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No.527 小黒恵子氏の紹介記事-93 (「古い歌を伝えたい」)

 こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。

 様々な新聞記事等をご紹介しています。今回は、雑誌に掲載された小黒恵子童謡記念館の記事 をご紹介します。

川崎の自宅を童謡館に 詩人の魂 「古い歌を伝えたい」小黒恵子さん

◆小黒恵子(おぐろけいこ)さん
昭和三年、川崎市生まれ。詩人・童謡作家。三十八年サトウハチロー氏に師事し、童謡集や詩曲集、合唱組曲など約四百曲の作品を発表して日本作詩大賞童謡賞、日本童謡賞、赤い靴児童文化大賞などを受賞。作品はNHK「みんなのうた」、小学校の合唱曲など多くの人に親しまれている。

人間いきいき
街の中で、子供たちの歌う童謡を聴かなくなった。私たちが幼かったころは、ふと折々に、皆で口ずさんだ気がするけど、のんびりと・・・・・。小黒恵子さんはプロの童謡作家。時代の感覚を鋭くとらえ、現代っ子たちに受ける新しい歌を次々に発表している。
その小黒さんが、自宅を提供して「童謡記念館」を独力で開設した。「昔の童謡を忘れないで―」と。                                                                (久保 礼子)

11年前の広大な屋敷を大改造       
木製の蓄音機や78回転盤が

童謡記念館は、予想をなるかに越えて素晴らしいものだった。川崎市指定の保存樹となっているけやきが四本も植わっている緑豊かな敷地に、明治十二年建築、百十三年前の広大な屋敷。重厚な扉を開けて中に入ると、白壁に大黒柱と梁(はり)を残しただけの簡素な空間が広がる。そこにかずかずのアンティークな蓄音機とオルゴール。グランドピアノ、銅製の大きな彫刻とベンチ。よく、個人でこれだけのものを・・・。
「日本人でありながら、日本建築を知らないという人が最近は増えていますね。だから、この建物を残したい、と。壊して新しく建て直した方が、むしろ簡単だったんです。童謡は私の仕事ですが、昔のものがあって、時代にあった新しいものがある。古いものを残して伝えたいと思っています」
かつては廊下だったという窓辺に、今は展示ケースが設置されているが、中には廃盤になった七十八回転のレコードがギッシリと並べられている。小黒さんがその一枚を、ラッパ部分も木製の古い手巻きの蓄音機でかけてくれた。なんとなつかしく優しい音色だろう。
「雑誌で呼び掛けたら、全国各地からレコードが送られてきたんです。今、ここにあるのは約三百枚。遠方から、わざわざ持って来て下さった老夫婦もいらっしゃいました」
小黒さんが童謡を書き始めたのは三十五歳の時。当時は喫茶店を経営していたが、そこの常連客だった画家の谷内六郎さんとの出会いがきっかけだった。
「谷内さんが週刊新潮の表紙を描き始めたころで、よく原画を見せて頂きました。見せられる度に、子供の世界に目を開かされて・・・・。自分の心に童心があるのだと思います。創っていて、とても楽しい」
サトウハチロー氏に手ほどきを受け、三年目に「自分の色でやりたい」と氏の元を離れた。“自分色”のテーマは、一貫して自然や動物への愛と平和の願い。
記念館の二階へ上がると谷内六郎さんの描いた絵、赤い鳥のバックナンバー、著名詩人から小黒さんにあてた書簡や小黒さんが創った童謡の原稿など、小黒さんの大切な思い出のかずかずが展示されている。
小黒さんには、兄弟姉妹も子供もいない。たったひとりの身内であったお父様も三年前に亡くなられたとか。それだけに、自分の生涯をかけたものをより多くの人に残したい、とエネルギーを注いでいるのだろう。毎週末(土、日曜)に開館している記念館では、訪れた人たちにレコードを聴いてもらい、専属のピアニストが生演奏、歌唱指導を行っている。
「昨年七月、一周年記念として『賢治の民話の語りと童謡』を行いました。十一月には『落葉たきと童謡』。これは、庭に出てアコーディオンの演奏で童謡を歌いながら、落ち葉を集めて焼いもを―という企画。童謡は、情操教育の土壌だと思うんです。子供たちに落ち葉のにおい、風のにおい、土のにおいを感じる人に育って欲しい」
多摩川河畔に生まれ育って、今なお同じ場所に暮らす小黒さんは「多摩川に育てられた」と語る。
「川原から見える桃の花、菜の花、 きれいだった。砂とり船も通っていて・・・・のどかだったわね」
今、緑は次々に消え、風景も急速に変わっている。記念館の庭には「けや木たつ 多摩のほとりの諏訪川原 緑の伝言(ことづて) 未来(あす)に伝えて」の歌碑が― 。 一昨年の夏は日照りが続いた。その時の水道料金は、何と十九万円を越えたとか。樹齢三百年を超すけやきへの配慮がそんな金額に。ひとりの女性の思いの強さを知った。

The Family 平成5年(1993年)1月15日

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 次回は、1993(平成5)年の紹介記事をご紹介します。(S)

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