見出し画像

いかにして私はセガの赤字を作ったか。もしくは私に起こった、この夏の出来事。

How I ruined Sega's financial results
Or: What I did on my summer holidays
, by Ellie Gibson.

もう7年位前になるだろうか*1。(ゲームジャーナリストの)私はポッシュ*2なディナーの会食中、セガの中でもトップ級の人物の隣に座っていることに気づいた。その会食が何の会だったのだったのか思い出せない。でも多分何かのゲームタイトルで賞を取ったセレモニーだったように思う。もしかしたら、ソニックのXBox 360リブート版リリース後のお通夜*3みたいな社内のイベントだったかもしれない。

*1 この記事は2017年に書かれたので、ちょうど2010年頃の出来事。
*2 スパイスガールズのベッカムのカミさんのあだ名だが、”気取った”とかそんなやつ。よく使う。
*3 このソニックは市場での評価が悪かったぽい。この言い方も良く出る。

会食中に、セガのクラシックアーケードゲーム「ジャンボ!サファリ」の話になった。私はそのセガのお偉いさんに、いかに自分がその「ジャンボ!サファリ」が大好きだったかを話した。

ジャンボ!サファリ アーケード版


オンラインで「ジャンボ!サファリ」のコンソール版移植嘆願ページを開いたくらいだったし、そしてセガのスタッフには、絶対これはヒットする自信あるから!と言いまわったこともあった。

そして2009年にWii版がリリースされた時は大喜びだった。


「わかった」

セガのお偉いさんはゆっくりと、スコッチエッグ(ビデオゲーム会社のディナーは本気でポッシュであったことはない)を口の中でモグモグしがら私に言った。

「たった今わかったよ。アンタのせいだ、ってな。ジャンボ!サファリWii版は7万本の在庫が倉庫にあるんだぞ?」

ジャンボ!サファリ Wii版(日本未発売)


この出来事は数年間、どこか心に引っかかっていた。よく夜になると、”もしかしてセガの08/09の収益の落ち込みは、私に責任があったのかもしれない…”そう考えながら床につくこともあった。

そして、こんな風に結論付けていた:

うん、そうかもしれない。元々のオリジナルソフトがダメだったかもしれない。きっとあの頃の良い思い出とごっちゃになって、「ジャンボ!サファリ」を過大評価してたに決まってる。



2000年初頭、私は大学を卒業してすぐ、ロンドンのソーホーにある、テレビ会社で給料の割の良い会社で働いていた。(おっと、ミレニアム世代のみんな、そのうち学校で無料で牛乳を支給してもらってた話もするから。どっちも信じないかもしんないけどね)*1

*1 給食で牛乳が無料で出た世代が彼女の世代で、ミレニアム世代は学校では牛乳は有料で、社会に出ても経済的に厳しい時代の対比。おお英国。

私は独身生活を謳歌し、そして多くの時間があった。のんきでおバカな生活の日々。

6人の友達たちとミレニアム・イブ*1・パーティーに行ったはいいけど、そのパーティは仮装パーティーだった。普段着だった私たちは「Sクラブセブン*2ですが何か」と言い張ったりした。

またあるときは、”出前中華ゲーム”というのをやったりした。ルールはこうだ。ランダムに数字を何個か考えて、宣言する。言った人は、その数字のメニューを食べなきゃいけないってやつだ*3。あ、「メイド・イン・マンハッタン*4」を実際に映画館で観たりもした。

*1 今の若い子にはよくわからないと思うけど、1999年から2000年になるときは、世界中が浮かれてたのだ。21世紀が来るんだと。

*2 なんつうか、ドリカムが2倍の人数になったみたいな00年代英国的ウェーイなグループ。

*3 テイクアウェイ(テイクアウトは米語な!)のメニューには数字があって、これは電話で頼むほうも聞くほうも楽だから。ただ、中華料理は、英国人にとってまったく得体のしれないメニューもあるので、このゲームはかなり恐怖である(特に内臓とか大嫌い)

*4 ごめん、観てないけど、多分メグ・ライアンとかジュリア・ロバーツがでてきそうなロマンスコメディー。古い言い方だとスウィーツ映画。

私にはそれなりの収入もあり、小遣いも一応は持てた。おおよそはピザと、バフィー*1のキャラクターみたいに見えるH&Mの合皮レザージャケットに消え、そして小銭はオールド・コンプトン・ストリート*2のゲームセンター、プレイ2ウィンのゲーム機に突っ込んでいた。

* 1 テレビドラマ「バフィー 恋する十字架」
*2 ソーホーのへん。あの辺は中華街があって、そこにはゲームセンターも昔結構あった。Play 2 Winは結構有名な店だった。閉店したのね。

私のお気に入りはいつも「ジャンボ!サファリ」だった。シマウマ柄(2001年は服の柄でちょっと流行ってた)筐体の前を素通りすることは決してなく、そしてメニュー画面の象の叫び声を無視することができなかった。

