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決戦は金曜日 - 英中で感じる監視社会

ジョージ・オーウェルの小説「1984年」という、ディストピアな監視社会を描いたSF小説があって、俺は毎度途中まで読んでは挫折してしまうのだが、設定的には、当局に市民の行動が監視されまくっている世界である。

英国に行くと、あらゆるところに「CCTV」というサインが貼ってあるのだが、CCTVとはClosed-circuit television camera、要は監視カメラである。

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英国の法律では、CCTVを設置しているところにはステッカーや看板を貼らなければならないことを義務付けられている。


CCTVと聞くと、世界は3分割される。1つは「ああ、監視カメラか」と思う英国文化圏、もう1つは「中国中央电视台」(China Central Television)を思い出す中華系文化圏、そして最後は「カウントダウンTV...?」と思いつつ、ひどいCGのトリケラトプスを思い出す、日本文化圏である。

そんな日本文化出身の俺は、CCTVで撮りたきゃ撮れ、みたいなノリである。日本の煽り運転のニュースでのドライブレコーダーの効用のように、ガスガスに置いた方が、悪党への抑制で世界はマシになるんじゃないかとも思う。もちろん英国では泥棒とか暴行とかに対して、このCCTVが常に大活躍である。

俺はカーディフのオフィスはたいていは一番最後に出るのだが、一人で仕事していると、オフィスの駐車場に、チャリにのったクソガキとか、ホームレスやジャンキーが侵入してくることがある。

そんときはだいたい駐車場に出て行って「ここは私有地やで、CCTVがお前ら見てるぞ」の一言で退散する。CCTVは強力である。

きっと俺のあだ名は、オフィス周辺らで、CCTVチャイニーズと言われているだろう。

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その一方で監視社会によって、抑圧される恐怖みたいな理由もわかる。香港とか見てると、不条理な状況に立ち上がった時には、即体制側の武器になるからだ。

日本国外の、アルバイトを多く雇っている会社をいろいろ回ると、いろんなとこで監視カメラがある。「そんなにここは暴力沙汰とか恐喝とか多いんすか」と聞いたら、担当者に大笑いされて「監視カメラはそういうたぐいの犯罪防止じゃないです。メインはデータ流出の防止です。まあサボるとかそういうのの防止もありますけども」と言っていた。

それはキツイ。俺が業務中に巻きタバコを巻き巻きしているのがバレてしまう。ついでに、巻き方が下手なのもバレる。

そんな感じで、CCTVは味方に付けばめっちゃ楽だが、敵対するととにかく面倒くさいのう、というのが俺の印象である。

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話は変わるが、けっこう日本で驚かれることがあるのは、カーディフ・オフィスの金曜日の就業時間である。カーディフ・オフィスは金曜日は半ドンである。ロンドン・オフィスは日本同様、何曜日だろうが同じ。

この就業時間の違い、英国は工場関係の伝統で、金曜日に関してはそんな感じらしい。カーディフ・オフィスは元々は工場だったし、みんなこの就業時間を大いに気にいっているので、ロンドン側と毎年この件では対立する。

ただ、単に就業時間が短いわけではなく、その分カーディフはちょい朝早め、かつランチタイムがほぼ無いような状況で、その分を金曜日にまるごと使っているような感じである。

そういう決戦は金曜日なカーディフ・オフィスでは、毎月1回、ファンデーとかなんとか言って、オフィスのスタッフ持ち回りでちょっと凝ったランチを企画する。今月はメキシコ気分や!タコスや!とかそういうの。

俺は「ジャパニーズ・デーにして、寿司だ寿司!ドリンクは緑茶のみ。コーラは認めない」と大騒ぎした上、いつも昼飯に食ってる小魚だの海藻だのがスゲエ気味が悪いらしく、そっとその持ち回りから外されているらしい。何も俺に言わないのがブリティッシュだな!

そして、先週は「ハロウィン・ランチデー」とかなんとかだったのだが、俺は上海に出張に来ていたので参加できなかった。その出張中、英国金曜日の夕方にカーディフ・オフィスからメールが届いた。

「金曜日のランチには、不幸にも、我々が用意していたハロウィンのランチを、前日夜に盗み食いしたメンバーがいる。そのメンバーに告ぐ。君はCCTVによって録画されており、詳細は人事部に通達する」

俺はたぶんアイツとアイツだな!と顔が浮かび大笑いして、こちらの上海スタッフに事の顛末を教えた。すると、上海のスタッフはこちらでもありました、と言う

「ええ、あれは同じ金曜日でしたね。こちらでは共有の冷蔵庫に入れてたコーヒー牛乳が飲まれてたんですよ!腹が立ったので、台所の監視カメラを解析するってオフィス中にメール送りました。そしたら、月曜日、新品のコーヒー牛乳が冷蔵庫に入ってました」

英中は木曜日に盗み食いして、金曜日にバレるのか。シンクロニシティ。刃牙で読んだニトログリセリンみたいだな!

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英国も中国も、21世紀にはそこら中にCCTVが設置された監視社会である。しかしその実態は、ランチやコーヒー牛乳の盗み食いを暴くような社会と知ったら「1984」を書いたジョージ・オーウェルはどう落胆するのだろうか。「21世紀の人類は思ったより間抜けだ」と言うだろう。たぶん。


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