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小説『コノオト』

 関節に不快感を飼っている。その日は夕方に起きた。罪悪感と謎の開放感せいで俺は街へ出たくなった。財布と携帯だけ持って街へ繰り出す。しかし、当然何かすることもなく無意味に足に疲労を貯めることになる。満たされない、そんなこと毎日思ってはやり過ごしていることなのにこの日だけはどうしても満たされたかった。そんな俺の目に派手な電飾看板が目に入る。自動ドアが開くと音の波が心地よく皮膚を刺激する。カオルに行かないと約束してから二ヶ月間、一度も裏切ったことはない。なのに、なぜなのだろう、こういう時、人という生き物は頭では分かっていてもいとも簡単に禁を犯すものだ、息をするように俺は台に万札を入れた。
 何時間たっただろうか。俺の一万円はなんと7枚に増えていた。快勝、まさにこの二文字が似合う。これならカオルも許してくれるだろう、そう思いながら玄関のドアノブを捻るが開かない。まだ帰っていないのだろうか、でも案ずることなかれ、こういう時のためにポストに鍵を隠してある。ない。なぜだ、カオルが家に居なくても俺が鍵の開け閉めを出来るように鍵はいつでもポストに入れてあるはず。取り敢えずカオルに連絡しようと思いLINEを開く、するとそこには衝撃の文章『別れましょう。二度と会いに来ないで下さい。あなたの荷物はカバンに詰めて駅のロッカーに預けておきました。↓番号です。さようなら』「わぁお」嘘みたいな現実に嘘みたいな反応をしてしまった。

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