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味噌汁にする前に〜カニと過ごした10日間〜

捕まえたカニを、食べる前に10日間育てて、命について考えてみる、ということを家族でやってみたら、いろんな気持ちになったので、その経験を書いてみようと思う。

茅ヶ崎に4年住んで初めて、家の近くの海でカニが捕れることを知った。小さい頃の磯遊びの記憶が蘇ったのか、カニを見た途端、急にテンションが爆上がりして、子どもたちと一緒に夢中で捕まえた。

素手で挑んだので、2時間奮闘して、結果は小さいカニ3匹。カニは素早い。なめたらいけない。
「このカニ食べられるかな?」と思ったが、その日は海に返して、終わりにした。

そのときに、noteで読んだこの記事が頭をよぎる。

「そうだ、どうせなら、食べる前に1週間飼ってみよう!」

今まで、自分が食べているものの命、について向き合ったことがなかったので、子どもたちと一緒にやってみよう、と思った。

自分が何を感じるのか、子どもたちが何を感じるのか、興味があった。

1週間後に「食べる」になっても「海に返す」になってもどちらでもいいと思っていた。

1日目土曜日

子どもたちに趣旨を説明する。
長男「カニ、捕まえて1週間飼ってから食べるんだよね〜。」
次男:「……」言語説明だけでは理解できない模様。

前回は素手で挑んで敗れたので、今回は釣り竿と網で挑む。
そのへんで拾った枝に、糸とスルメイカを結んで完成!

カニは岩と岩の間にいる。夕方になると餌を探しに出てくる。

スルメイカを垂らすと、ハサミで掴むが、引っ張るとすぐ逃げる。
そして大きい個体ほど、慎重だ。
慎重だから生き残って大きくなったのか、成長して学習したのか、その両方か。
カニと私達の知恵比べ、根気比べ。ただ、カニたちは命懸け。

誰よりも私が夢中だった。たまたま居合わせた保育園のパパ友が、私の夫に「奥さんが一番夢中だね(苦笑)」とネタにされるぐらい、夢中だった。

「ははっ」と笑っていた夫だが、今度は彼が夢中になった。暗くなってきても帰りたがらない(笑)それくらい、磯遊びは楽しい。

さて、今回は5匹捕まえた。

家に帰ってカニの部屋を作る。1週間後まで健康でいてほしいので、カニにとってよい環境を整える。海からカニと一緒に、岩、砂、海水を持ってきた。

容器に岩と砂を入れ、海水を入れる。
最後に5匹のカニたちを。

この子は砂に潜ろうとして、案外浅くて「あっ…」てなってた。

最初はバタバタしていたが、それぞれ定位置を見つけ落ち着く。
個室的な場所があったほうが良いとのことで、岩でそれぞれのスペースをつくると、その下に隠れるように入る。
たまに岩の上などに出てくるが、人が近づくと一目散で隠れる。

子どもたち、ビビりながらスルメをあげる。
カニもビビって石の下にかくれつつ、近くに来たスルメをハサミでつかみ、もう片方のハサミで器用に切って食べる。かわいらしい。

しばらくして、覗くと、あわわわわ…!!カニが泡を吹いている!
慌てて調べると、海水が少なく、呼吸が苦しいときに泡を吹くらしい。
やばい、海水が足りなかった!でも今日はもう夜遅いから明日!


