見出し画像

時折思い出す子の話

高2冬~高3夏くらいで、なろうで小説を書いていた時期がある。
動機は
「国語の小説、書く側の立場になれば点数伸びるんじゃない?」
という大変頭の悪く、脳筋気味で、効率最悪の考えだった。
(実際、書いてた時期は点数が伸びたから笑い話なのだが)

部活を引退してから大学受験に身を入れ始めたから
すっかり執筆はやめてしまい、書いたものもさっぱり何処かへ行ってしまったし何を書いたのかも忘れてしまったのだが、
それでも、どうにも忘れられない人がいる。

なろうのユーザーで、1個下の、後輩の女の子だった。

(アカウント名)リスト という題名で日々の日記を綴っていた。
(このnoteを書くためにメッセージ機能を覗いて思い出した。
なんだか大変懐かしい気分だ)

学校の授業が眠かった話、
部活で起きた事件の話、
料理で大失敗した話、
めげずにもう一回挑戦して成功した話、とか。

毎日をとっても楽しそうに生きていることがよく分かって、
更新を楽しみにしていた思い出がある。

感情をそのまま筆に乗せることに長けていて、
その感情もやたらと素直なものだから、
読んでいる側がクスリと微笑んでしまうような。
そんな文章を綴る子だった。
便宜上、Aさんとしておく。

文章が好きだからとお気に入りユーザーにしたら、

「この度はお気に入りさんにしてくださってありがとうございました!
お名前拝見して、うわー!高校生だぁ!と思い、ユーザーページに飛んだら、私をお気に入りさんにしてくださっていて……。
えへへ、嬉しいです!
ありがとうございます!

常にこんな感じのテンションなので、煩わしくなることもあるかもしれませんが、仲良くして頂けたら尻尾振って喜びます。」

とメッセージをくれたのが知り合った始まりである。
「囲われ願望でもあるのか?」
と疑いたくなってしまう気がしないでもないが、
割烹(なろうでの「活動報告」の俗称、なんか字面が好き)
での相互ユーザー全員に対しこのテンションでコメント返ししていたし、
日記も同じテンションだったから、Aさんはこれが素なのだと思う。

男子校ゆえ、女子の後輩は概念上の存在だったし、
かつ、男女問わず後輩の世話を焼くのが大好きな僕だから
ついつい世話を焼きたくなって仲良くなった覚えがある。

「期末考査がヤバい、復習間に合わん……」という内容の日記を見て、
「自分にとっても良質な勉強になるし、
範囲教えてくれれば復習リストとか作りましょうか?」
っていう感想送ったら需要ありそうな返事が返ってきたから、

「とりあえず英単語は寝る前に覚えましょ。記憶効率的に合理的だから。
あとは自分の計算ミスの傾向を探るために、基礎問題集を早解きしてみるといいです。どの計算過程でミスをしたのか整理しておけば、本番で自分がどんなポイントでミスるかが自ずと見えてきますよー」

ってメッセージを送った。

「感想を見たとき、ああもうなにこれ夢みたい!と思いました。
地味に先輩からこういう具体的なアドバイス貰ったの初めてなんです。
ありがとうございます!」

って返事が返ってきた。
社交辞令のために、
「ああもうなにこれ夢みたい!」
という文を思いついて返答するのは結構難しいと思う。
本当に喜んでくれたのだろう。
それが分かったから、僕も大変喜ばしかった覚えがある。

期末試験が返却された後、向こうから
「高2に上がる前の春休みって、
何かしておいた方がいいことあったりしますか?」
って聞いてきてくれた。
わざわざ向こうから連絡をよこすのだ。
本当に喜んでくれているなと分かるから、
世話を焼きたくもなってしまうというものだ。

「暇ならセンター演習をやればいいと思いますよ。
センター英語はとっても素直ですから、
読み方さえ分かれば9割は余裕になります」

等と僕は返信していて、おいおいお前……(英語2年連続9割切り)
と思ってしまったが。



これで仲良く楽しく、だったら、よかったのだけれど。



事実は小説よりもなんとやら。
「なろう」だからじゃないのですけど。

部活の大会で運よく勝ち進めて、
大きなレースを2日後に控えた日。
前泊した会場近くのホテルでどことなく
何となく好きな作家さんの作品でも読もうかなってなろうを開いて
「Aさんが割烹上げてる~」

Aさんの割烹に、目を疑いたくなる内容の文章が掲載された。

「持病があって、えっと、ちょっとヤバいんですよね……
『今のうちなら命に別状はないから大丈夫』って
お医者さんに言われてるんで、入院しないと……
闘病生活頑張るので、なろうには来られないと思います……。
私がいなくなってから文章が残り続けるの、なんだか恥ずかしいので、
明日になったら、このアカウントは消しますね」



―――はい?
―――今、なんて?


