企業広告に騙されるな!

 

 このほど、2019年1月1日から開始したnoteの総PVが10万を超えました。つきましては、過去に雑誌に寄稿した記事をここに掲載したいと考えました。

 noteでは、これまでにも機会があるごとに過去の執筆原稿を掲載してきました。今回も同様です。

 下記の原稿は、過去に私が『BX』(メディアックス)という雑誌に2007年に寄稿した「企業広告に騙されるな!」と題した原稿です。メディアックスという出版社はすでになく、『BX』の刊行を引き継いだマイウェイ出版も、その後に刊行を取りやめました。

 国会図書館などに足を運べば当該号を読むことも可能ですが、今般のコロナウイルス禍で補償を渋る政府の対応を見て、記事を再掲します。

 (※再掲にあたって、改行やタイポなど内容を一部修正した部分があります。しかし、基本的に掲載時と同じ文章です。歳月を経ていることもあり、文中には実在する企業が頻出するものの、現在と状況がそぐわない部分もあることを前もっておことわりしておきます)

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 コムスンが厚生労働省から介護事業を停止させられる処分を、ミートホープが牛肉100%と謳うコロッケの中に豚肉を混ぜて販売し廃業に、不二家は賞味期限切れの原料を使ってケーキなどを製造・販売して営業停止。最近では、赤福、船場吉兆など、国民を騙し続ける企業が次々と明るみに出ている。

 しかし、こうした国民を騙していることが明るみに出て、世間から指弾弾される企業は、実はごく少数でしかない。多くの問題企業は国民を騙していながらも、CMを大量に流すテレビ局の大きな収入源となっているため、ほとんどが表沙汰になることなく、闇に葬られていく。

 そうした国民を騙す手法でもっとも顕著になっているのが、広告だ。大手企業の大半は広告で巧みにイメージ操作した自社製品の商品の効能を著しく優良に見せかけたり、誇張したりするといった、もはや詐欺としか言いようがないCMを常套化させている。

 そうした企業の不正を糺す側の監督官庁である公正取引委員会は、そのつど注意や警告、排除命令を出してきた。それでも、なお、企業は、これまでと変わらず何食わぬ顔で平然とCMを垂れ流している。なぜなら、テレビが報じ、世間的な関心事にならなければ問題ないと思っているのだろう。

 だからと言って国民を欺いていいわけがない。テレビCMを大量に流し、でお茶の間にもお馴染みの大企業もわれわれ国民を騙しているのだ!!

広告優先主義に陥った企業

 日本で販売されている多くの物品や提供されるサービスを、われわれ国民が知るにはテレビや新聞などで大量に流されるCMや広告によるところが大きい。そのため企業は大量の広告費をつぎ込み、集客・販促に日夜、血道を上げている。

 電通の統計によると、2005年の広告出稿費は、約59兆6250億円に達し、2006年は約59兆9540億円まで伸びている。2007年は好景気を背景にさらに広告費は上がると見られている。人件費、いわゆるわれわれの給料が上がらない一方で、どうして広告費ばかりが右肩上がりなのか?

 「その理由はいたって簡単です。団塊の世代が一斉に退職すると言われていた2007年以降も、嘱託だの雇用延長だのといった理由をつけて退職していないから、人件費が下がらない。企業としては、できるだけコストカットをして海外企業との国際競争に勝たなければならないのです。しかし、国際競争力でネックになっているのが高い人件費です。

 最近では外国人労働者など、安い人件費で労働力を賄うことができるから、給料を上げていい人材を採ろうとする企業も減っています。人件費にいくら金をつぎ込んでも売上は上がりませんからね。少しでも広告を打ち、消費者に知られることが企業にとっては大事なのです」(経済誌記者)

 企業は広告費を必要経費として計上することができる。広告費に莫大な金額を投下しても、対費用効果が上がるならば、企業はまさにホクホクなのである。同じ必要経費でも、人件費を上げたところで簡単には売上アップにつながらない。

 しかも、最近では、定年まで勤続するサラリーマンは影を潜めた。せっかく金をかけて育てた人材がヘッドハンティングされて同業他社に移籍されたら、それこそ目が当てられない。となれば、広告に力を入れるのは当然のことと言えよう。

 しかし、数多ある企業たちは、CM・広告を打ちつつも他社よりも自社をよりアピールしなければならない。製品がどれぐらい優れているのかを買って実感してもらうよりも、CMによるイメージ操作が重要になってくる。

 そういった広告が本来持っている「広く消費者に知ってもらう」といった意味が捻じ曲げられるようになると、実と事実とはかけ離れた商品内容をアピールする不届企業も出てくる。こうした企業に対して公正取引委員会が不正を糺すわけだが、こうした虚飾企業は後を絶たないのだ。

国民が知られざる大手企業のインチキ広告 

 まず、広告はどういった審査内容で社会に送り出されているのか? 実は制作過程においては、憲法21条の「表現の自由」が保障されているため、公正取引委員会が事前に企業広告を審査することはない。