2日目日曜日

慌てて海水を汲みにいき、カニの家に注ぐ。
波打ち際で水をくんだら、自分が水浸しになった。

長男「カニは食べない。もう死んでるやつは食べてもいいけど、自分で殺すのはやなの。」

私「そっか。じゃあさ、魚屋さんで売ってる魚はどうだろうね。最初から死んでたんじゃないよね。誰かが殺してるんだよね。殺したくないなら、食べないって方法もあるよ。」

長男「じゃぁ、もう魚食べない」

私「わかった。じゃあお肉はどうする?お肉ってなにか知ってる。」

長男「うん、豚とか鶏とか」

私「そうそう、お肉はどうする?」

長男「お肉もたべない。」

私「そっか、じゃぁ、野菜とか豆とかだけ食べようか!そうしてる人もいるよ。」

長男「……(バツのわるそうな笑顔で)、やっぱお肉は食べる。」

私「そっか。」

次男「カニさん海に返してあげようよ、、、だって怖い。」

3日目月曜日

引き続きしらすをあげる。
一番大きいカニの元気がない。
初日は体の大きさをたてに、ボス感だして、他のカニを押しのけていたけど、今日は小さいカニに乗られている。

しらすはお好みじゃないのかと思い、小魚をあげる。
数分後見ると、近くに引き寄せてる。よかった。
が、また数分後に見ると、別のカニが小魚持って歩いてる。

長男「しましまのカニが2匹いる。種類が違う。最初はいなかったのに、変わった。」

確かに、カニの色が変わってきている。1匹、黄色い子がいたけれど、みんな茶色っぽくなっている。

小魚は少しだけかじられて放置されていた。

4日目火曜日

小魚がなくなっている。夜のうちに食べたようだ。

次男「見られるのが嫌なんだね、おうち帰りたいんだね。僕もおうち帰りたくなるから、一緒だね。」

なんと!次男がカニの目線で話している!昨日まで、自分が怖い、だけだったのに!!恐らくこれが、次男が初めて人の目線(人じゃないけど)にたった瞬間だった。これだけでもカニと過ごしてよかった、と思える。

カニはというと、岩の上に登ってカニポーズ(両手を上にあげるやつ)をしたり、岩の外に出てきたり、少し慣れたのだろうか。
しらすに食いつきが良くない気がして、わかめをあげる。

両手でつかんで食べてる。かわいい。


5日目水曜日

大きいカニが、あまり餌を食べない。

日曜の長男との会話で、「私もスーパーの肉がどうやってスーパーまで来るのかちゃんと知らないな。」と思い、『いのちの食べかた』というDVDを観た。

豚が少しも身動きの取れない金属ゲージの中で出産させられたり、牛の顔に機械で餌がものすごい勢いで噴射されていたり、なかなか良い気分とは言えない。

豚や牛が、気絶させられてから、肉になるまでの過程もおさめられている。

長男「ひどい、なんでこんな事するの。怖くて見れない」といってIpadでYoutubeへ逃避。
次男は途中飽きながらも、淡々と観ていて終わると「もう一回観たい」と言った。


6日目木曜日

痛みの少ない殺し方を調べた。
生きたままカニを茹でると、3分に渡る痛みを与えるらしい。

塩を入れた氷水に20分漬けてから、包丁で中枢神経を素早く破壊するのが、最も痛みを感じない殺し方らしい。

カニを眺めつつ、頭の中でシュミレーションをしてみる。
逃げるカニを捕まえ(こちらもビビりながら)氷水に漬け、動かなくなったところを、まな板に押し付け、包丁を刺す。
…できる気がしない。。。

でも、この一週間のことを忘れたら、できる気もする。

エアポンプを使っていないので、海水の中の酸素がなくなってカニが苦しくなってしまうだろうと思い、海に海水を汲みに行く。

前回私は学んだ。波打ち際でペットボトルで水を組もうとしたらびしょ濡れになることを。なので今回はボール持参!いざ!

「きゃはは!あはは〜!」と爽やかにビーチサッカーをする若いカップルたちの横で、ボール片手にひとり波と格闘するアラフォー。
若い子たちの視線を感じるが、もうそんなことは気にもとめない!

子どもたちと水の入れ替え作業。

いや、バブ入れたらカニ死ぬからね(笑)。確かにお風呂みたいだけど。優しさはありがとう。

7日目金曜日

長男「お家に返してあげる。」

私「うん、そうだよね。ママも今は返してあげたいって気持ちが強い。でもね、カニは返すのに、スーパーで豚とかは食べるのかって、なんかやだなっていう気持ちがある。」

長男はその後は何も言わなかった。

食べるか、食べないか。それを私達が考えている時、
彼ら(カニ)は命をかけていて、私達は何もかけていない。
せいぜい、夕食の味噌汁が少し美味しくなる程度。
この不公平さ。
「(カニは)食べられたら死ぬ、(私達は)食べなくては(空腹で)死ぬ。」
そういう中で語られるべきことなのではないか。
でも弱肉強食って、こういうことなのだろうか。

