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【No.1】水の声 水泳部員をぶっち抜く帰宅部員の奇跡の物語

皆さんには水の声は聞こえるだろうか?
水の声は私を遥かに速い泳ぎへと導いてくれました。
そして、その水の声が私の人生を大きく変えたこと。
不思議な体験をさせてもらった事。
今までの人生で、一番心に残っている出来事です。
その声を皆さんにも知っていただきたいと思います。


目 次


はじめに
全ては水の声に導かれた時からだった
小学校生活
中学時代
時間と空間を超えた世界
水泳大会までの出来事
別世界
約束
闘志
夢の中
校内水泳大会(前編)
校内水泳大会(坂本久美子 前編)
校内水泳大会(リレー編)
校内水泳大会(坂本久美子 後編)
校内水泳大会(後編)
校内水泳大会(決勝編)
告白
その後…
2008年7月(最終編)

おわりに

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はじめに

この物語は私が経験した事実を基にしたフィクションです。

物語を発展させるために多少のフィクションを入れていますが、このタイトルにもある『水の声』はノンフィクションです。

間違っても幽霊やそう言ったものでもなければ神や仏でもありません。
宗教的な感覚で捉えないで頂ければと思います。

この『水の声』の事は今まで生きてきた間、ほとんどの人に話したことはありませんでした。
話しても誰も信じてくれると思わなかったからです。
しかし、2008年の7月、娘をプールに連れて行ったとき思わぬ言葉を私に言いました。
『パパ、水の中で声が聞こえるよ』
その言葉を聞いたとき、一瞬、昔の出来事が走馬灯のように頭をめぐりました。
自分でも信じられない出来事でした。
『その声の言う事を聞いていれば、とても早く泳げるようになるよ』
そういうと、6歳の娘は目を輝かせ、一生懸命に泳ぎをマスターしようとしていました。

私はこの『水の声』の事を今になって多くの人に知ってもらいたいと思い、今、このような形で書きました。
楽しんで読んで頂ければ幸いです。


尚、主人公の小川純は未成年で喫煙しておりますが、未成年の喫煙は法律で禁止しております。

未成年のくせに喫煙をしていた私が言っても説得はありませんが、未成年の読者の皆様は絶対に喫煙をなさらぬよう、お願い申し上げます。


全ては水の声に導かれた時からだった

俺は小さい時水に入るのが苦手だった。
恐怖と言うものもあったが、何か他に特別な怖さがあった。
トラウマがあるわけでもなく、だからといって水が嫌いなわけでもなかった…。
それはただ単に臆病だっただけかもしれない。
あの水の声に出会うまでは…


俺は小川純。つい先日32歳になったばかり。
妻と子供が一人、かわいい6歳の娘がいる。
それと妻のおなかにはもう一人子供がいる。
仕事は…まぁ、いい収入を得ているわけでもないが個人事業として細々やっているのが現状だ。
会社に勤めたりする事はどちらかと言えばできない、このリストラが頻繁にされる時代にはまだマシな方なのかもしれない。


元来集団生活と言うものができないせいか、学校時代でも浮いた存在であり、嫌われもあり、慕われもありの、まぁ言ってみれば単純な落ちこぼれである。

特に好きな科目があるわけでもなく、どちらかと言えば学校は遊びに行くような気持ちでいた。
小学校で初めて25メートルプールに入った。
あまりの深さに驚いたが、最初恐怖心はなかった。
しかし、その深いところにもぐった時に、水の中の静寂の中に一瞬声を聞き取った。
その瞬間から、子供心に怖いと思った。
今のはなんだったんだろう?
一体俺は何を聞いたのだろう?


