心配になって尋ねました。

「じゃが、おばあさん?、おばあさんが芝刈りに行ってしまうと、川へ洗濯に行けなくなってしまうよ。大丈夫なのかい?」

そう聞かれ、おばあさんは、待ってましたとばかりに堂々と答えました。
「おじいさん!、これから先、私たち生い先短いものは、残りの時間を有意義に過ごさなくてはいけないと思うのよ。」

「え?、ええ??、おばあさん?いきなりどうしたんだい!?」おじいさんは、おばあさんの突然の発言に驚きました。

「私はね、少しでも時間を作って自分自身のために使うことを考えようと思うの!」おばあさんは、前々から考えていたことを話し出しました。

「ほーほー、確かに。わしは「川柳の会」にも行けるけど、おばあさんはずっと家のことをやってくれているから、自分の好きなことをする時間なんぞなかったからねぇ」そう言いながらおじいさんは日頃、炊事や掃除、洗濯庭の畑仕事で忙しそうなおばあさんを思い出していました。

「そうなのよ。よく考えてみれば私たちは2人暮らしだから、洗濯物だって毎日そんなに多くはないわ。だから、お洗濯は1日おきでいいと思うの。」おばあさんはじっくり話します。

「そうだなぁ。確かに毎日、川へ洗濯に行くより、1日おきの方が合理的でいいよなぁ。だけど、二日分となると洗い物が倍になるからやっぱり大変じゃないのかい?」と、おじいさんは、おばあさんの顔を伺いました。

「そこなのよ、おじいさん!これからは働き方を見直して、それぞれの家の生活様式に合ったやり方を見つける時代なの。」と言っておばあさんは、急ににぎり拳を力強く突き上げました。目をまんまるに見開いて口をぽかんと開けて自分を見ているおじいさんに向かって畳みかけます。

「おじいさんには、おじいさんの、私には私のライフスタイルにあった暮らし方をするべきなの。世間には、「多様で柔軟な働き方を選択する時代」が来ているの。今のままではダメなのよ!?」

「は、はぁ、、?」おじいさんは、おばあさんの威勢の良さにおののきました。

そんなおじいさんのことなど見向きもせず、おばあさんは続けます。

「だから、私には全自動洗濯機が必要なのよ!今日帰ったら、アマゾンへ注文しておきますから、あとはお願いしますよ!」

「は、はぁ・・はぁ~!??」

おじいさんは、おばあさんの勢いの前に何もいえませんでした。大地をガシガシ踏みしめながら、力強く歩みを進め「やり切った感」満載のおばあさんの後ろ姿をただただ口をぽかんと開けて見つめるしかありませんでした。

そしてその勇ましい姿に

「ばあさんの 柴の見返り 洗濯機かな」

と、一句浮かんだのでした。

おしまい。



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