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小説:バンビィガール<2-2>壮絶なコンテストバトル #note創作大賞2024


 この日の夜、私は『アテにしている』人物に電話をかけた。
「もしもし、やなぎ先生ですか? お忙しいところ失礼します。紺野あおいです」
『どうしたんや、急に。元気か? ……と訊くまでもないか』
 柳先生は高校時代の恩師。身分をこっそり隠して会員制SNSをやっている。私は卒業生なのでアカウントを教えてもらっていたのだ。
「はい、おかげさまで絶好調です」
『お前、何か俺を巻き込もうとしてるやろ? 最近の日記でわかるぞ』
「えへ、ばれちゃいました?」
『で、用件はなんや』
「先生に参謀役をお願いしたくて」
『参謀役?』
「ええ、実は……」

 ここで日記にも書いたけれど、改めてバンビィガールの最終選考に残れたこと、今までの経験上『組織』は必要だと判断したことを伝えた。
 今までの傾向ではバンビィガールに決定した人は学生が多く、例えば学校のサークルのメンバーが100人いると、毎日最低100票は確保できる。要は『組織票』というものだ。無名の私はそれに立ち向かわなければならない。だからこそ参謀役は是非頭の切れる人イコール柳先生にお願いしたいと思っていたことを丁寧に説明した。

『なるほど、俺がちょうど出向中やから暇なんちゃうかと見越してやな?』
 先生は社会科の先生で教えるのがとても上手。私たちがお世話になっていた時も、長期休暇中の実力養成講座はいつも満員御礼なくらいなのだ。
 なのに、不本意ながら――この場合は不本意というより偉くなったからなのだけれど――昨年度から教育委員会に出向で淡々と事務仕事をしていることを嘆き、一日も早く現場に戻りたいという日記を読んでいたので、絶好の機会だと思ったのだ。
「まあまあ落ち着いて……先生って現場主義じゃないですか。でも今は時間がたっぷりある。今回のことって、可愛い可愛い教え子の人生かかってるんですよ?」
『自分で可愛いとか言うな。あと俺はそんなに暇ちゃうぞ!』
最後の方はやや本気で怒っているような声だったので「すみません」と小声で謝る。
『ええぞ』
「え?」
 てっきり断られる口調だったので、間抜けな声が出た。
『その代わり、何かうまいもの食わせろ』
 先生は美味しいものが大好き。進路指導室の冷蔵庫に沢山入っていたお菓子の袋を思い出し、クスリと笑う。
「もっちろんです!」

 電話が終わり、最終選考のメールが届いた時に書いた日記のコメントを確認するために、会員制SNSのアプリを開く。

【20XX年03月07日15:18:最終だよ!(一部の友人まで公開)
 先日から「まつり、あやしいな?」とお思いの皆様。
 正解です。
 実は、書類審査、カメラテストを経て、バンビィガールの最終選考に残れました!
 結果がメールで届いた時、小躍りしてしまいました。
 長年の夢があともう少しで叶います。
 詳細は追って説明しますが、取り急ぎ。】

 まつり、は自分の性格がお祭りっぽいからと考えた会員制SNSでのニックネーム。エントリーした日から詳細は伏せて、気持ちだけを羅列していた日記。
 この日記にはお祝いコメントが走り、いいねマークも沢山。
 県外の人には丁寧に説明をして、応援してもらえるようレスポンス。
 これからやることは沢山あるんだと実感しながら、早速新規コミュニティの作成に取り掛かる。
 会員制SNSにはコミュニティ機能が備わっていて、私はおふざけで某アニメから『連合軍』とコミュニティに名前をつけた。信頼できる人たちだけで構成して、作戦を練りながら一ケ月を乗り切ろうという魂胆だ。非公開コミュニティに設定できるのはコンテストの性質、非常にありがたかった。司令官という名のコミュニティ管理人は一応私だけれど、仕切るのは柳先生にお願いした。『連合軍』には、昔ながらの友人や、インターネットで長い間交流している異業種の友人で固めた。

 次に、新規ユーザーの獲得だ。
 オフラインでは両親や友達のコミュニティをガンガン攻めていかないといけないし知名度なんてないに等しいので、SNSを駆使して投票のお願いをすることにした。
 投票を呼び掛けるための写真メインのSNSとクリエイティブ系のウェブサイトのアプリをダウンロードし、アカウントを取得した。長文を書くにはブログのようなサービスを提供しているサイトを利用した方が適切だと思うので、その中でも比較的ユーザー間のやりとりが活発なサイトを選んだ。

