アートとデザインの違いとは?
例えば、あなたが美術館に行って絵画を見たなら、あなたは間違いなくそれを「アート」と呼ぶでしょう。
例えば、あなたがとても美しいWebサイトを見たなら、あなたは間違いなくそれを「デザイン」と呼ぶでしょう。
では、ある日ふらっと入ったカフェで、ものすごく斬新で、もはや使いづらいくらいの、とんでもない形のカップが出てきたら、それは「アート」でしょうか、それとも「デザイン」でしょうか?
何が「アート」で何が「デザイン」なのか
僕たちはそれが「アート」であるか、「デザイン」であるかをそう簡単には答えられません。
それもそのはず。
両者の間に、明確な境界がないからです。
もちろん、皆さん体感的にアートとデザインの違いをなんとなく感じているとは思います。
「アート」と聞けば美術館にあるような絵画や彫刻をイメージするように、それは著名な画家や芸術家が作成し、日常と懸け離れたところに存在するものだと考えるかもしれません。
「デザイン」と聞けばWebサイトや服・鞄をイメージするように、それはデザイナーと呼ばれる職業の人たちが作成し、日常の中に溶け込んでいるものだと考えるかもしれません。
その認識は決して間違っていません。
先ほど述べたように、両者の間に明確な境界は無いから、自分が思う定義でそれぞれを認識すれば良いと思います。
しかし、ここで僕は一つの疑問を提起します。
果たして、必ずしも「アート」は美術館などの日常と懸け離れたところにのみ存在しているのだろうか?
そして、「デザイン」は日常の中に溶け込んで存在しているものだけを指すのだろうか?
奇妙な椅子の問題
では、ここで日常の中に溶け込んだアートの問題(僕が勝手に考えたもの)を持ち出してみましょう。
あなたが入ったホテルのロビーに、とても奇妙な形をした椅子がいくつかあった。
椅子であると認識できるわけだから、かろうじて人が座る部分は残っているのだけれど、椅子が持っている4本の脚は複雑に絡み合い、美しい模様を作り出している。
さらに、座面はなぜか水平ではなく、微妙に傾いていて、果たして実際に腰をかけて大丈夫なものか、分からない。
「椅子ではない」と誰かが言えば、確かにそうかもしれないと思ってしまう。でもあなたは、それを、多分「椅子」だろうな、と認識している。
この「椅子」は、アートか、それともデザインか?
これをアートと捉えることは可能です。
同時にデザインだと認識することも可能です。
結局のところ、その椅子が「アート」なのか「デザイン」なのかを定義することは非常に難しく、不可能と言っても良いくらいなのですが、
“この椅子はアートか?デザインか?”という問題に対して、僕なりの定義で答えを述べるのであれば、答えは「場合による」となります。
いじわる問題のようになってしまいましたが、結局これは自分自身の捉え方云々の問題ではなく、場合によって「アート」と「デザイン」、どちらにもなり得るということです。
重要なのは、私たちがどのように認識するか、ではなく、作者がどのように考えてそれを作り出したか、です。
前置きが長くなりましたが、ここで僕が考えているアートとデザインの定義を説明します。
端的に表現するのであれば、
「アートは主観的で目的が無いもの、デザインは客観的で目的を持つもの」
です。
では、この定義が意味するところについて述べていきましょう。
アートは主観的
まず、「アートは主観的で目的が無いもの」ということについて話します。
これは、「アート」とは作者の内側にある感情や考えを、絵や彫刻などの何らかの方法で表現したものであり、原則、作者自身がそれを客観的に捉えて評価することは無い、ということを表しています。
例えばこういう状況を考えてみましょう。
あるアーティストが自分の心の中にあるモヤモヤとした感情を、油絵で表現したとしましょう。
その作品は白いキャンバスの上に黒い絵の具が何重にも塗り重ねられたものでした。
この時、アーティストは完成した作品を見て、
「見た人にこの自分のモヤモヤとした感情がちゃんと伝わるかな?」
「伝わりにくいんだったら黒く塗られた絵の具はドロドロとした負の感情を表現してるんだよ!、とか解説を書いた方が良いかな?」
なんてことは考えません。
アーティストはその作品を常に主観的に作成します。
そして、表現したいもが全ての人に的確に伝わるか?なんてことを気にしません。
アーティストは常自分の感情や考えを「表現すること」に尽力します。
この考えを基にすれば、そもそもアートを見て、それが何であるか、何を表現しているかということを考察するのは少しズレているのかもしれません。
その行為はアートをロジカルに楽しむ上で重要ですが、最善の方法では無いかもしれません。
アーティストは常に「表現者」であり、自分の感情や考えを作品としてアウトプットすることを重要視します。
