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エッセイのご紹介416 犬と牡丹(小黒恵子著)

 こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。

 今までは、神奈川新聞のリレーエッセイをご紹介してきましたが、今回は、神奈川新聞のサンデーブレイクに掲載されたエッセイをご紹介いたします。

 記念館には、自筆の原稿が残っており、ここでは、原稿の方をご紹介します。実際の記事は、校正を重ね、少し異なっています。
 詩人の書いたエッセイ、独特の言葉選び等を感じていただけると幸いです。

エッセイ タイトル一覧(小黒恵子自筆の原稿より)

「犬と牡丹」
                    詩人・童謡作家 小黒恵子

 日本画家の小倉遊亀さんの牡丹の絵が好きだ。そよ風にうすい花弁がひらりとかすかにゆれる気がする。
 観る人の心を和ませ豊かにしてくれる。
 今なお現役で描いている遊亀さんは明治二八年生れ、数えで百歳だそうだ。
 遊亀さんの牡丹と言うと、十年前に八五歳で亡くなった母を思い出す。
 いま十一歳になるシーズー犬が来た日、獣医さんが篭から出したとたん母が「あれっこの子、小倉遊亀さんの牡丹の絵にそっくりね。」と言った。
 一瞬みんなびっくりしたが、まだ伸びきらない子犬の頭部の柔らかい毛が開いたさまは、なるほど牡丹の花にそっくりだった。
 それから暫時「牡丹ちゃん」と言っていたが、毛も伸びフクロウのようなまんまるい目玉が目立つようになり、いつのまにか「ダンちゃん」になってしまった。
 今年は国際家族年、家族ってすばらしい。泪がでるほど美しい。年とったダンをはじめ動物達と私の五人家族は、愛と信頼で支えあっている。
 この初春早々病気で寝込んで了った私を、なめて治す動物の習性を発揮して、食事も求めず看護してくれた。
 この家族達に心配や悲しみを与えてはならないと強く思った。
 こんな時私は家族を抱きしめて、暖かい涙と共にたくましく生きる力が湧いてくる。牡丹のように暖かく美しい幸せを築いていこうと、国際家族年の初春に改めて思った。

1994(平成6)年1月16日 神奈川新聞サンデーブレイク掲載の原稿

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 次回も、小黒恵子の神奈川新聞のサンデーブレイク原稿をご紹介します。(S)

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