見出し画像

と、ある兵士の帰還:隔離戦線その後

日本に帰国して、もうすぐ半年である。

帰国時に”隔離メシ”戦線からの帰還が若干バズったのもつかの間、俺はその後COVID-19(英国株)に感染してしまった。そして病院での隔離期間を経てシャバに出たのだが、その頃の感覚を記録に残しておく。


1.最後のライフライン:ドコモのガラケー

さて、帰国時点ではそもそも住民票がない。日本の運転免許はもう期限が切れており、マイナンバーは俺が英国にいる間に始まったので持っていない。

よ俺はこの時点で犯罪を犯すと「住所不定・自称会社員」となり、下着ドロとか無銭飲食のやつみたいな扱いとなる。要は日本で身分を保証するものはほとんど無い。

そんなロンリネスな状態で大活躍したのが、英国にいる間もずっと契約していた、ドコモのガラケーである。普通みんな日本を離れる時、すぐに日本のケータイなんぞ解約するのだが、俺はビビりだったので「なんかあった時の最後の手段」としてずっと契約していた。

ちなみに「なんか」とは、英国でクーデターとか、英露間の核戦争とか、大飢饉とかだった。みんな笑うが、なに起こるかわかんねえだろ!実際BrexitとかCOVID-19とかまさか!があったしな。

幸運にも英国滞在時はそのなんかはなく、帰国直後は「ホント電話代損したなあ」と思っていたのだが、感染発覚後の肉親や保健所、病院、職場、英国からの荷物受け取りなど様々な連絡に本当に働いてくれた。なんといっても、全然バッテリー切れが起こらない上に確実に繋がる。

AK-47とかトヨタのランクルは、とにかく頑丈で壊れないのでテロリストが好むそうだが、俺はそれをガラケーで学んだのである。

あ、レンタルとかでSIMカードという手もあったが、それではSIMカードが到着までの1日の間で大混乱が起きるくらいの大騒ぎだったのだ。


2.集中力の欠如がひどい

そこそこ言われていることだが、COVID-19は療養中も退院後も集中力をとりあえず奪う。文字を読んだり、映像を見るのは10分ぐらいが限界になるので、本やテレビはおろか、SNSやNetflixみたいなのは、見る前にモチベーションがあってもずっと見られなくなる。

一方、音声のみだと、長時間であってもそれほど苦ではなかった。どうも視覚の情報は刺激がキツく、音声はそれほどでもないらしい。

だから、もはや今ではスピリチュアル系とサロン系の人々が集う地獄(ヘル)と化した音声SNSClubhouseには当時、2度言うが当時はかなりお世話になった。あれがなかったら、孤独や笑いの少なさで、精神的にはかなりキツかったと思う。

集中力の欠如に加えて、体力の落ちも結構あって、すぐ疲れてしまう。最近、テレビで自宅療養者の部屋の様子が流れるようになり、結構みんな部屋が散らかっているのだが、あれは性格ではなくて集中力と体力の減少からだと思う。

3.テレビに萎えたり笑ったり

これは隔離メシの時のホテルから感じていたが、日本のテレビの質の悪さにはホトホト閉口した。食ってるところか、芸人がわざとらしく拍手をして「今面白いところです」をアイコン化している場面ばかりで、まるで多様性が無い上にうるさい。うるさいとは音もそうだが、画面の無駄な情報がキツかった

しかしその中で、普段はほとんど気にかけないものを好む変化が出た。

Ⅰ. ネプチューンの原田泰造と、オリラジの藤森

 彼ら2人は、なぜか集中力がなくても妙に面白かった。確か前者はちょっとだけ見たテレビのリアクションや表情で、後者はラジオでの話し方だったと思う。俺は基本的には日本のお笑いは詳しく知らないのだが、彼ら2人は特別なブリテンな成分があり、当時まだ精神的に英国住民だった俺には刺さったのかもしれない。確かに原田泰造はバーミンガム、藤森はブライトンあたりの劇場に居そうな気がする(こじつけ)。

Ⅱ.ドラマ「大岡越前」 

 これは内容は全然覚えていないのだが、とにかくバックグラウンドで流していても、まったく邪魔にならない。無印良品のBGMのようである。英国にいた時やってたテレビ番組「Dad's Army」をなんも考えずボケーと観ていた感じとほぼ同じである。もしかしたら、フィルムの感じとかは脳にやさしいのかもしれない。


Ⅲ.映画「渡り鳥シリーズ」

これも大岡越前と似て、邪魔にならないという点で大変観やすかった。俺はこのシリーズはもちろん、小林旭も宍戸錠も特に好きな俳優ではなかったのだが。おそらく薄口娯楽味の中に、ロマンスありアクションありで、病人にはバランスの良い映画なのだろう。


4.回復期: 新聞がめちゃくちゃ面白く読める

そんなこんなで、映像は大岡越前と小林旭だけ、SNSはほとんどやらず、ほぼ毎日をラジオだけで過ごしていたのだが、保健所から通達された自己隔離期間が終わり、体調もおおよそ戻ったことから、俺は自由に動けるようになった。

そこでとりあえず手に取ったのが新聞だったのだが、読んだ新聞がとにかく面白いのである。

集中力がやや戻ってきたのもあるかもしれないのだが、もう脳に文字情報が入る入る。新聞は情報が面になっている点というのが凄まじい強みだなあ、というのをヒシヒシと感じたのであった。

まさに「紙面」という言葉のまんまで、読んでいる記事の視野外の情報を、面で実は脳みそが捉えているのを実感できるのだ!

英語の新聞だと、悲しいかな俺の英語の能力では、視野外の情報は翻訳するまで至らず、ほとんど入ってこないのだが、母国語だとガンガン入ってくる。おおラブリー日本語!

というわけで、情報も飯の様に「むさぼる」ことが出来るんだなあと自分で勝手に感動した。この辺りからテレビもムカつきながらも観られるようになってきた。


5. そしてフィナーレ。

さあいよいよ!日本のラーメン食う時が来た。隔離飯ー自炊ー病院食からのラーメン。最高のシチュエーションである。

そして感動の一口目。

 塩っぱ! 熱っつ!

なんだこりゃ!

ベロは英国のまんまで、当時はまだ戻ってなかった。とにかく日本のラーメンは塩分がキツく、しかも無茶苦茶熱い。ロンドンのラーメンがヌルくてトンコツが多いのわかったぞ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?