カニたちの元気がなくなっている。どちらにしろ早く結論を出さなくてはと、焦る気持ちが強くなってくる。

8日目土曜日

朝、家族会議をした。

私「カニさんの今後についての会議をします。カニさんどーする??」

長男「カニさん、食べる。」

私「ほんとに!?誰が殺すの?ひなた?(長男の名前)」

長男「パパは見てて。」

私「本当にできるの?どうしてそう思った??」

長男(無視して)「今から多数決で決めます。食べる人手あげて〜。食べない人手あげて〜」

多数決の結果は大人二人が「食べない」子供二人が「食べる」だった。同点なので話し合いで決めることに。

私「ママは、1週間飼ったらかわいそうになっちゃって、自分じゃ殺せないってなっちゃった。だから海に返そうかなと思ってる。でもスーパーで売ってるのは食べるのに、自分ずるいなって思ってる。でもやっぱり殺せない。」

長男「ほらほら!ひなは殺せる!」

私「あのカニさんたちかわいそうじゃないの?」

長男「かわいそうだけど、殺してみたいの!」

長男の「殺してみたい」発言に夫と顔を見合わせ、

私「殺してみたいんだ。じゃあひながやってみたいならやってみようか。ひな、あのカニさんは殺したら命なくなっちゃうけど、ひなはあのカニさん食べてもそんなにはおいしくないと思うよ。」

長男「食べたいの。食べたいの!」

私「わかった、じゃあやってみようか!今日の夜ご飯のお味噌汁に入れてみようか。」

夕方、
一番大きなカニが動かなくなった。
二番目に大きなカニのハサミが取れていた。

調べると、カニには危険を感じたときに、足やハサミを切り離す事があるらしい。(自切と呼ぶ。)

「あぁ、大きいほうがストレスに弱いのだろうか」と思いながら子どもたちを呼ぶ。

長男、あんなに食べると言っていたのに、死んだカニを見た途端「海に返す!」と言った。

うん、わかった。そうしよう。

私「死んじゃったカニはどうする?お庭に埋めるとか、食べるとか。」

長男「お庭に埋める。」

私「うん、それもいいけど、ママは食べるために捕まえたのだから、食べて、自分たちの体に入れたい。土に埋めちゃうとそのまま土に還っちゃう。」

夫「土に埋めても、循環することにはなるけどね。」

長男「ママが決めて!」

夫「ひなたに決めさせるのは、5才には酷なんじゃない。」

長男の落ち着きのない様子を見て、「うん、わかった。じゃあ死んじゃった子は食べよう!」と私が決めた。

死んでしまったカニは食べるまで冷凍することにした。

9日目日曜日

本当は土曜日に海に返したかったのだけど、雨で返せず、日曜になった。

波打ち際に放たれたカニは、元気を取りもどしたように素早く、帰っていった。

夫「カニたち、いきなり元気になってなかった!?」

私「私も思った!やっぱりさ、自然から離されて閉じ込められちゃうと元気なくなっちゃうんだね、死んじゃうくらいに。」

夫「俺らもそうだもんね。海に来ると元気出るもん。」

自然とのつながりは、自分が思ってるよりも、命に影響を与えるのかもしれない。

海からの帰り道、自転車の後ろに座っている長男に聞く。

私「どうして海に返そうと思ったの??」

長男「だって、カニさんパパとママに会えなくなっちゃうから。」

10日目月曜日

カニを味噌汁にした。
正直、餌を食べる姿などにかわいい、と思いながらも、ずっとちょっと怖かった。それが茹でて色が変わった瞬間、おいしそうに見える自分に驚く。
生き物のカニから、(いつもの知ってる)食べ物のカニになった。

お味はというと、本当に「おいしい!」と言いたかったのだけど、、、おいしくなかった。だしは全然でてなくて、磯の香りだけ少しした。

カニさん、おいしく食べられなくて、ごめんね。

実も食べようと、開けてみると、中がカラカラで実がなかった。
冷凍したのがいけなかったのだろうか、それとも弱っていたからだろうか。わからない。

食べ終わった後のカニは、「お友達に見せる!」と長男が保育園に持っていくことになった。

カニを食べる前に飼ってみた。それにどんな意味があったのかは、よくわからない。
でも、カニの味噌汁を飲む時の「いただきます。」は、確実にいつもと違う響きだった。

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