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部分最適と全体最適、マーケティングSaaS選び方(提案の仕方)

この記事は、『SaaSビジネス Advent Calendar 2019』のバトンタッチ連載です!

日本でもSaaSが盛り上がっている昨今、SaaSを提供している各社のマーケティングの成果もあり、自社でシステムを開発するのではなくSaaSの導入を検討する企業が増えています。

しかし、判断する上で機能(が充実しているか)にフォーカスしすぎて、導入後に活用しきれなかったり、課題解決手段として良い選択ができていないケースが多いのも実情です。

今、僕はCustomer Engagement Platform Reproというマーケティングツールを開発・提供している会社でSalesを担当していますが、その中でいかにクライアント企業の課題解決となる提案をできるかを考えて働いています。

ファーストキャリアでは、PM(っぽい感じ)兼エンジニアとしてwebサービスの立ち上げやグロースを行い、その後コンテンツマーケティングの事業部を立ち上げたり、広告・SEOも含めてプランニングや運用支援を行ったり、Reproに入ってからはCustomer Success Team でwebサイトやアプリのグロースの支援を行ってっきたバックボーンがあるので、単純にツールを売ることだけでなく、どうすれば課題解決できるのかを考えること自体が好きだったりします。

今回は、クライアント企業の課題解決手段を考えるうえでの基礎知識というか、一つの考え方をご紹介できればと思います(会社としての考え方ではなく、個人としての考え方です)。

というか約5,500字にわたる、ポエムです。

マーケティングSaaSに関する業界にいるので、見えている世界としてはマーケティングSaaSに関する話ですが、他のSaaSにおいても関係する部分もあると思うので、読み替えながらみていただき、ご意見をいただけますと幸いです。

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(この顔にピンと来ても通報しないでください。)

実践!マーケティングツールの選定

唐突な始まりとなってしまうが、まず、マーケティングツールを選定する担当者の立場として読み進めていただきたい。

webサイト(EC)、モバイルアプリ(EC&会員カード)、店舗があるようなメーカーが、運用コストの低減ではなく、売上の増大を目的として何らかのマーケティングツールの導入を検討しているとする。

タッチポイントがどこからであったとしても、主に次のようなことを目的にマーケティング施策を実施していくことになる。

・認知および集客
・初回購入
・2回目購入
・ロイヤル化
・休眠阻止
・休眠復帰

マーケティング担当者はこれらの中のどこを解決すべきか、どこに改善ポテンシャルがあるのかを考えたうえで検討する(ツールベンダーがアウトバウンドでアプローチしたり、情報収集段階のアプローチではこの部分が明確でないことも多く、これらを無視してツールの世界観や機能で売るとミスマッチが起きる可能性が高いため、しっかりとヒアリングをする必要がある)。

webサイトで2回目購入率が低いことが課題である場合、集客の中で広告としては次のようなメニューを利用してCPAやROASベースで改善を図っていく。

・リスティング広告
・商品リスト広告
・閲覧商品・購入商品情報をもとにしたダイナミックリターゲティング
etc...

広告以外の手段として(当然ながら初回購入やロイヤル化もスコープに入るが)次のようなチャネルの改善も行っていく。

・検索流入(SEO)
・SNS
・メール
・ダイレクトメール
etc...

また、平行してwebサイトの改善として次のようなことを行っていく。

・ファーストビューの改善(直帰率の改善)
・商品購入完了までのファネルの改善
  検索機能の追加・改善
  ランキングページの追加・改善
  特集ページの追加・改善
  一覧ページの改善
  商品情報の改善
  レコメンド機能の追加・改善
  入力フォームの改善
  決済システムの改善
  Q&Aページの改善
etc... 

webサイトへの集客手段とwebサイトの改善(今回は、商品の企画やキャンペーンの企画は便宜的に除外)の大きな2軸の中で、どこを改善すれば2回目購入の引き上げにつなげられるだろうか。

例えば、メールに関して月1回のメルマガしか打っていない状況であれば、
・ユーザー個別に商品をレコメンドを差し込んだメルマガに変更
・商品購入後のお礼メールの送付
・お気に入りに追加している商品の割引通知メール
・カートに投入したが購入に至っていないことの通知メール
といった2回目購入を引き上げるための鉄板施策は良さそうか。