次の瞬間から俺は水にもぐる事を恐れた。
そして、しばらくの間、水にもぐる事を自分から避けた。
学校のプールの授業は完全にもぐる。
当たり前の事だ。泳ぐには頭からもぐって泳ぐしかない。
俺はそれを避けた。
あの声が聞こえてくると思ったからだ。
そのせいか、先生には怒られ、クラスメートからは弱虫扱いされ、小川は水にもぐれない弱虫だとクラスを越え、学校中に広まった事は言うまでもない。
元々集団行動ができないのだから、他のヤツがなんて言おうと別にそれはそれで構わなかった。

しかし、小学4年の夏。
25メートルを泳がないと家に帰さないという無理やりで無茶苦茶な無理難題を強いられ、俺は早く家にかえって見たいテレビ番組があったから従うしかなかった。
それまでの授業で泳ぎの基礎は個人的に覚えてはいた。
ただ、泳ぐのは、この時が初めてだった。

ピーー!!
先生の吹く笛の音がなり、俺は意を決し、水にもぐり
足で後ろの壁をけって、泳ぎだした。
あの時と同じように水の中は静まり返っていた。
静寂とはまさにあのことを言うのだろう。
意外にも真っ直ぐ泳げる自分に驚きながらもはじめてやるへっぽこな自由形でゴールを目指す。

…その時だ!
『こっち』
あの声だ。
耳にではなく、心の中に聞こえてくるような不思議な感覚。
『そう。そのまま。』
誰だ?
『焦らなくていいよ。』
誰なんだ?
次の瞬間指先が壁に当たり俺はトップでゴールにたどり着いた。
自分でも驚く早さだった。
笛を首からぶらぶらさせた先生も呆気に取られたのかそのまま呆然と立っていた。
他の友人達も口をぽかんと開けたまま、その瞬間を信じられないでいたようだった。

信じられないのは自分だった。
25メートルを泳いだ事ではなく、あの声が一体なんだったのか?
自分は一体何を聞いていたのか?
壁にぶつかった指先の痛みを感じながら思っていた。


25メートルを泳ぎきった俺は、家に帰るまでにあの声は一体何だったのか考えていた。
『一体俺は何を聞いていたのだろう?』


家に着き、見たかったテレビの事も忘れ、母親にその事を話した。
『へぇ~。よかったじゃない。』
これしか帰ってこなかったのだ。
今考えれば、子供の言う不思議な事にしか過ぎなかったのかもしれない。
その晩、風呂に入って、同じように潜ってみたが、あの声は聞こえなかった。
寝るまで、あの声の事をずっと考えていた。
子供とは不思議なものである。
何か自分の知っている知識以外の事が起きると、それを知りたくなって、本気で動き出すのである。


あの声の正体が知りたい…

その一つだけだった。

季節は夏休み。
次の日、友人達と市営プールに行く事にした。

子供にとって夏休みは最高の時間であることは今も昔も変わらないだろう。
暑い日差し。アイスクリーム。お盆。親戚や従兄弟と会える。そして、プールや海水浴。

市営プールは小学生の子供にとっては最高の遊び場だろう。
俺の住む会津若松の市営プールは2時間30円で入れる。
25メートルプールと50メートルプールがあり、普通は25メートルプールのみしか入れなかった。
50メートルプールには小学生では白地に男は黒で女は赤の『検定』という文字が入った布キレがないと入れなかった。

友人達と遊びに来た俺は25メートルプールで遊んでいた。
しかし、流石は夏休み。他の小学生や子供がわんさかで芋洗い状態である。
泳ぐなどという行為は、ある意味では自殺行為に匹敵するかのごとくそれはもう込み合いすぎだった。

俺は流石に嫌気がさし、50メートルプールに行こうと友人達を誘い、監視員に見つからないように心臓をドキドキさせながら全員で50メールプールに入った。
その瞬間、全身がプールの中に入り、その深さに驚いた。
しかし、恐怖はなく、子供ながらに楽しくなり、もう一度皆で潜った。

…そのときだった。
『あはは。楽しそう。』
あの声だ。
俺はすぐに水面に出て、友人達に聞いた。
『なぁ、今水の中で声聞こえたよな』
友人達は『はぁ?? お前頭おかしくなったか?』
と笑われた。
次の瞬間、監視員の怒鳴り声が聞こえ、俺達はみんなで逃げ回ったがつかまり、おもいっきり叱られた。
『検定取ってから入れ!!』

