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40過ぎて、好き嫌い
小さい頃から、好き嫌いなく何でも食べてきた。「なんでもおいしく食べる子だねえ」って言われて育った。目の前で父と母が「おいしいねえ」「おいしいよう」って言いながらもりもり食べていたから、私も同じ気持ちでもりもり食らい、もりもり育った。
それに出会ったのは、40過ぎだ。いつものようにお腹が空いて、いつものように居酒屋さんへ入った。「フレンチおでん」が売りのお店だった。
でっかい大根のおでんが目を引いた。そのお店の大根おでんは、「トリュフソース」がかかっていることがポイントのようだ。へええ。食べたことないなそんなの。好奇心ひとつで注文する。
やがて出てきた料理たちのひとつが、その「トリュフソース」のかかった大根おでんだった。まず他の料理に手を付けながら、今までにない違和感を抱く。うーん、変な匂いがする。土の匂い? けものの匂い? なんだろうこれ。この匂いを私は、嗅いだことがないけれど、この匂いを私は、……うん、嫌いだ。
匂いのもとに目を向ける。はっきりと、大根おでんから匂ってきている。ああ、ごめんなさい。無理。お店の人に言って、下げてもらった。ひとくちも食べずに。
自分に好き嫌いはない、と思って育った。でも違った。好き嫌いはあったけれど、出会ってなかっただけだった。なぜかちょっとうれしかった。私にも人並みに「好き嫌い」があるんだ……!
でも出会いがあまりにも一瞬だったので、ふと「トリュフ味のポテチ」とかに出会うと、その前で立ち止まってしまう。あのときの、大根おでんの匂いが、思い違いだったりするかもしれない。「大根おでんの上にかかったトリュフソース」がだめなんであって、「トリュフ味のポテチ」はもしかしたら大丈夫かもしれないよと、冒険心が耳元でささやく。
幸いなのは、「トリュフ味の○○」はたいていそこそこのお値段がすることだ。冒険心に負けずに、手を伸ばさずに済んでいる。
40を過ぎてもなお、自分の知らなかった自分がいる。うれしいな、と思う。自分が思ってる自分は、まだ一部分にすぎない。今できないことが、いつかできるかもしれない。それを勇気に換えて、48歳を生きている。(2021/09/11)
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