2回目購入にいたっていないユーザーが何らかの集客手段によりサイトに訪問しているのであれば、
・サイト訪問時に、1回目購入のお礼メッセージを表示
・新着商品ページやランキングページの導線を強化
・レコメンド機能を導入
・入力フォームの入力をしやすくする機能を追加
などを行うと良さそうか。

さまざまな手段が考えられ、これらの手段を実現する方法としては、自社で開発することもできるし、マーケティングツールを導入することもできる。

分析の結果から優先順位はメールマーケティングを強化しようという判断になり、一方で成果が見えない中で自社で開発する意思決定はできない。数社のコンペを行い、上記のような施策ができてコストも最も抑えられるツールを選定、3ヶ月のプランニングと導入。

投資対効果の見合う成果も出て、このプロジェクトは大成功!!!

実は部分最適だった?

このプロジェクトは本当に成功したのだろうか。

最初に提示した前提の通り、この会社ではwebサイトもアプリも店舗もある。

webサイトの担当者は上記のプロジェクトを進めていたが、実はアプリの担当者もプッシュ通知で同様の施策を実施できるサービスを導入して、そこでも成果が出ていてプロジェクトが成功しているように見えた。

しかし、webサイトとアプリの両方を利用しているユーザーが多く、メールもプッシュ通知も同種のものが送られてきており、売上は伸びているもののメールのオプトアウト、プッシュ通知のオプトアウトが増大、本来コミュニケーションを取れるはずのユーザーが少しずつ減っている状況だった。

せっかく二回目購入ユーザーが増えても、実はその後のロイヤルユーザーに育てるためのコミュニケーション手段を失ってしまっており、短期的な売上の増大にしかつながっていなかった。

マーケティングツールの選定において、メールとプッシュ通知の横断した改善がスコープに入っていなかった(ツールベンダーは、クライアントのビジネスモデルの全体像を把握できておらず、出てきた要望のみで提案を進めてしまうとこのようなことが起きる)。

全体最適のプロジェクト始動!

このままでは、中長期的な売上の増大、LTVの増大を期待できないためユーザーに対して一貫したプッシュ型のコミュニケーション(メールおよびプッシュ通知)を行えるよう、改めてツールの選定を開始。

しかし、メールもプッシュ通知も統合管理しコミュニケーションが行えるツールでコストが見合いそうなものがない。

成果が出る施策であることは検証できているので、自社で開発する一大プロジェクトを進めることになった。

システムの肥大化によるメンテナンスコストの肥大化

webサイトのユーザー行動、アプリのユーザー行動、メールに対する反応、プッシュ通知に対する反応、それらのデータを統合管理できるシステムを構築。

構築できたものの、運用を始めたら
・レコメンドロジックがいまいちで成果がでない
・メールの作成画面が使いづらく、改善が進まない
・プッシュ通知の配信に膨大な時間がかかってしまう
問題だらけになってしまった。

それぞれの部分を直そうとしても、複雑に絡み合ってしまい、解決に進まない。

以前検討していたツールでは、メールやプッシュ通知といったコミュニケーションの統合管理以外にも、データが統合できたり、データの可視化ができるということで、売上の増大以外の目的、レポート作成コストの削減も目的として導入を決定。

1つのサービスに依存する形へ

部分最適から始まってしまったが、全体最適のプロジェクトも着地。一貫したプッシュ型のコミュニケーションが行えるようになり、レポートの作成コストも削減でき、めでたしめでたし。

と思っていたある日、同業界のマーケティング担当者と話していると
・あるレコメンドエンジンを導入したらCVRが大幅に上がった
・ある分析ツールでは、AIによる精度の高い売上予測が出る
・あるCDPを導入して3rd partyのデータの統合をして分析や施策を行っている
といった情報を得た。

情報をもとにそれらのツールを調査してみると、現在導入しているツールと被る部分が多く検討しづらい、さらに現在導入しているツールではそれらのツールとの連携ができないということが発覚。

同業界の企業はそれらを使って、どんどん売上を伸ばしている。

このままでは・・・

(マーケティングツールを選定する担当者の立場として読むのはここまで)