 企業広告の規準となる法律は景品表示法で、同法は呼称から何らかの景品に関する法律と思われがちだが、実際は1つは過大な景品類の提供を禁止することを目的としている。

 例えば街頭で配られるポケットティッシュや商店街で催されている福引セール、新聞勧誘などの粗品などにおいて高額な商品を配布することを禁じている。そして、もうひとつは広告や商品説明に用いられる不当な表示や宣伝文句が禁止されている。

「例えば、草加せんべいというのは、埼玉県草加市で製造されたせんべいのことなんですが、一般的にはしょうゆせんべいの総称ということで、北海道や九州で製造されていても草加せんべいとして販売している業者がいます。しかし、これらは完全に景品表示法違反にあたります。

 ほかにも、十勝チーズといった品目はほとんどブランド名になっていますが、これらも産地を偽装した景品表示法に抵触しますね。でも、フランスパンはフランスで製造されていなくてもフランスパンだし、南京製でなくても南京袋という呼称は一般的に使用されています。

 こういった物品の名称に使われている名前を用いることで消費者に誤解を与えることは大きな問題になっているのですが、どこまでが一般的な名称であるのか、あいまいになっているグレーゾーンの幅も大きいため、そのときどきによって当局が判断しているというのが実情です」(公正取引委員会職員)

 こうした中、企業の広告は優良誤認と思わせるCMが多く、不当に国民を騙すとして公正取引委員会から警告や排除命令が出されてきた。もっとも有名なケースは「予想外割」の謳い文句で、通話料0円、メール代も0円をテレビCMで大量に流したソフトバンクモバイルだ。

 ソフトバンクモバイルは新聞の一面広告で大々的なアピールを展開。ところがDOCOMO社長から「社長の名前よりも小さなただし書きがあり、消費者を欺いている」と苦言を呈されるなど、キャンペーン開始直後からその違法性が指摘されていた。ソフトバンクモバイルのカラクリは、普通に使用していれば他社並みの使用料金がきちんと請求される仕組みになっているだけのことで、まさに虚飾の広告だったと言っていい。

「ソフトバンクのこうした手法は、携帯電話だけではありません。ほかの事業でも、さまざまな手口で消費者を獲得しようとしています。しかも、飲食店でラーメンを食べるのとは違い、携帯電話は一度契約してしまえば、解約するのが面倒になるし、解約するにも手続きやら手数料がかかるシステムになっている。だから、ソフトバンクモバイルの広告は非常に巧妙な虚偽広告と言っても差支えがないんです」(前出・経済誌記者)

 ソフトバンクモバイルが公正取引委員会から警告を受けたことが呼び水となり、携帯電話大手DOCOMOとAUも公正取引委員会からそれぞれの広告に誇張があると注意を受けている。携帯電話3社がいい加減な広告で不当に契約者を増やそうと必死になっていることが広告から窺えるが、だからと言って誇大広告などで消費者を騙してもいいわけではない。つまり、大手企業の広告はいかに国民を騙して金を巻き上げるために制作されているかがわかるだろう。

社会的信用のある企業だからこそ信用できない企業広告

 10月1日から完全民営化されて誕生した日本郵政グループは、その規模から日本有数の企業と言える。その前身である郵政公社は民営化直前に「ゆうパックは、翌日配達!!」というキャッチコピーを書いたチラシを配布したことで公正取引委員会から排除命令が下されている。

 広告というものは、やはり自分の会社をよく見せたい、そして新製品を大々的にアピールしたいという気持ちがあり、そうした気持ちが暴走してしまった結果として誇大広告になってしまうケースがほとんどである。しかし、その多くは警告処分にとどまるのに対し、ほぼ官庁と言っても差支えがない郵政公社が公正取引委員会から警告よりも重い、排除命令を受けたことは企業広告の杜撰さ、いい加減さを如実に表している。

 郵政公社は「ゆうパックは、翌日配達!!」「人口カバー率 84.5%」の広告を打ったが、北海道内での人口カバー率はたった8%に過ぎず、北海道内で翌日配達できる地域はほとんどなかった。この虚偽広告の失態によって、半分官庁みたいな郵政公社に排除命令という異例中の異例の処分が出されることになった。

 こうした半分役所みたいな殿様商売然としている企業は、ことさら広告を制作するのが下手なのか、はたまた自分たちが一流企業で愚民どもにはわかるはずがないと思い込んでいるのかはわからないが、みずほ銀行も住宅ローンの取引に関係する長期固定金利キャンペーンチラシが虚偽広告にあたるとして警告処分を受けている。

 当該のチラシには、15年と20年固定金利が2.65%(年率)と宣伝されているがこれらの金利は1ヶ月間の期間限定キャンペーンの金利であり、しかも申し込み日ではなく、実際には期日内に借り入れをしなければ適用されないというかなり無茶な適用期間である。チラシには“20年後も笑おう。 みずほの住宅ローン”などというキャッチフレーズが書かれているが、実際にこのローンで住宅を購入した場合、笑うのはみずほ銀行だけで借入主は泣くばかり。

 経営が苦しくなれば国から公的資金を注入されるといった厚い庇護下にある銀行様においては、しょせんは庶民の生活などどうでもいいのだろう。国民の税金から公的資金の注入を受けておきながら、それでいて国民を欺こうとする体質には呆れるばかりである。

健康・教育は営利優先企業の食い物にされる?

