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複業紹介「非公開案件」&書籍紹介

(株)秤 代表の小川と申します。セールスプロモーション業界で4年、電通グループなどの広告会社の営業、プランナーとして10年強。データ分析を軸にしたコンサルティング支援で4年強。マーケティング戦略から戦術まで幅広く関わってきました。2018年11月には「Excelでできるデータドリブン・マーケティング」という書籍も出版しました。

「TVCMやインターネット広告などのマーケティング施策が、それぞれ売上をどれだけ増やしているか?」効果を定量化し、予算配分の最適化試算まで行うマーケティング・ミックス・モデリング(MMM)という分析を学べる書籍です。マーケターや、マーケティング組織に統計や因果推論の知識をインストールして意思決定を確かなものにすることがビジョンでありミッションです。ストアカでマーケティング分析の研修も提供しています。

業務委託でパナソニック(株)の全社横断のデジタルマーケティング部署のD-Locator’s HUBのアドバイザリーメンバーなど、10足前後のわらじで活動している「複業マーケター」です。このnoteは、弊社の設立1周年を機に、業務委託での複業先にまつわる内容を紹介する企画の一環です。年末年始の読書ニーズを踏まえ、ビジネス、マーケティングに役立つオススメ書籍とともに、複業それぞれの内容を紹介するものです。

複業紹介「非公開案件」

このnoteは10足のうち、役割を明確に開示していない非公開案件をテーマにしたものです。役割の内容をそのまま詳しく紹介ができないため、その役割での業務から着想を得て、私がこれからの日本のマーケティングをどの様に捉えているか?共有します。


マーケティングで活用が期待されてきた主な「データ」はスマホなどから得られる行動データです。それを分析し顧客の理解を促進しながらコミュニケーションを図ることや、新たなビジネスやサービスを創出することに多くの企業が期待し様々な取り組みが行われてきました。しかし、POC(Proof of Concept=概念実証)で終わってしまったり成果につながらなかったプロジェクトも多いと思います。行動データ活用の戦いの原則はデータ量のパワーゲームです。たとえば年商1,000憶円のECであれば、1%CVRを改善すれば10億円のメリットが生まれますが、年商が10億円のECは1%CVRを改善しても1,000万円しかメリットが得られません。A社とB社ではデータ活用の基盤や分析などに投資できる金額も100倍違います。

そうしたパワーゲームのトッププレイヤーがAmazonです。Amazonの研究開発費はおよそ2兆5,600憶円。2017年と2018年の2年連続で世界1位です。日本企業で1兆円を超える研究開発費を捻出できているのはトヨタ(1.1兆円)だけです。気付けば世界一の利用者がいるタクシー会社はUber、宿泊会社はAirbnb、映像配給はNetflix、小売はAmazonです。利用者数世界一のサービスは欧米のデジタルプラットフォーマーばかりです。

本質はデータを活かして有意義な体験を提供するサイクル

前述した企業が勝者になった理由は「行動データを集めた」からではありません。テクノロジーにより「突出した体験」を提供したことで行動データが集まるようになったからです。さらに、そのデータを活かして有意義な体験を顧客に還元することで顧客満足度を上げて、さらに顧客が増えて行動データも集まり続けるサイクルができたからです。テクノロジーを活かした「突出した体験」を提供することが行動データ活用の原点だと考えます。これは、Amazonの「フライホイール効果」を示したスケッチです。

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出典:https://www.slideshare.net/AmazonWebServices/amazon-culture-of-innovation


もとになったのは、ジェフ・ベゾス氏によるスケッチです。Amazonは商品の低価格化を実現し顧客の満足度を高め、顧客満足度が高まると、リピート購入により取引量が増え、売りたい企業も増えて品揃えが充実し、さらに顧客満足度は高まりました。フライホイール効果のスケッチは、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)がより良いものになっていくサイクルがぐるぐると回ることがAmazon成長の原動力であることを示しています。