マイクロサービス化とSaaS

ながながと茶番に付き合っていただく形になってしまったが、ここからが本題なので読み進めていただきたい。

そもそも、今のようにSaaSが増える以前は実施したい施策があればスクラッチで開発する必要があり、あくまで目的に対する解決手段として開発を行っていた。SaaSが普及する中で、開発をせずに簡単に利用できるようになり、開発をする時のような要件を洗い出し優先順位を決めて進めるという意識が薄くなってしまったように感じる。

近年のシステム開発では、開発スピードを上げるために、APIでデータの連携ができるようにしておき、機能を細かく切り分けるマイクロサービス化を進めている企業が増えている。

特にマーケティングSaaSを導入する場合には、マイクロサービスの1つとしてとらえて、APIによる各機能(自社のシステムや他のSaaS)とのインテグレーションができるかを前提として、システムのどの部分を担うのかを考えることが重要になるのではないだろうか。

このような考え方でツールを選定できれば、各機能においてもっとも優れたSaaSを選定することができ、先ほど紹介したような失敗は防ぐことができる。

そういった意味では、マーケティングSaaSのベンダーは柔軟なAPIを提供することが重要になってくる。また、各SaaSのベンダーは連携を強化して顧客の課題解決のために努力すべきである。

つまり、マーケティングSaaSを選定するうえでは次の点を考慮する必要がある。(裏返しでツールベンダーは、次のような点を考慮して提案を進める必要がある

・全体の課題の中から何を解決することを目的とするか
・解決したい課題の解決手段は、他の課題と依存関係がないか考える
・ツールの導入(手段)ではなくシステムの構築だと考える
  → 必要なAPIが提供されているかを確認する

また、All in One のように見せているマーケティングSaaSの選定は、全てを解決できるように見えるので手をだしたくなってしまうが、そもそも不要な機能が多く無駄なコストが増えてしまったり、実は必要な機能が足りなかったり、さらに他のSaaSとのインテグレーションが本当に必要な部分ではできなかったりと様々なリスクがあるため、課題解決の手段として本当に適切なのかを慎重に選定する必要がある(ツールベンダーとしては、そのようなことが起きないような料金体系でサービスを提供する必要があると考える)。

SMB向けのSaaSと最小構成での検証や構築

1点補足しておきたいのが、インテグレーションができないマーケティングSaaSを選んでいけないわけではない。

例えば、明らかに独立した内容を提供しているSaaS(3rdパーティーのデータを用いた競合分析ツールなど)はあり、そういったものは当然ながらAPIを意識する必要はない。

また、そこまで規模が大きくない場合には、システムの構成を考えるよりもまずは現在できていない施策を実施してそこで完結させてしまい、成果が出て良かったという話で終わる(そういった意味では、低単価でSMB向けに限定的な機能を追加するような形で提供しているSaaSは、多くの企業に対して価値を提供できるという意味ですばらしいものであると考える)。

また、そもそもAPIにリクエストを投げてデータを連携するのにも一定の開発工数が必要となるため、予算がとれない場合や初期の検証のためにインテグレーションを前提としない形で導入することも意味がある。(ただし、課題解決の依存関係がないかの見極め、影響範囲を想定しておく必要はある)

状況によっては、インテグレーションの可否を判断軸から外してマーケティングSaaSの選定をしないと何もできなくなってしまうので、優れたシステム構成のみに憧れるのも危険ではある。

より多くの企業が優れたマーケティングできるようになるために

完全に個人的な見解だが、誤ったSaaSの選定やSaaSの提供がはびこると、SaaSが良くないものだという認識が拡大してしまう可能性があると考えている。

ミスマッチに関してはただの不幸でしかなく、特に注意が必要なのは、先ほども紹介したようなAll in One のように見せているマーケティングSaaSで、ベンダーが世界観や機能のみを先行して提供を進めると
・莫大なコストがかかったのに成果が出ない
・実はそんな使い方はできず無駄なコストでしかない
といった状況を生んでしまい、自社で要件定義をして構築した方が良いのではという、かつての状況に対する揺り戻しが発生してしまう可能性さえある。

SaaSは各機能における集合知であり、多くの企業に対して均一に良い価値を提供できるという素晴らしいものであるはずで、各機能における優れたSaaSがしっかりと連携して、それぞれのSaaSの良い部分に注力して強化することでより良くなっていくものだと考えている。

さまざまなSaaSが連携して世の中により良い価値をだせるようになっていくことを期待し、そのような状況になるように個人的にも努力していきたい。

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