理解をして受け入れるには衝撃が大きすぎて、
部屋の外を眺めながら、暫く呆然としてしまった覚えがある。

その時ほど、目の前の文章を一言一句丁寧に、何度も何度も読み返したことは、僕の人生で殆どなかったと思う。

―――「今のうちなら命に別状はない」?
―――え?っていうか何?今のうちじゃなかったら本気でヤバいの?
―――闘病生活を頑張る?そんなに重いの?

顔も声も知らない、
分かるのは文章に感情を乗せるのが上手な、とっても素直な子ってだけ。
ネットだけの繋がりだからこその、唐突さがあった。


暫く割烹を眺めて落ち着いて、
「じゃあ、今の僕にできることは何かあるのか?」
という考えに至った。

顔も声も住所も知らないのに、何か届けられるもの。

ここで、

「あぁ、そういえば、大きい大会に進めるんだって言ったらAさん、応援くれたな……。『応援くれたから大きい大会でも勝てたよ』って報告すれば、結構喜んでくれるんじゃないのかな?????

そう思ってしまった僕は、漫画か小説、あるいはテレビの見過ぎだろう。

「病気の少年の為にホームランを」
のノリで、それこそ今までにない気迫で、死ぬ気でレースをしようと誓い、
(思い返せばかなり痛い)
「ごめん!アカウント消すの1日だけ待って!折角応援してもらってるんだから結果の報告くらいはしたい!!!」
とメッセージを送り付けた。
(思い返せばかなり痛い)
(そして迷惑な自己満足)

アカウントが消えていないか?
あるいは返信が来てたりしないか?
と、レースの直前までスマホで確認していた覚えがある。

ウォーミングアップ中に地震が起きたのを覚えているし、
だけれど、そんなこと気にしてられない精神状態だったのも覚えている。

んで、普通に予選で負けて沈みまくったのも覚えている。

試合がもう終わったのにメッセージの返信が来なくって、
もしかしてサイレント垢消し?となったのも覚えている。

こうなったらちょっとでも楽しませてやるために、
もう道化師になってやろう!として、
「けっかはっぴょおおおおおおおおお!」って、浜田みたいなタイトルの敗戦報告メッセージを送りつけたのも覚えている。

怪文書を送り付けた10分後に
「バタバタしてて返信できなかったんですけど、メッセージ来て、結果聞くまで絶対辞めないことにするぞって決めてました(笑)私の応援足りなかったですかね?
頑張りますから、仲良くしてくださいね。」
って返事が来たのも覚えている。僕は気が付かなかったのだけれど。

翌朝なろうを開いて、「新着メッセージが届きました」の赤文字通知がこんなに貴重に思えたのは、この時が最初で最後だった思い出。

「最後の最後に。応援ありがと。負けないでね。さようなら」
って送った。
ずるずる垢消しできなくなるのは本望じゃないだろうと思って、
文末に「返信不要です」ってつけ足したから、
返信はなく、Aさんのアカウントは消えた。

あの子のことだから、
きっと読んでくれた上でアカウントを消したんだろうなと思う。

その後で、
「Aちゃんが帰ってくるような来たらAちゃんの名字を返すんだ!」
と言って、Aさんのアカウント名の一部を自分のアカウント名にくっつけたユーザーさんがいた。

気になって定期的になろうを覗いていたら、
6か月後、そのユーザーさんの名前からAさんのアカウント名が消えていた。のに気が付いた。
「え?帰ってきたの???」
と慌ててメッセージを送ったら、
「一回帰ってきたんですけど、退会しちゃいました」
「偽物さんが出てきて、ひと悶着あって……」
「私はAちゃんが戻ってきてくれるって信じてます」
「退会の原因は、病気の悪化じゃないので大丈夫です!」

そう教えてくれた。

一安心したけれど、受験を終えたその数か月後になろうを覗いたら、
そのユーザーさんも退会していて。

僕は完全にAさんがどうなったのかを知る術を失って今に至る。
僕が一浪だから、そのまま進学していたら同じ学年になっているけれど……。
Aさんの記憶は今でも時折思い出すし、何より僕が忘れちゃいけないと思っている。
やり取りしたメッセージの内容は「なろう」や、スマホのメモ帳にコピペしてある。ふと思い出した時は、その履歴を眺めて感傷に浸るのだ。


傍から見れば
「ネットで知り合った後輩の女の子を勇気づけようと、
漫画の主人公気取りになって自己満足に溺れていた話」

という随分と痛々しい思い出話だけれど、純朴な高校3年生の青春だと思えばまぁ、若気の至り?みたいなものだ。

行為自体は結構痛々しいけど、
それでAさんを勇気づけられたり、
笑わせたりできたんだったら本望だなぁと思うし。
少々恥ずかしいけど後悔はしていない。

今日はAさんのことを時折思い出す、「時折」の日だった。
わざわざ痛々しい思い出話をネットに放流するのは、
もしかして何処かでAさんに届いて、またお喋りができないかなぁという
淡い期待がどこかにあるから。

突然DMでも飛んでくればいいんだけど、そんな都合のいいことないよねと思いながら、そろそろ眠ることにする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?