テクノロジーの進化を統制する法整備は後追い

データ活用の本質は、フライホイールのようなサイクルを作ることでは無いでしょうか?その本質をおろそかにしてしまったプロジェクトもありました。たとえば2019年後半にある企業が学生に不利益なデータを企業に販売したことが社会的な問題になりました。それが直接の引き金となったかは定かではありませんが、その後に改正個人情報保護法が制定され、2022年春に施行されることになりました。

メールやLINEやSNS利用や移動や買い物などのログデータが全て第三者の手に渡れば、どこに住んでいてどんな人でどんな生活をしているのか?丸裸にできますし、音声データをたくさん集めれば、音声合成技術で特定の個人になりすましたサギ行為にも悪用できます。個人データの活用と悪用は紙一重です。あらたな倫理観やそれを統制する法整備が求められますが、テクノロジーの進化のほうが早いので、法整備は後追いにならざるを得ません。2020年5月21日よりアップルとグーグルは共同開発によりウイルスの感染追跡用のAPIの提供を開始しました。APIとはソフトウェアやアプリケーションなどの一部を外部に向けて公開することで第三者が開発したソフトウェアと機能を共有できるようにするものです。各国の公衆衛生機関が開発するアプリにこのAPIを実装することで濃厚接触の検出や追跡ができる様になります。ライバルの2社がタッグを組み、各社が保有してきたデータと技術を持ち寄ることで社会課題を目指す取り組みです。ここでも運用時のプライバシーへの配慮に懸念がもたれていますが、解決法を見出すことさえ出来れば、大きなイノベーションにつながるはずです。私はこうした行動データ活用のさらなる変化をポジティブに捉えています。イノベーションに貢献するために、これから紹介するスキームに注目しています。

情報銀行

いちはやく個人データ活用のガイドラインを設けたEUのGDPRでは「個人に決定権を持たせる」基本理念をもとに個人の権利を強化し、データを扱う企業への制裁とその執行を厳格化し、個人が簡単にデータを預けてそれを取り戻すことができる状態を作ることを義務づけました。一方、中国では国や企業が大量の個人データを集めて保持しても良いという考え方が軸となっています。「サイバーセキュリティ法」という法律もありますが、個人情報の保護というより、中国国家の安全保障が目的となっています。ネット検閲やGoogleやFacebookへの接続規制など、インターネット情報に関しても規制と制御を行ってきました。キャッシュレス先進国でデジタルテクノロジーを活用したイノベーティブなサービスもたくさん生まれています。日本では独自のモデルとして「情報銀行」という機関が個人データを預かり運用していくスキームがあります。多くの企業がその事業に参入し実証実験が行われていますが、社会に認知され浸透していくのはこれからだと思います。「情報銀行」でググると出てくる文献によくこの図が出てきます。

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出典:「AI、IoT時代におけるデータ活用ワーキンググループ中間とりまとめの概要」(内閣官房IT総合戦略室)

「個人情報を預けて得られる便益」と言われてピンとくるでしょうか?調査会社の消費者調査パネルやカルチュアコンビニエンスクラブが行動データを集めてきた様に、情報を提供する見返りとしていくばくかの報酬やインセンティブを与えるだけのビジネスモデルが情報銀行ならば、それだけでは浸透しないのではないかと考えています。一般的に個人情報=漏れるというリスクのイメージが強く、漏れるリスクと報酬を秤にかけた際にリスクを上回る金額を提示できるか疑問だからです。

人ではなくAIが個人情報を安全に利活用できたとしたら?