…そうかい。だったら取ってやろうじゃねぇか!!
俺はあの声の正体が知りたかった。
その為に検定を受けようとこの時思った。
検定は50メートルを泳ぎ切れればOKだった。
時間はどのくらいだったかな?
ん~…何秒だったっけな?
それと認定料金として500円がかかった。

その日、学校に問い合わせたら、翌日に水泳部の検定試験があるといわれ、水泳部ではない俺は頼み込み検定試験を受けることにした。
学校では異例であるにもかかわらず、担任は水泳部の顧問に頼んでくれた。

親父にその事を伝え、500円玉を一枚預かった。
水泳など全く興味のない俺がいきなりの検定試験。
親父はどんな気持ちだったんだろう。
『受けるからには受かって来い』
そう、俺に言っってくれた。


夏休みの中盤。
学校には水泳部員が沢山いた。
選手になるには、まず検定を受けるのがある意味では当たり前になっていたからだ。
その中に、なぜか水泳部ではない俺が一人。
ある意味ではおかしな話である。

30人はいただろうか?
その最後の最後に俺の番が回っていた。
プールのコースは6コースあり、一回で6人がその試験を受ける。

この試験、小学生にしては結構難関だった。
水泳部ですら不合格者が出るほどの難関だった。

その瞬間、俺は場違いだという事に気が付いた。
皆は選手になるために必死になって試験を受けている。
俺はといえば『あの声』の正体を突き止めたいから受ける。
考えは全く違っていた。
そして、水泳部でも落ちる試験に何も考えずに挑んだ事を少し後悔していた。
そして、水泳部でもない俺が試験に受かるなどありえないのではないだろうかと、すこし逃げ腰になっていた。

だが、手元においた親父から預かった500円玉が俺を突き進ませた。
『受けるからには受かって来い』
当時の小学生にとって500円玉はある意味では超大金で夢にまで出てくる夢の存在だったからだ。
『受かってやる。じゃないと親父との約束が…』

徐々に俺の番が回って来るのであった。


検定は飛び込み、水の中からスタートとどちらからでもよかった。
水泳部員は勿論、飛込みからスタートするが、水泳部員ではない俺は飛び込みをしたことがなく、やり方もわからなかったため、水の中からスタート。
勿論、水泳部員達は俺を見て笑っていた。
『飛び込みできねぇくせに検定かよ』
『おいおい、水の中からか』

正直、悔しかった。
飛び込ができないことが何が悪いのか?
悔しさも、俺の試験の一部だった。

「よ~い、スタート」
水泳部顧問の一声で試験が始まった。
瞬間、俺は水に潜り、後ろの壁を思いっきり蹴り、スタートした。
他の人たちの飛び込んだ時の音が水の中にもこだました。
俺は最初からプールの一番下を泳ぎだし、その静寂に身を任せた。

静かになれば『あの声』が聞こえると思ったからだ。
試験中にもかかわらず、やはり俺は心のどこかで『あの声』が聞こえるのではないかという期待も持っていた。

その瞬間だ。
『こっち』
あの声だ。
『そろそろ上に上がって』
俺は声に従った。
『そうそう。クロールやってみて』
俺は命令されるが如く、とにかく従った。

25メートル地点でのターン。
全くやった事のない水中ターンを俺はこの試験の場でやってみようと決意をしていた。
イメージしているようにできるかわからなかったがとにかくやってみた。
頭を下に向け、そのまま横を向き体を水面から見て縦になるような姿勢で再び後ろにある壁を思いっきり蹴る。
イメージ通りにできたかどうは別として、この時俺は初めて水中ターンができた。
試験中に初めてやる馬鹿も珍しいかもしれないが…w

そして、また一度プールの一番下を泳ぎだす。
下にある各メートル地点の先を越えるたびに自分が前に進んでいるのが良くわかった。
『いいよ。そのまま上に上がって』
俺は完全に従った。
『あとは一気に泳いで』
俺はその時にできる自分の泳ぎをした。
そしてやっとの思いでゴールをした。

水面に顔を出した俺は、一瞬自分が最下位であると思った。
試験は合格できなかったのか?