 生まれ育った奈良が大好きなこと。
 奈良には寺社仏閣だけではない、たくさんの魅力があること。
「奈良にうまいものなし」とは志賀直哉の言葉だけれど、そんなことはなくて奈良には魅力的なお店がたくさん軒を連ねていること。
 奈良県民も気づいていない「奈良の魅力」を、奈良を代表する情報誌バンビィで、バンビィガールとして伝えたい。
 そんな「何故、バンビィガールになりたいのか」を文学部卒なめんなよと長文で訴えたら、運営さんから『今日のイチオシ記事』として紹介され、思いのほかバズったので驚いた。

 問題なのは写真メインのSNS。
 初回の投稿を悩み、仕方がないので自撮りするのは慣れないけれど、これも投票をお願いするためと最新号の月刊バンビィを持ち撮影。アナログでイラストを描くのが好きだったので、そのイラストも撮影してSNSに載せた。

【20XX/03/17
 皆様、初めまして! 紺野こんのあおいと申します。
 ■私のこと■
 奈良の情報誌「月刊バンビィ」のイメージモデルを決める「バンビィガールコンテスト」に書類選考、カメラテストを経て、最終選考に残ることができました。
 この「バンビィガールコンテスト」は「バンビィ」本誌、「Webバンビィ」などで、表紙や特集記事で一年間活動する専属モデルを決めるものです。
 もし紺野あおいを応援してやってもいいぞー! という方がいらっしゃればフォロー、シェア、拡散など是非お願いいたします!
 最終審査は一般投票となっており、1日1票投票することができます。
 投票するためには「バンビィナ」への会員登録(無料)が必要になります。
 登録などに際し個人情報の入力が必須になりますが、よければ登録の上1日1票投票して頂けると嬉しいです。
 期間は3月25日~4月25日までの一ヶ月間となっております。
 また、3月25日発売の「バンビィ」4月号にも写真で紹介されます。
 どうぞよろしくお願いいたします!!
 #紺野あおい
 #月刊バンビィ
 #バンビィガール
 #バンビィガールコンテスト
 #奈良】

 徐々にフォロワーは増えていき、寄せられるコメントの大半は好意的だった。
 でも中には

『ババアじゃん、無理だね』
『でてくんな、ブス』

 そんな心無い言葉もチラホラあった。
 そーですねー、実際27歳ですもんねー、ババアですよねー、ブスなのは自覚ありまーす、さーせん。
 普段は豆腐メンタルなのに、ここまで来る苦労を考えれば全く心に刺さらなかった。
 あれ? 私、強くなれたのかな?

「わー、暇人の悪口サイアク。自分の顔見て言えるんかっちゅーねん」
「アキヒロ、口悪い」
 バスケットボールサークルで汗を流している途中の休憩での出来事。私がスマートフォンで自分のアカウントをチェックしていると、サークル仲間の大宮章弘おおみやあきひろが私のスマートフォンの画面を背後から覗き見してきた。アキヒロは卑怯者が大嫌いなので、匿名性の強いSNSはあまり好んでいないようだった。
「実物はこんなにも可愛いのに」
「褒めてもなにもでませんよー」
「一応本当のことを言ってるんやけどな」
「はいはい、ありがとうねー」
「そんな感情のこもってへん『ありがとう』、聞いたことないわ」
 呆れた表情のアキヒロに、私がにっこり笑ってスマートフォンを差し出す。
「ごめんごめん、じゃあアキヒロ、写真撮って」
「急やな!?」
 アキヒロの一重だけどちょっと大きめの黒目が少し大きくなる。
「SNSを定期的に更新することで、新規フォロワー獲得に繋がるんやから、ほら応援してくれてるなら早く撮って」
「はいはい、わかりましたー」
 私のスマホを気だるそうに受け取り、やる気のない声を出したアキヒロは、意外にもすごく生き生きとした私の写真を撮影してくれた。
 バスケットボールを両手で持って、自然な笑顔の私が切り取られている。

【20XX/03/20
 紺野あおいです!
 今日は趣味のバスケの日♪
 満身創痍ですが楽しんでます!
 バスケの他に、ダンスも大好きだったりします。
 #紺野あおい
 #バンビィガール
 #奈良
 #バスケットボール
 #バンビィガールコンテスト
 #投票日まであと5日】

 そんな些細な日常も写真メインのSNSに投稿していった。

第4話はこちらから↓

第1話はこちらから↓


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