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有機のまちで「有機」という言葉の意味をかんがえる

先日、小川小学校5年生のおがわ学の授業で、地産地消についてお話させて頂く機会があり、児童から「有機農業の有機ってどういう意味ですか?」という質問を受けました。

有機って有機物だから、炭素を含んでいて…いやこれは回答にならないな…有機は農薬や化学肥料を使っていなくて…いやこれは栽培のことであって、有機という言葉の回答にはなってないよなぁ…。

普段使っているけれども改めて聞かれると意外に答えられなかった「有機」という言葉。質問に答えるために持ち帰ったことから言葉の意味、さらには小川町における「有機」の捉え方について考えることになりました。

キラキラした瞳で見つめられながら、初めて先生側での授業

まず「有機」という言葉がどこから生まれたのでしょうか?

漢書にある「天地、機有り」からとったものだという。「機」とは、英語ではダイナミズム、自然の原理、天地の動きには法則があるという意味であり、農業というものは、自然の原理に順応してそれを助け合うものであることを表している。後にはさらに、特に生産者と消費者の間の「有機的な人間関係」を築くことが重要であるという意味あいも付与された。

日本有機農業研究会

なるほど!普段農家さんのところで見ている色んな取り組みが頭に浮かびます。踏込温床、バンカープランツなど。

踏込温床とは、落ち葉や米ぬかなどを踏み込んでつくるもの。
夏の盛りにナスやトマトを収穫するためには、まだ朝夕は凍りつくような寒さの2月、3月に種を蒔かなければなりません。露地では寒くてとても育たないので、まず温かいところ(温床)で苗を作り、それを5月頃になってから、畑に定植するという方法をとります。

小川町有機農業生産グループ 冊子『おがわまちの有機農業』

踏込温床を作って、自然の発酵熱で育苗する農家さんを小川町ではよく見かけます。非常に沢山の落ち葉を必要とするため労力がかかるため、一般的には電熱線を使って育苗することが多いですが、地元にある資材を使うことで、お金とエネルギーをできるだけかけず、そしてこの温床が3年後に良質な土となることに大きな価値があると考えているとおっしゃっていました。

ハウスの中でひたすら踏み込むので、
完成する頃には半袖になりたいくらい暑くなります
温床の役割を終えた落ち葉たちは、外に出して熟成させます
3年後にはこんなにさらさらふかふかの土に
3年熟成させた栄養たっぷりの土を使って、苗を育てます

バンカープランツとは、野菜を育てる時に発生する害虫の天敵を引き寄せる植物のこと。「バンカープランツ」の「バンカー」とは、「銀行家(Banker)」で、天敵をバンカープランツに預けておいて必要な時にその効果を引き出す(=害虫を食べてもらう)という意味です。うまく自然の仕組みを使っているなぁ!とはじめて見た時に感動したのを覚えています…!

風の丘ファームではバンカープランツとして麦が蒔かれていました

自然の摂理に従って里山の落ち葉を取ると、農家さんが堆肥や踏込温床にするだけでなく、森を管理する人が居て、もりに入って里山を楽しむ、活用する人が居て、そうして里山がきれいになると川に栄養分が流れ出て、海の健康にもつながる。自分が手をかけられる範囲で畜産を行うと、ごみになるはずの残さや雑草が動物の餌となり、糞尿が堆肥に変わり、動物と人間の交流も生まれ、最後は食物として頂くことができる。こんなふうに、有機的な営みとしての農業はただ「有機農産物」を作るだけじゃなく、生産活動の周りにも「有機的なつながり」を作り出すのだなぁ…

ぶくぶく農園の鶏

久松達央さんは著書「キレイゴトぬきの農業論」の中で、有機農業について下記のように話しています。

「機」の一つが、今で言う循環型農業の事です。健康で肥沃な土が健康な作物を育み、それが健康な動物を育み、その死骸や糞が微生物によってまた健康な土へと返っていく。この自然のサイクルに可能な限り沿う農業が有機農業です。
 生き物は単独では生きられません。動物と植物、植物同士、植物と土の中の微生物はそれぞれ互いに影響し合い、共生しています。例えば土壌微生物の中には、植物に棲み付き、根から炭水化物をもらいながら、土壌から養分を取り込んで根に供給しているものがいます。弱肉強食の単純な力関係だけが自然の摂理ではありません。無数の生き物が相互に作用しながら、複雑なネットワークを形成して生態系全体を強く豊かにしているのです。それぞれの生き物が持つ機能、それが全体で回るシステム、これを積極的に生かそうというのが有機農業の考え方です。
 土と植物の関係はまだ分かっていない事も多いのですが、知れば知るほどそれがいかに上手くできているかに感心します。そのシステムの、単純なようで複雑、脆いようで強いさまに驚かされます。そうした生き物の強さを利用しない手はない、というのが有機農業の基本的な考え方です。

久松達央「キレイゴトぬきの農業論」

それぞれの生き物が持つ機能、それが全体で回るシステム、これを積極的に生かそうというのが有機農業の考え方という説明が、なるほど!腑に落ちます。

それでは、生き物が持つ機能やシステムを生かす、有機的なつながりの上で行う生産活動に対して、1箇所で集中的に、大量に、効率よく行う「食料工場」のような生産の場では、もったいないが沢山生まれるのではないか、という考えが浮かんできました。農薬によって土壌微生物が死滅して、自然の原理を活用できなくなってしまったり、本来循環して活用できるはずの家畜の糞尿が溢れ、河川の環境汚染の原因となることも。

生産〜廃棄が直線的に繋がり、余白のない生産活動と、生産活動をすることで有機的なつながりが同時多発的に生まれ、影響しあっていくもの。どちらが良い悪いというのは見る視点によって異なりますが、自然も人も、全ての関わるものが笑顔で幸せなイメージを持つのは後者だなぁと思います。

そして、小川町は先代から有機的な営みの文化と人のつながりが今に至るまで受け継がれています。そんな町だからこそ居心地が良くて、私もちゃっかり住み着いてしまったのではないかと(笑)

小川町に暮らす人が「有機」という言葉をどう捉えているのか、お話を聞いて、またまとめようと思います!「有機的な人間関係」という観点で面白い話が聞けそうな予感が☺

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