 大手企業ばかりではなく、最近では立派な企業理念を掲げ、模範となるべき企業も企業広告では国民を騙そうとするのだから、開いた口が塞がらない。

 少子化の社会情勢が加速している昨今、ますます馬鹿な親たちは子供に過剰な期待を寄せるまでになり、まだ物心もつかない頃から、いい大学に進学させようとお受験に邁進させようとしている。そんな過熱する親たちの気持ちを逆手に取ったのが、家庭教師を派遣することで急成長してきたトライグループだ。「トライ新年度生 いよいよ募集スタート!塾を決める前に、トライをお試しください」と記載された新聞折込チラシは、実際には授業料は不要なものの、「登録費」や「教務費」などを徴収するという、ただ料金の名前を変えただけで、事実上は授業料を徴収していたことで警告処分を受けている。

 家庭教師派遣業最大手のトライグループが、公正取引委員会から指弾されることは、すでに日本の教育が崩壊していることを予兆させる。

 企業の食い物にされているのは、教育ばかりではない。近年は健康志向が過熱する一方で、健康食品の売上はうなぎのぼりになっている。そうした社会情勢を背景に“本物だけをまっすぐあなたへ”を標榜して急成長しているのが、やずやだ。やずやが販売している「熟成やずやの香醋」はカプセル状のサプリメントのようなもので、アミノ酸が一般的な米酢と比較すると10倍も含まれていると宣伝されていたが、実際はまったく違った。

 成分や製法に一般的に馴染みのない単語などを使用することで、消費者を欺き、とにかく体にいいことを全面的に広告で押し出す。まさに、健康を願う人たちを食い物にしてきたと言っても過言ではない。
「健康や教育は金を惜しむことのない分野のひとつですから、こうした広告はまさに消費者心理を巧みに利用していると言えると思いますね。今後は介護・福祉・環境といった絶対善とされるような分野で、こうした虚偽広告が増えると思いますよ」(前出・経済誌記者)

増殖する虚偽広告

 一般的に、大企業はその資金力を背景にテレビや新聞などで大々的に広告を打つことができる。これらの広告を頭から信じている消費者はどれぐらいいるだろうか? 

 「広告なのだから、不都合なことを書くわけがない」と頭ではわかっていても、CMなどの影響力は強く、見知らぬ企業の商品よりも、テレビCMなどで有名な企業の商品を信頼して購入してしまうことは、誰しもが経験しているはずだ。

 ところが、実際の広告には不都合なことが書かれていないどころか、嘘が書かれているケースも頻繁にある。それは東証一部に上場している一流企業でもまったく関係ない。むしろ、一流企業の場合、公正取引委員会から排除命令を受けてもニュースなどで報じられることがないため、国民はその嘘を知ることができないから、逆にタチが悪い。

 近年では、テレビCMや新聞広告などからネット広告に、広告媒体も移行してきている。インターネット広告は10年連続で100%以上の伸び率を示しており、いまだ衰えを知らない巨艦広告媒体となている。

 「広告費はいまだテレビが不動の一位ですが、これがインターネットに追い抜かれる日は、近い将来必ずやってきます。それも、20年とか先の話ではなく、あと5、6年といったところではないでしょうか」(放送関係者)

 ネット広告はテレビCMや新聞広告とは異なり、公正取引委員会の監視が届きにくい部分がある。また、違法性が通報されたとしても、公正取引委員会が調査に乗り出す前に内容を改変することも可能になってきているため、虚偽広告の実態はまずます掴みづらくなっている。

 「そもそも、公正取引委員会が排除命令や警告を出した企業はほんの一握りと言われていて、誇大広告・不当広告で注意を受けている企業は数え切れないほどあるでしょう。そして公正取引委員会が把握していない企業もあるでしょうね」(前出・経済誌記者)

 近年、企業の不祥事が続発して、国民の不信は日に日に高まり、そして広告を見る目も厳しくなっている。こうした営利だけを追求する企業のインチキ広告は今後も途絶えることはないだろう。それどころか、ますます増加することが予想される。だからこそ結局は、自分の目で見て、舌で味わって、一度体験してみることで企業の真実を見極めるしかない。そのうち「騙される方が悪い」などと、開き直る企業も出てくるかもしれないのだから。



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