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4つのアプローチ:距離感を調整する②

 前回は距離感を調整するとして、相談の頻度やメール、電話などの媒体の利用を少し取り上げて話をしました。今回は実際に支援を行っている際の距離感について書いていこうと思います。

 僕は不登校やひきこもりの方が通うフリースペースやグループなどで支援をしていたことがあり、そこに通ってくる人とどのように関わるかがひとつのテーマでした。

 部屋に入ってきた時の相手の表情や状態、その後の言動などから「今日はこのくらいで関わろう」という風に決めていました。なので、その日によって関わり方は変わり、一緒に遊んだり、活動したりすることもあれば、少し距離を取りながらそっとそばにいることもあったし、逆にほとんど関わらないという時もありました。

 また相手によって言葉遣いなども変えてなるべくラフな感じで話しかけることもあれば、丁寧な言葉を心がけることもありました。会話の内容も同様で、同じマンガの感想を言うのでも「あそこ面白かったねぇ~」とただ言う場合と「あの場面での主人公はどうしてこうしたんだろう?流れ的にはこうしたほうが良いと解釈したんだけど…」など、取り上げ方を変えていました。

 グループだと参加メンバー同士の距離感を調整する必要もあります。もう少し雑談ができるくらいの関係になれればと思えば間に入って、三者で話し合えるようにしますし、相手に一方的に話しかけてしまう人がいれば、言われている方が辛くならないようフォローをします。場合によっては一方的に話す人と、どう話しかければよいか話し合ったりしました。

 物理的な距離感について調整する時は「パーソナルスペース」を参考にすることが多いです。ご存じない方のために説明しておくと、社会心理学の概念で、相手との親密度によって適切な距離感が変わってくると考えられています。おおまかには4つに分類されています。

密着距離(0cm〜45cmくらい)・・・だいたい「ごく親しい人」が許される距離で「抱きしめられる距離」と言われています。

個体距離(45cm〜120cm)・・・「親しい人」に許される距離で「手で相手に触れられるくらいの距離」「両者が手を伸ばせば触れ合えるくらいの距離」と言われています。

社会距離(1.2m〜3.5m)・・・「仕事上のつきあい」などで許される距離で「身体には触れられないけど、コミュニケーションは取れる距離」と言われています。

公共距離(3.5m〜7m)・・・「講演会や演説」などの距離で「複数の相手が見渡せる距離」と言われています。

 これを用いながら、相手とどのくらいの距離で接するのが今は良いと思うのか話し合ったり、自分一人で検討したりしていました。

 座る位置なども結構気にしていて、対面だけでなく、横並びや90度になるように座るので、相手に与える印象は変わります。姿勢も同様で、背筋をピシッと伸ばした方が良いときもあれば、猫背でふにゃっとしていた方が良いということもありました。まあ結局は相手次第ということです。

 僕は今子育て支援の分野で仕事をしているので、保育園の巡回支援等も行うのですが、その時もクラスにどう入るかは気を遣うところになります。あまりクラスに入り過ぎると、子ども達がざわついて収拾がつかなくなってスケジュールを乱してしまうことになるからです。ただ、あまり空気のようになっていても、それはそれでよくない気がしています。何となく自分が園児だったとしたら、大人からじっと観察されているのはあまり気分の良いものではないだろうと思うからです。なので、ほどほどに参加したり、遊んだりしながら、子ども達の様子をみています。

 こういった配慮は現場ではみんながそれとなくやっていることなのですが、案外言語化されることは少ないと思っています。みんな自分の経験でやっていることが多く、ほとんど無意識にやっているからだと思います。でも、このあたりがよくいわれる「センス」と呼ばれるところなので、もっとディスカッションできてもよいことかなぁと思っています。

 最後に、これらは自分の状態も考慮して検討しく必要があります。デイケアなど毎日あるような活動だと自分自身の調子が悪いときだって必ずあります。そういった時はあまり無理をせずに相手との距離も少し取りながら関わっていく必要があります。僕は凡人なので、常に100%良い関わりを相手にできると思っていません。なので、はじめから「今日の自分の調子だと、このくらいまで関われるかな。」とあたりをつけながら参加することにしています。そういった場合、相手が「もしかして自分のせいで機嫌が悪い?」などと勘違いしないようにするのが大切で、なるべく「今日は花粉症の薬を飲んでて、ちょっとボーとしています」など具体的に伝えています。

#臨床心理学 #心理療法 #対人支援

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