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エッセイのご紹介418 あじさいの花帽子(小黒恵子著)

 こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。

 今までは、神奈川新聞のリレーエッセイをご紹介してきましたが、今回は、神奈川新聞のサンデーブレイクに掲載されたエッセイをご紹介いたします。

 記念館には、自筆の原稿が残っており、ここでは、原稿の方をご紹介します。実際の記事は、校正を重ね、少し異なっています。
 詩人の書いたエッセイ、独特の言葉選び等を感じていただけると幸いです。

エッセイ タイトル一覧(小黒恵子自筆の原稿より)

「あじさいの花帽子」
                   詩人・童謡作家 小黒恵子

 六月の雨はうす紫。うす紫の花は紫陽花(あじさい)。心変わりの花言葉がよく似(に)合う花の色。
 移り変る妙(たえ)なる色がこよなく美しい。
 若いころ伊豆の海洋公園に行った時、みごとなピンク系の西洋紫陽花に、私は思わず歓声をあげてしまった。
 かつて見たこともない大輪の紫陽花だった。私は一つとって頭上にのせてみた。
 まるでオ-ダーメードのようなぴったりの、紫陽花の花帽子だった。
 過日久しぶりで本棚を整理していると、花帽子をかぶったその時の私の寫真が、数葉でてきた。
 インド更紗のロングスカートに、花帽子の調和がすてきだった。そして私も若く美しかった。
 思えばそれは二十数年前の、ある別離の日だった。
 思い出は紫陽花いろに、遠い雲の彼方に、時として美しくよみがえるものだ。
 夏のヨーロッパの旅で印象に残るのは、窓辺を飾る西洋紫陽花の美しさだ。旅人の心を和ませてくれる丈でなく、町の美観の面からもその存在は大きい。
 十数年前にアフリカのケニアへ旅をした。モンバサの海岸の暑さは目もくらむばかりだったが、標高二千米以上あるトムソンホールズの寒さには驚いた。もっと驚いたのは、なんと、うす紫の日本の紫陽花が、あたりの風景に溶けて美しかった事だ。
 同行された元上野動物園長の故林寿郎氏とその紫陽花の美しさに乾杯した。
 花にはいろんな思い出がある。この地球に花があるから人生は楽しいのだ。

1994(平成6)年6月5日 神奈川新聞サンデーブレイク掲載の原稿

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 次回も、小黒恵子の神奈川新聞のサンデーブレイク原稿をご紹介します。(S)

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