デザインは客観的
「デザインは客観的で目的を持つもの」についてですが、これは、デザインとは作者が表現したいと思ったものを具現化したものではなく「表現すべきもの」を形にしたものだ、ということを表しています。
つまり、アートが作者の内面をそのまま主観的に表現したものであるのに対し、デザインは社会一般に受け入れられるように「最適な表現」を目指すもの、ということです。
必ず、お客さん、ユーザー、社会の目が登場します。
だから、「客観的」なのです。
この差は小さいようでかなり大きいものです。
重要なのは、「客観的なもの」である以上、デザインはデザイナーの意志(本当に深い部分にある根源的な思い)を表現したものでは無いということです。
現代、デザイナーの多くは、企業や個人からデザインの案件を受けて仕事をしているため、デザイナーはその企業や個人が伝えたいことを表現しつつ、社会一般に受け入れられるように、的確に表現することを求められます。
多少、そこにそれぞれのデザイナーの工夫が加わりますが、本質的に表現すべきは自分の意志ではなく「クライアントの意志」であり、かつそれを「社会の目」を考慮しながら表現しなければなりません。
そしてその“意志”とは、決してアーティスティックなものではなく、マーケティングを目的としたものです。
一方、ファッションデザイナーをはじめ、自分でブランドを持つデザイナーも数多くいます。
そういったデザイナーは限りなくアーティストに近いデザイナーであると言えるでしょう。
彼らが生み出す商品には少なからず一人の表現者として、本当に表現したい意志(マーケなどを度外視したその人本来の特性・興味など)が含まれているからです。
ただし、この場合もデザイナーはその商品に対して「売る」という明確な目的を持っているし、市場に出すときにはデザインを客観的に評価することを求められるので、結局のところそれは「アート」ではなく「デザイン」であると定義できます。
デザイナーは常に「設計者」であり、伝えるべきもの・機能を、最適な形で設計し、ユーザーや社会にインプットさせることを重要視します。
アートとデザインに「恋」をする
今一度、それぞれの定義をまとめます。
「アート」は主観的で目的が無いもの
アーティストは常に「表現者」であり、自分の感情や考えを作品としてアウトプットすることを重要視します。
「デザイン」は客観的で目的を持つもの
デザイナーは常に「設計者」であり、伝えるべきもの・機能を、最適な形で設計し、ユーザーや社会にインプットさせることを重要視します。
この定義は決して普遍的でどんなものにも当てはまるものではありません。
僕がアートとデザインの両方に触れる中で考えた定義でしかありません。
そのため、「アートとデザインの違い」については人の数だけ様々な意見が存在しているし、その中で1つの定義を決める必要はないと思います。
それに、この世に存在する全ての「美しいもの」を、僕が考える定義でアートとデザインのどちらかに振り分けられるわけではないと思います。
もしかしたら、世界にはアートとデザインの要素をちょうど半分ずつ含んだ、判断不可能な作品が存在するかもしれない。
それに対面したとき、僕のこの定義は少し形を変えてしまうかもしれません。
この記事で僕は、決して自分のこの定義を皆さんに押し付けたいわけではありません。
目的は他にあります。
もし、僕が考える定義に少しでも共感してくれたのなら、あなたは今日から、何か「美しいもの」を見るたびに、その作者の頭の中を知ろうと努力するはず。
それがどのようにして作られたのか。
作者は「アーティスト」であるのか、それとも「デザイナー」であるのか。
それがそこに存在している理由は何か。
そもそも理由などありはしないのか。
その状況こそが僕がこの記事を通して実現したい状況です。
それは、それが結果的に「アート」なのか「デザイン」なのかに関わらず、
あなたが作り手に思いを馳せる「恋」のような素晴らしい瞬間です。
「アーティスト」と「デザイナー」の間に思想や価値観、目的の大きな違いがあったとしても、一つだけ変わらない価値があるとしたらそれは「愛されること」です。
自分の生み出したものが、どこかで誰かに愛されている。
その賞賛や批判は、自分の元に届かないかもしれないけど、確かに誰かが思いを馳せている。
結局アーティストもデザイナーも、そこかで誰かが自分の作品を愛している、その瞬間を思い描いて作り続けているのです。
だからこそ、これから目に入るすべての美しいものを、もっとよく見て、もっとよく考えてほしい。
あなたがこれから日常の中にある様々なものに「恋」をすることを願っています。
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