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スタートアップ経営で「イシューからはじめる」ことの難しさ 【声の履歴書 Vol.86】

こんにちは。Voicy代表の緒方です。

この「声の履歴書」という連載は、Voicyがこれまで歩んできた道のりについて創業者の私があれこれ語っていこうというシリーズです。よかったらマガジンをフォローしてくれると嬉しいです。

僕が尊敬している人の一人に安宅和人さんという方がいるんですが、その方が「イシューからはじめろ」ということをよく言っています。有名な言葉で、本にもなっていますよね。ほんとにいい本で仕事する人なら一度は読むことをおすすめします。

イシュー。要は「課題」のことですが、これが本当にむずかしい。

今回は経営者として、「イシューからはじめること」について書いていきたいと思います。

目先のイシューにとらわれないように

スタートアップを経営していると、投資家の方々とお話する機会がたくさんあります。そこでよく聞かれるのが、「それじゃあ、Voicyの経営課題は何ですか?」とか、「何を解決すれば可能になるんですか?」あたりです。

これはつまり「御社の課題を教えてください」「その解決方法も教えてください」ということです。もちろん、その大切さはすごくわかってはいるんです。

ただ、我々スタートアップのサービスにおいては、そもそも事業の振れ幅が広すぎて、可能性がすごくあるので、「待って。イシューって何なんだ?」という問題があります。

それでいて、「直近の課題を解決しよう」とか、「売上を上げよう」という目先のイシューを立てると、会社の長期的なポテンシャルが、すごく弱くなってしまいます。

AppleがiPhoneをつくったときは…

なので、いかにそのタイミングに合ったものを設定するか。つまり、長期的だったり、短期的だったり、そのときに合ったイシューを考えなければいけないんです。

たとえば、おそらくですけど、AppleがiPhoneを出したときは、イシューからはじめていないと思います。そういう小さい話ではないですよね。

スタートアップって、「社会に新しいものを生み出そう」と思ってはじめていると思います。Voicyが投資家にプレゼンをするときも、「誰の何の課題を解決しているのか、という資料を入れてください」ということはよく言われました。でも僕は、「あなたたちがiPhoneでTwitterを見ているとき、誰の何の課題が解決されているんだ?」と思って、すごく憤慨していたんです。

既存の産業ありきで事業をつくっている場合と、新しい世界をつくっている気概でやるのとでは、イシューの立て方だって違ってきます。新しい世界ではイシューが何なのかすらわからないわけです。

「宇宙に行って月に着陸したい」という目標があったとして、もちろんそのためにエンジンをどう小さくするかなどのイシューはあります。しかしそもそもの「誰の何の課題を解決しているのか?」と言われたとしても、そんなものはありません。行きたいんだもん。

これは将来旅行になるのか、もしくは資源の発掘になるのか、それともただのメディア的な情報エンタメ産業でしかないのか。よくわからないけれど、それを考えながら走っているわけですよね。

そういう中でイシューからはじめていると、「ロケットのための材料工学をちゃんとやらなくちゃいけない」とか「安全性の品質をこう確保して」ということは言えるけれど、初期に考えたちょっとした計画を実行することしかできなくて、大きく社会を変えていくことは難しくなります。

「イシューすらない」のがスタートアップ

なので、「Voicyの経営課題は何ですか?」とか、「何をイシューとして始めていますか?」とか言われたとしても、それ以前に「課題もわからない」みたいな状態なんです。だから大きな可能性があると思っています。

スタートアップの社長たちと集まると、みんな「何とかしてチャンスがほしい」と思っているので、本をたくさん読んだり、人に会ったりしていろいろ勉強しているわけですけど、いろんな情報や資料が普通の会社や普通のビジネスパーソン用につくられているので、「とにかくイシューと課題を明確にしましょう」「そこからそれを1個ずつ分解して解決しましょう」というものが、すごく多いんです。

けれど、実際は「そんなものはない」。

イシューの解決にこだわりすぎると、下手をすれば、「既存の産業をネットに置き換える」みたいなサービスにとどまってしまう。新しい価値を生みにくいんです。

僕は日本には、海外で尊敬されている企業が少ないと思っています。それは本質的な価値を創造しようと思っている会社が少ないからです。つまり、「売上をちゃんと予算通り達成しよう」とか、「今あるものを組み合わせてお金に変えよう」とか「市場のパイを奪おう」という発想が目立っているように思います。

あとは、日本の中で当たり前だと言われている経営手法やビジネス手法が、実は全然当てはまらないこともあります。

イシューはとても大事なものだけど、めちゃくちゃ画期的なものは、イシューからはじめていない。

もちろん、宇宙船を打ち上げるためのイシューも、わかりやすいものはあります。「大気圏に突入するための抵抗力を上げる」とか、「燃料を調達する」というものはありますが、ただ、もっと本当に大事なのはそこではない。

「ビジョン」からはじめよ。

「イシューからはじめよ」と言われても、イシューがはっきりしていれば苦労しないというか、たくさんありすぎる。「全部じゃん」というふうになるわけです。

いちおう「御社の課題は何ですか?」と聞かれたときは、「社会に聞く文化と話す文化をつくっていく」ために「認知と文化づくりです」と答えます。ぼんやりとした感じになってますね。

他社であれば「人材が足りません」とか「売上がしっかりと伸びません」ということがあるかもしれませんが、「そもそもうちは、そんなの全部だよ」なのです。

常に腰も痛いし、肩も痛いし、何なら全身が不調なんだけど、「よろしい。君の課題は?」と聞かれたら、「まあ、幸せに楽しく生きることかな」って答えます。

じゃあスタートアップは、イシューではなくて、何からはじめるのがいいのか? それはやっぱり「ビジョン」だと思っています。「こんな世の中にしたい」ということ。

「こういう社会にしたい」とか、「こういうものを達成したい」と決めて、それが成り立つビジネスモデルを考えて、それが成り立つプロダクトを考える。そして、そこに到達するためにはどうやって走るのか、ということを考えていく。

「まずはビジョンからはじめよ」なのかもしれません。

ビジョンからイシューへ

ここでもう一度、Voicyのビジョンを掲げておきましょう。

「音声×テクノロジーでワクワクする社会をつくる」がミッションで、ビジョンは「音声で社会をリデザインする」です。つまり、社会をつくろうと言っています。

そのためにVoicyというプロダクトがあり、最近、ようやくビジネスモデルとともにうまく回りはじめています。そうなるとビジョンからイシューへ。ちゃんと考える時期かもしれません。

その順番が大事というお話でした。

ーー最後まで読んでいただきありがとうございました。

声の編集後記

記事の執筆後に、これまでのことを振り返って音声でも話しています。よかったらこちらもお聞きください。

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