I 海、山、人の気持ち

海や川
山や田んぼや畑
満点の星空に
触れたこともない人間が、人の気持ちなんてわかるはずがない。

今挙げた全てのものは、
他のものとの関係があるから成り立っている。

都会の月は美しい。
ビルの隙間
街路樹の向こうに
絶え間ない喧騒の向こうに
今日は三日月。

都会の月が美しいと思えるのは、
周りの街との関係性を全く感じないからだ。
誰がこのコンクリートが敷き詰められた地面と
不自然に生えた街路樹と
息の詰まりそうな街角に、
月が輝いている原理や安定した軌道や
長い歴史や同じ月を見る遠くの誰かを想像できるのか。

僕からすると、
彼女の白い肌の一点のほくろのようで
愛おしさともどかしさが入り混じった愁いのようで
月が美しいと感じてしまう。

そんなことを考えていたら、
この街が作り出す人間関係や人間性などに
少しだけ違和感を感じた。

田舎の人は優しいと
都会の人は言う。

本当に優しいかはさておいて、
田舎の人は、人と人の関係を十分に理解している。
近所の人から嫌われたら居づらくなるし、
何かあった時は助け合う必要がある。
自分が他の人に生かされている感覚を持っている。
だから、自然と他人と向き合う術を身につけていて、
それが優しいと感じさせている部分もあると思う。

それは人間同士だけではなくて、
人と山
人と川
人と畑
全てにおいて
自分が他のものとの関係で成り立っていることを理解している。
理解していると言うよりも、それが当たり前なのだ。

都会は、お金さえ払えば、
どこの誰がどうやって生み出したかもわからない
肉や魚や野菜、なんでも手に入る。

何かあれば、
警察に電話したらいい。
契約しているセキュリティやサポートセンターに電話したらいい。

そして、海も山もほぼ無い。

そして、どうにか無駄な関係性を省いていくような
産業が生まれていく。

未だ人間は人間関係における
孤独や不快に耐えられるような進化を遂げていない。
どこかで分かり合える他人を求めている。
それなのに、相手の気持ちを考えるような機会を排除していく。
人間関係を遠ざけていっている。

海や川
山や田んぼや畑
満点の星空を
大切にすることもできない人間が、人の気持ちなんてわかるはずがない。




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