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「ジェノサイド」高野和明

#読書の秋2021

高野和明「ジェノサイド」
これまで読んだ中で、個人的総合部門ベスト3は「沈黙」「ノルウェーの森」「模倣犯」である。この3冊は人生感を変えた、新しい思考を教えてくれた別枠とした上でランキングを作ってみたい。
エンターテインメント部門1位は、この「ジェノサイド」となる。
(この部門は、その時の気分で変わるかも知れないけど)
この小説の何が凄いかというと、前半にいろんな伏線をはりまくっているのを、後半で確実に回収していることだと思う。小説・映画・ドラマ問わず作品の模範と言える。
たくさん散らかしたけど回収していない作品も多々あると思う。仕方ない時もあると思うが、やはり最初の伏線が完全にスルーしたまま終わると、読み応えはあったとしても、なんかモヤモヤした気持ちが残るのだが、この作品はそれがない。

そして伏線のスケールが大きくて深いことだ。

人智を超えたテーマから、「先進国と後進国」・「科学と自然」、「西アフリカのゲリラ・少年兵」と言った政治的テーマが大きな話の軸になっている。
そこに、息子が父に対して抱くコンプレックス。薬学部が医学部に抱く劣等感等の身近な人が抱えているコンプレックスまで描かれていて、それが最後までに一つのところに回収されていく。
またこの本の評価・評論を読んでいても面白いなと思った。
この本は直木賞候補になり、またベストセラーにもなっているので僕と同様高評価の人は多数だと思う。また僕と違う意見を持つ人も世の中には多々いることも当然理解しているが、直木賞選考の評論家のコメントとかネットの声とか読むと、同じもの読んでいるのに、こんなに捉え方が違うのだなと感じた。
僕はこの作品は、
「映像化出来ないような、スケールのでかい小説」
だと思った。
また何かのインタビューで筆者も
「絶対に映像化できないような作品を作ろうとした」と書いてあった。
同意見でとても嬉しかった(笑)

しかし直木賞選考委員評価を読むとプロは違う印象を持っている。
著名な作家達には、「まるで映画みたいな作品」「アメリカ映画の二流の脚本」的な評価で選考しなかったと書いてある。この本読んで、こんな真逆の評価になるのだな。人間ひとりひとりの捉え方の違いに驚いた。
ちなみに、この僕とは真逆の評価をした著名な作家陣は僕も良く読む好きな作家である。僕の好みの作家なのだが、好みの作家同士でも感受性の方向性は、こうも違いものなのである。
あともっと驚いたのは、ネット評価を読んでいるときに、結構な数で出会ったのが、
この小説が「反日思想」が随所にある!という批判がおおかったことだ。この小説からは、反日も親日も全くこの感じなかったが・・
小説家はこんないろんな評価相手に仕事をしないといけないから大変な仕事だなと思った。
そして一番心配なのは、こんな力作を書いた作家がそれからもう10年近くなるが新作がないことである。書き続けるというのは、凄いエネルギーのいることなのだろう。

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