【たべる】ひじき煮

自炊のメリットはコスパ!?

 一人暮らしのアパート・マンションだったら、台所のコンロが一口という部屋も珍しくない。そもそも自炊などしないから、薬缶に火をかけるぐらいだろう、あとは買い弁。外食で済ませる。コンビニもあちこちにあるし、24時間営業のスーパーマーケットだって多い。

 そんな社会環境の変化も、一口コンロ部屋を増やす要因になったと思われる。そして、いまや二人暮らし用の部屋、いわゆる新婚家庭を想定した賃貸物件でも、一口コンロは珍しくない。

 一人暮らしを始めるにあたり、私が借りる部屋の条件としてこだわった点はいくつかあるが、そのなかでも「コンロが二口ある」と条件は優先度が高く、その結果、これまで一口コンロの部屋に住むことはなかった。

 一人暮らしの男では、積極的に自炊をしていたと自負しているが、それは料理が好きとか得意といったものではなく、単に自炊の方が安上がりだったからという理由にほかならない。

 最近は激安スーパーやドラッグストアでも安価な弁当を販売し、時間帯によっては半額シールまで貼ってあって、スターバックスのコーヒーよりも安く一食を賄える。

 20年前は、事情が違った。スーパーの惣菜コーナで売られている弁当は500円前後。弁当屋で買う弁当でも600円以上はした。食べ盛りの大学生には、それだけで物足りない。もうひとつ小さな弁当がないと次の食事までに空腹を覚えるぐらいのボリュームだった。

 しかし、一食に1000円も費消することはできない。アルバイトで生計をやりくりしていたので、特に家計費にはシビアにならざるを得ない。「安く」そして「たくさん」食べるには、自分でつくるしかない。

 そんな思いから、自炊が始まる。結果から先に述べると、一人暮らしで自炊生活を送っても、大して食費は切り詰められない。食材、例えば野菜にしても半カット、4分の1カットで販売されているので、一人暮らし用としては過大なのだ。

 これを効率よくやりくりできれば、食費もそれなりに安く抑えられる。しかし、自由のきく大学生活である。次の日に急に友人と遊ぶ予定が入った、アルバイトで食事をつくる時間的余裕と気力がなかった。

 そんな理由で、ときどきしか自炊をしなくなる、自炊をしない期間が長くなると、どんどん面倒になる。冷蔵庫に眠る食材は傷み、結局は無駄にしてしまう。経済効率性だけを見れば、弁当を買うのと自炊は変わらない。

 それでも、自炊には同じ費用でたくさん食べられるという利点がある。つまり、自炊をすればするほど、コストパフォーマンスは上がる。おかずを2人前(もしくは2日分)つくっても、時間と手間はそんなに変わらない。食材費も2倍にはならない。

 自炊から経済を眺めると、外食産業は食材の原材料費よりも、人件・加工賃で収益をあげていることを実感させられる。

 たくさん食べられるというメリットは20代の頃はありがたい話だった。こうして、「たくさん食べられる」メリットを自炊によって享受し、30歳ぐらいまではひたすら「たくさん食べられる」ことのために自炊を続けてきた。

 食べ盛りはとっくに過ぎた。たくさん食べたいとは思いたくなくなる。「こんなにたくさん食べる意味はあるのか?」そんな自問自答を繰り返していた。

デフレ下の自炊生活

 その間、外食産業はデフレに突入し、さらに安価なメニューが誕生していた。吉野家や松屋といった牛丼チェーンでは、並盛りを注文しても300円でおつりがきた。格安のカレー店などもあちこちにオープンしている。

 300円で一食を賄える。これでは、自炊による経済メリットは薄くなる一方だった。この時期、外食で済ます・中食で済ますといった一人暮らしの人は多かっただろう。いちいち面倒な買い物・調理という手間と時間をかける必要はないのだ。

 そして、トドメはドラッグストアが弁当や惣菜を売り始めたことだった。コンビニは定価販売が原則。値引きはしない。だから、一人暮らし男子は閉店間際のスーパーに行き、値引きシールの貼られた弁当や惣菜などを買う。しかし、スーパーは近所にたくさんあるわけじゃないし、値引きシールが毎日貼られるわけではない。

 ドラッグストアで販売される弁当は、コンビニの40〜50パーセントの価格で販売されている。そして、見切り販売もされる。おにぎりもコンビニ価格より30円ほど安い。ドンキホーテなどでも安く弁当などが安く販売されており、2〜3日分の買い溜めなら、なんとか凌いでしまう猛者もいるだろう。

 いずれにしてもデフレによって自炊の優位性が薄らいだ。こんな状況だから、一人暮らしで自炊は経済効率が悪い。この時期に建設されたシングル用の賃貸物件からは二口コンロがどんどん消えていったに違いない。もはや、食事は家でするもの−−そんな概念さえ揺らぎ始めたように思う。

惣菜をカスタマイズ

 経済効率性は自炊におけるメリットでよく語られる部分だが、自炊にはほかにもメリットがある。そのひとつが、カスタマイズできるということだ。

 その日の食料調達具合によって、その日の気分によって、その日の天候によって、季節によって、食事を自分好みにアレンジできるのは自炊の大きなメリットでもある。これは、外食・中食では難しい。

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