しかし現実はその全く逆の事がおきていた。
水泳部全員を追い越し、俺はトップでゴールをしていた。
俺の後にゴールをした水泳部員も、周りもこの事実を受け止められないでいた。
受け止められなかったのは自分自身だというのに…

徐々に周りがざわつきだす。
『なんなんだ?』
『どういうこと?』
『意味わかんねぇ』

俺がその言葉を言いたいくらいだった。
飛び込みもできない俺がトップでゴール。
水泳部員を抜いてのゴール…。

この場でもやはり俺は最初から最後まで浮いた存在だった。

勿論、検定試験は合格。
嬉しかった。
だが、試験に落ちた水泳部員を思うと、どことなく後ろめたい気持ちと、申し訳ない想いがあった。

水泳部顧問が検定バッジと500円玉を交換する時
『水泳部に入れ。明日から来い。』
と言ったが、俺は断った。
元々、水泳部には興味はなかったし、水泳でどうこうしようとかそういう思いも一切なかったからだ。
それに、軽蔑の言葉を吐く連中といたくないという自分勝手な思いもあった。


そして、俺は『あの声』の存在を確信した。
『あの声』は俺にしか聞こえない、水泳の神様の声なんだと思い始めた。

この声の存在が後に自分自身を水泳の世界に入らせる事になるとはその時は考えもしなかった。

翌日から、毎日のように市営プールに通った。
目的は50メートルプール。
監視員に検定バッジ見せびらかして、どうだ?この野郎!といわんばかりにプールに入り、俺は遊びまくった。
一人だけ受かったのだから、他の皆は入れなかった。

申し訳ない想いがあり、その後は一人で市営プールに通う事になる。

一人で行くプールほど寂しいものはない。
一人だとやることがないのだ。
唯一あるといえば泳ぐ事しかない。

50メートルプールはほとんど人がいない。
泳ぎの練習にはもってこいの場所だ。

泳ぐ事に興味はなかったが、やはり俺は『あの声』が聞きたくて仕方がなかった。

この世の声とは思えない、まるで天女の声のようにそれは俺の心に残るのだ。

聞き方は掴んだ。
まず水にもぐる。
そして、プールの最下位部に沿って進む。
プールの最下位部には静寂だけがあり、自分から問いかけたりはせずに、声が聞こえるのをじっと待つ。
徐々に、天女のような『あの声』が聞こえてくる。
時にそれは、自分の周りの水の流れを教えてくれる時もある。
隣のコースの人が進んだ後の水の流れを避けるようにコースを少しずれるように支持も出してくる。
また、自分の先に誰もいないときは水の流れはないので、『そのまま』とか『全力で手をゆっくり前に突き出すように』…と、反面、水泳の監督のような指示までしてくる。

ただ弱点が一つだけある。
水面に出てクロールになったときに自分の手で出す水しぶきの音と、周りの声援で声が聞き取りにくくなってしまうのだ。
周りの声援を消す事は出来ないが自分の出してしまう水しぶきの音はクロールの改良をすれば抑えることが出来る。
その為、その声が聞きたい為だけの事で、俺は自己流のクロールを編み出す事が出来た。

水に対し水平になるように、豆腐に包丁をゆっくり入れるように斜めから手を入れ、その後、手の甲に軽く丸みを帯びさせ、そこから90度下げたところで、ほんの少し自分の体から離す様に広げていく。
手を水面から出す時は手を横にして、刀を水面から出すようにして抵抗を抑える。
これの繰り返しによって水しぶきの音は少なくなり『あの声』が聞き取れやすくなった。

この改良も重なり、俺は夏休み中にスピードを極めた。
全ては『あの声』を聞くためだけだった。
そして、夏休みも終わり、人生を変えてしまう2学期が始まろうとしていた。

つづく


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