たとえば私が過去にどんな病気になり、普段何を食べてどう体重が変化しているか?こうした情報は第三者に晒したくありません。しかし、仮にこうしたデータを情報銀行が強固なセキュリティによってAIで管理し、人間の目には触れずに利活用できる仕組みがあり、私向けに運動や食事など、健康であり続けるための最良のアドバイスを受けることができたとしたら話は別です。われわれは、データが安全に管理された状況で「突出した体験」の恩恵を受けることができるとわかれば、個人情報を預ける気になるかもしれません。情報銀行のスキームを企業側の目線で捉え、個人情報を得ることで販促など行い、その活動から得られた原資を元に個人への見返り報酬をリターンするビジネスモデルとして推進することだけに主眼を置くのではなく、個人側の目線で考え、個人が情報を預けることでかつてない「突出した体験」による恩恵を得るためのサービスデザインに主眼を置いて、イノベーションを実現するスタンスが必要だと考えます。参考にさせて頂いた「情報銀行のすべて」の後半では複数の個人データの利活用による未来のサービスデザインが描かれています。

参考書籍


スマートシティ

今年3月にトヨタとNTTのスマートシティビジネスの事業化に向けた業務資本提携が発表されました。

上記の記事から引用します。

「スマートシティでは、人やクルマ、企業・自治体など、街に存在する全ての領域への価値提供を行なうとし、静岡県裾野市東富士エリアのWoven Cityを皮切りに、東京都港区品川エリア(品川駅前のNTT街区の一部)に実装。その後、連鎖的に他都市へ展開を図るとしている。スマートシティープラットフォームは、住民・企業・自治体等向け価値提供のセキュアな基盤として、スマートシティのデータマネジメントと情報流通、これらに基づくデジタルツイン(まちづくりシミュレーション)と、その周辺機能により構成。デジタルツインでは、実在する街をリアルタイムに仮想空間で再現し、試行結果をフィードバックする機能などを実装する。
(中略)
両社はオープンマインドを掲げ、他社の参入も歓迎。同様の研究を行なっているGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)については、「申し出があれば歓迎するが基本は競争になるだろう」と語った。
「デジタルツインとは、そのまま「デジタルの双子」を意味します。フィジカル空間の情報をIoTなどを活用して、ほぼリアルタイムでサイバー空間に送り、サイバー空間内にフィジカル空間の環境を再現します。このサイバー空間上に物理世界の情報を全て再現することから“双子(ツイン)”と表現されているというわけです。」

デジタルツインとは、そのまま「デジタルの双子」を意味します。フィジカル空間の情報をIoTなどを活用して、ほぼリアルタイムでサイバー空間に送り、サイバー空間内にフィジカル空間の環境を再現します。このサイバー空間上に物理世界の情報を全て再現することから“双子(ツイン)”と表現されているというわけです。」

参照引用:いまさら聞けない「デジタルツイン」 (1/2)

GAFAとは競争になるだろうと語られていたことも印象的です。

例えば自動運転技術一つとっても、それを実際にみなが活用したらどうなるか?既存の交通ルールを逸脱した実証実験が必要です。スマートシティはテクノロジーを活用したこれまでにない突出した体験を社会実装する実験場ではないでしょうか?日本企業は個人データを収集するパワーゲームで負けてしまいましたが、トヨタとNTTはフィジカルな体験をサイバー空間のデジタルツインと連動して提供する基盤づくりというイノベーションに勝機を見出しているのかもしれません。


書籍紹介「IOWN構想 ―インターネットの先へ」

NTTが2030年に向けて推進する次世代光通信基盤の構想がIOWN(アイオン:Inovative Optical and Wireless Network)構想です。これまでの情報通信システムを変革し、現状のICT技術の限界を超えた新たな情報通信基盤の実現を目指すもので、光技術による「オールフォトニクス・ネットワーク」と、そのうえに構築されるリアルタイムで分析やフィードバック処理を行う「デジタルツインコンピューティング」、さらにはそれらの処理を全体最適に調和させてリソース配分を行い、必要な情報をネットワーク内に流通させる仕組みである「コグニティブ・ファウンデーション」による実現を目指すものです。2030年という、かなり先の未来を見据えた技術の構想であるため、ひとことで説明できないため、より詳しくは書籍をご覧頂きたいと思います。