ゲーム内容は単純:ジープを操作して、アフリカのサバンナを駆け抜け、逃げ回る野生動物をぐるぐると追いかける。

照準に動物を入れたら、ギアレバーを使ってロープを投げ、捕まったら、レバーを前後に倒して動物に近づいていく。自分は自由に走ることができるが、強く引きすぎるとロープは千切れ、緩めると動き回って、制限時間を浪費してしまう。タイミングと操作スキルがここでは要求されるのだ。

成功の結果プレイヤーは大きな報酬が待っている。

28分のプレイ時間と£37.5のプレイ料金の末に、キリンを捕まえた檻がゲームスクリーン上に落ちてくるうれしさは、何者にも変えられない喜びがある。

…とは思うんだけれども、Wii版の”ジャンボ!サファリ”への私の大きな期待に反して、結局スコアは6/10だった*1。

私はジャンボ!サファリのことは、自分の記憶の引き出しのジャンル
”たぶん、思ってたほど良いものじゃないもの”
に放り込んで、頭の中にあったものを掃除した。

そう、その引き出しにあるのは、Um Bongo*2や、クレイグ・デイビッドのセカンドアルバムとかだ。

*1 レビューの点数。あんまり良くない
*2 子供向けのジュース
*3 *説明ムズイが、ダンスっぽい男性さわやかボーカル。おっおーみたいなのが入る系。


でもそれから時は流れて今年の夏。私は夫と子供とで、フランスのキャラバンパーク*1で数日を過ごした。まあよくある昔ながらの、バーのあるエリアは壊れた卓球台があり、色あせたオランジーナ*2 のポスターの壁、酔いつぶれたベルギー人の集団、そして古いアーケードゲームがあるようなところだ。

そんな中突然、私は、部屋越しに自分を呼ぶ声を聞いた。

まぎれもなく知っているあの、そして興奮を呼び起こす、あの象の野郎の叫び声だ。

*1 欧州でよくある、海辺にあるトレーラーハウスみたいなのがあつまった別荘地みたいなの。だいたい中心にレストランやシアターがあって、その周りに泊まる場所がある。そんな高級じゃなくて、庶民的な宿泊施設。
*2 ジュースの名前


バーの角には、オリジナルの、そしてきちんと稼動するジャンボ!サファリがそこにあった。

そう、まるで、フリーマーケットでゴッホの作品を見つけたような、もしくはリドル*1でインペリアル・イースター・エッグ*2を見つけたようだった。

*1 ドイツ発の安スーパー。おれは好き。対義語はウェイトローズ。
*2 有名な宝飾品。卵のやつみたことあるよね。ルパンが盗みそうなやつ

私はこの発見がいかに重要であるかを子供たちに説明した。私は「母親」になるまえは、どんな人間で、どんな人生を歩んできたのかを話すには良い機会だった。

でも、2歳の子は、ハンドルを握ってバス!バス!バス!と叫び、6歳の子は 3度ほどモニターのグラフィックスに目をやると「なんかヒドイ絵だね」と言った。

私の夫は、私の興奮を悟ったようだった。私の恍惚とした目をみると、静かに、より子供たちが興味の持ちそうなアバターのピンボールに連れて行った。

さあ、ここには私と筐体しかいない。

指を鳴らし、ユーロ硬貨を投入口にいれ、ハンドルを握った。

すぐに感覚は戻ってきた。追跡のスリル。捕獲の楽しさ。動物の頭上に現れる感情アイコンのおかしさ。猿を怒らせたりすると、この感情アイコンがバルーン上に現れるのだ。

身体が覚えていた。考える間もなく、ダブルアクセル入力でダッシュを効かせつつ、ロープの状態を繊細に。状況の変化に対して、頭じゃなくて本能で反応する。

私は初回プレイ、ビギナーモードではハイスコアのトップに入った。2杯もカラフェでロゼワインを飲んでたにもかかわらずだ。

エキスパートモードをプレイ。いつものようにチャレンジのしがいのあるモードだ。でも、それについてここでは語るのはやめよう。


私は確信した。

ジャンボ!サファリのアーケードは、ずっとずっと、過去も、現在も、未来も、ファンタスティックなゲームなのだと。


Wii版については…うん、多分このアーケード版のスリルを家庭用で再現するのは不可能だろう。たとえどんなに高性能のゲーム機だとしても。

私はアーケードゲームはまだ大好きだけれども、アーケードゲームの将来に対しては不安だ。オールドコンプトンストリートのプレイ2ウィンは、シャレオツなカフェになってしまった。

今同じ場所で、11.5ポンドでキヌア・バーガーを買えるけども、とても変な感じがする。その金額は、私がかつてその場所で昼休みに、「ジャンボ!サファリ」でシマウマを捕獲しようとしていたプレイ料金と大体同じだ。


セガ、本当にごめんなさい。

私がジャンボ!サファリを家庭用に!なんて声を上げなきゃ良かったかもしれない。

でも、忘れないで欲しいのは、そのひどい売り上げの1年後、私はソニック4に9/10ってスコアをつけたことを*1。

もしこれが損害を与えた”賠償”じゃなかったら、いったい何を賠償って言えばいいのかと思う。


まあ、これで”おあいこ”ってやつでどう?

*1  彼女の評価に反して、あんまり市場の評価はよくなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?