清澄庭園(紀行編)ーー借景はスカイツリー
広い池に弱い。庭一面に大きな池が広がる景色に弱いのだ。私たちは庭園鑑賞が好きで、これまでにもいくつかの庭園を巡ってきたのだが、広い池を持つ壮大な景色の庭園は無条件に「いい庭」としてきた。私たちが見てきた中でいうと京都の大沢池、修学院離宮が特によかった。水面に映るクロマツは、実像のクロマツよりもグッとくるものがある。東京で同じような感動を覚えたのが清澄庭園だ。園内に入るといきなり広大な池が広がっていて、やはりどの角度から見ても美しい。そんな清澄庭園はさらに私たちを魅了するおもしろいポイントがたくさんあった。
まずは磯渡り。広大な池の端に石が点々と置かれており、私たちはそこを渡る。とても冒険心をくすぐられるおもしろいアトラクションである。歩を進める度に景観が変化するように配置されているため、私たちは進んでは止まり進んでは止まり、広々とした池の方を向いてその美しさに惚れ惚れしていた。そうこうしていると後ろから我々とは別の来園者がせまってきた。あまりゆっくりはしていられない。私たちは落水に注意しながら、SASUKEの1st STAGEのクワッドステップスの要領で落ち着いてかつスピード感を持って前に進んだのである。
また、その磯渡りの池を挟んで反対側に「富士山」という山がある。もちろん本物の富士山というわけでなく、この清澄庭園というテーマパークの中に造られた富士山を模した山である。清澄庭園内で最も高く大きい。この富士山、私たちは手前にツツジが咲いていることに気がついた。このツツジは何を表しているのだろうと疑問に思っていたのだが、リーフレットによると富士山にたなびく雲を表現したものらしい。それを聞けば納得、たしかに雲の形に見えてきた。しかし、雲ならばツツジの色も白一色にするべきだと普通なら考えそうなものだ。それをあえて赤や紫のツツジで植栽しているのがなんとも粋でおしゃれに感じられた。事実、赤やピンクのカラフルなツツジがこの緑の落ち着いた富士山と見事にマッチしているのだ。ここでぜひ言っておきたいのだが、庭園と同じくテーマパークの聖地である東京ディズニーランドにあるスプラッシュマウンテンの山肌はツツジで植栽されている。しかも、色は赤や紫。山の前が水域になっていることも合わさって、初夏のツツジが咲く時期には、スプラッシュマウンテンはこの清澄庭園の富士山と同じような構図になる。私たちはこれをただの偶然ではないと思っており、「東京ディズニーランドのスプラッシュマウンテンの植栽は清澄庭園の富士山から着想を得た説」を唱えているのである。
最後に借景の話をする。借景とは庭園の外の景色を庭の景色として取り込むことで、空間に広がりを見せる仕掛けのことである。基本的に外から借りる景色は山とか海とか森であることが多いのだが、ここ清澄庭園にはそれらではない借景があることに私たちは気がついた。東京スカイツリーである。京都の仁和寺から五重塔が見えるように、清澄庭園からは東京スカイツリーが見える。清澄庭園は明治時代の庭園であるので時代錯誤も甚だしいと思われるかもしれないが、これはこれで現代の東京庭園の楽しみ方のひとつであると私たちは考えている。ちなみに、同じく東京の小石川後楽園では、もはや開き直っているレベルに堂々と東京ドームが顔を出している。さらに、東京ドームからはビジュアルだけでなく、ちゃんと野球の試合中の応援歌が聞こえ、借景ならぬ「借音」も楽しむことができる。
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