デジタルツインコンピューティングとは、これまでのデジタルツインの概念を発展させたものであり、多様なデジタルツインを掛け合わせてさまざまな演算を行うことにより、実世界の「再現」を超えたインタラクションをサイバー空間上で自由自在に行うことが可能な、新たな計算パラダイム」です。

参照引用:書籍「IOWN構想-インターネットのその先へ」 P39

デジタルツインコンピューティングが目指す世界を表現したコンセプトムービーがあります。「人が想像できることは、必ず人が実現できる」SF小説の生みの親、ジュール・ヴェルヌの言葉からはじまるこの動画では、登場人物が自分の代わりにサイバー空間で仕事をするアバターと会話する様子が描かれています。

皆さんはどんな印象を持たれましたか?

仮想世界と現実を行き来として仕事をするなど、まさにSF映画の世界観ですが、2019年10月にNTTとソニーと米インテルでIOWNグローバルフォーラムの設立計画が発表され、2020年1月に米国で法人登録され、スポンサー会員として台湾の中華電信、米シエナ、富士通、米マイクロソフト、NECが加入し、一般会員として三菱ケミカルホールディングスが加わっています。

参考文献:NTT・ソニー・インテル主導の次世代光通信基盤、「IOWN構想」実現への道筋

IOWNの推進において、リアルとバーチャルが融合する新たな世界観の構築を目指すため、NTTと京都大学が提携し領域横断的な知としての哲学が導入されています。

参考文献:京大とNTT、IOWN構想が実現する世界に向けテクノロジーの進化と人が調和する新たな世界観を構築するプロジェクトを発足

日本のこれからのマーケティングを考える

今後、マーケターは一企業での行動データ活用の視野に留めず、情報銀行がもたらす突出した体験をもたらすサービスデザインを国や自治体と企業とで連携して実現していく取り組みや、トヨタとNTTの様にスマートシティの基盤作りで世界と競い合うイノベーションなど、そうした取り組みに積極的に関わるべきではないでしょうか?それらのスキームを先駆けて社会に実装し、独自の知見を得ることで日本は再び世界と戦うことができる様になるのではないでしょうか?私は、新しい社会基盤を作るデジタルトランスフォーメーションにアンテナを張って動いています。これからのイノベーションを踏まえた未来のマーケティングを予見しつつ、みなさまご自身のキャリアを考えていくきっかけになれば幸いです。

以下は告知情報となります。適宜更新予定です。本noteのキービジュアルやインタラクティブ動画のバナー画像も季節に応じて変更する可能性があります。

インタラクティブ動画「複業マーケター『秤貴史』」

2020年は特別な年になってしまいましたが、2021年、前進するのみです。私は2019年12月に会社を登記してしばらくはサラリーマンしながらの経営をしていましたが夏に会社を辞めて独立しました。セルフブランディングも含めてSNS(主にnote+Twitter)を活用して発信し、多くの企業を支援する機会をいただきました。会社の登記1周年を機に、「マーケティング」「セルフブランディング」「働き方」をテーマに合計6万文字のnoteを執筆しました。12個のnoteを360度動画で再現されたカフェの中から探す技術や、

私と怪しいキャラの映像がリアルタイムにスイッチングする技術、人物のトリミングはAIツールを使用、アクションカメラInsta360のAI編集(自撮り棒を消す、分身の術)など、最新の映像テクノロジーを盛り込んだインタラクティブ動画をエバンジェリスト兼データアナリストの役割を担う、インタラクティブ動画プラットフォームMIL社の協力のもと作りました。登場するキャラクターが渋谷のカフェでテスト販売中のチョコレートドリンクマシンで作る「チョコティー」を飲みに行くまでのシーンをVJ気分で切り替えて楽しんで頂けるものです。お時間のある際にご覧になっていただけますと幸いです。

スクエア

おまけですが、こんな企画をなぜやっているか?「秤」のグラサンをかけていますが、後半は真面目に語っているYouTuber風動画も公開しています。

2024年5月26日更新

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