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大船渡第一中学校の職場体験でSFプロトタイピング with AIを検証した

私たちの職場体験の日、大船渡第一中学校の中学生2名が参加してくれました。今回は普段のお仕事の体験ということで、「2030年に実現予定の技術について調べてもらい、調べたことを他者に発表する」というミッションをお願いすることにしました。今回一工夫した点は、調査したことをまとめる段階でSFプロトタイピングという手法を採用したこと。さらに、この手法で2日間という短期間でまとめるためにAIを活用したことです。

SFプロトタイピングとは?

ビジネス戦略を立てるときの未来予測のアプローチとしてフォアキャスティングバックキャスティングの2つ志向で考えるやり方があります。主に過去・現在の分析を通じて戦略を策定し、未来予測をする「フォアキャスティング」に対して、「未来はこうなる・こうあるべきだ」ということをまず決めて、そこから逆算して現在の戦略を定める逆算思考が「バックキャスティング」です。

バックキャスティングでまず行われる、「未来はこうなる」の部分をSF小説の形式にするというユニークな方法がSFプロトタイピングです。ストーリーの形式にすることでこれまでにない発想・想像力の広まりが生まれ、さらには登場人物の生き生きとした描写を通して未来の実像を掴みやすいというのが主な特徴です。

SFストーリーの創造する想像力を活用して科学技術の発展を基に現実的に起こりうる、小説の世界のような未来のストーリーの作成から着想を得て、未来予測を行い、その未来予測からのバックキャスティングにより、企業における事業企画や研究開発戦略を思考・創造する手法。

SFプロトタイピング | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング

有名企業をはじめ、幕張市鎌倉市などの地方自治体もSFプロトタイピングを用いてまちづくりに活用した事例があります。

さて、これまでは調査した内容や感想をまとめて発表という流れでした。これは調査内容のまとめが主軸となって、中学生の意見や感想はおまけ程度になりがちな部分もあります。今回は発表をSF小説の形にするという点で、まず自分が伝えたいメッセージを中心に据えた上で物語を肉付けしていくプロセスを経ることができました。小説の形にすることで、聞き手のイメージも膨らみ、そこからさらに豊かな議論が生まれる効果がありました。

スピード執筆を可能にしたAIとのコラボレーション

2日間という短期間でSFプロトタイピングを用いた発表を作成するのは大人でも困難に思えます。ここで登場するのがChatGPTです。

ChatGPTは「生成」AIなので、小説のようなクリエイティブなタスクに真価を発揮します。例えば、ものすごく雑に指示を出してもそれなりのものを返してきてくれます。

ものすごく雑に指示してもそれなりのものが返ってくる

さらに小説を通して伝えたい中心的なメッセージや、登場人物や舞台の設定、小説の中で起こるイベントなどの細かい条件を執筆家であるAIに渡すことで、より自分が作りたいものに近いものが出力されるようになります。ChatGPTを使うときのコツとして「良き上司になる」というものが度々挙げられますが、このように指示の解像度を上げていくことで優秀な部下のアウトプットを引き出すことができるようになります。逆に指示が曖昧だと曖昧なことしか返ってこないということです。

今回、うちとして検証したかったことは、AIを活用することでSFプロトタイピングという難しい創造的なタスクを行えるということです。まさにAIとの協業によって人間の活動を加速させるという、今まさに社会が直面している課題に中学生が真正面から取り組むわけです。わくわくしますね。

 なお、SFプロトタイピングとChatGPTの組み合わせはオモイカネプロジェクトを参考にさせていただきました。

2030年、AIが浸透し、月面基地が完成した日本

二人にはそれぞれ2030年に実現予定の技術を落合陽一の『2030年の世界地図帳』のテクノロジー未来年表からピックアップしてもらいます。二人が選択肢たのは、月面基地完成とAIによる専門職の代替です。この本が出版されたのは2019年、すでに宇宙開発やAIは2023年時点でとんでもない進展を見せていますね。

1日目は、インターネットを活用しながらそれぞれのテーマについて調査し、考えをまとめることに集中してもらいました。ここで調べたことが2日目の小説づくりの材料になってきます。

2日目はいよいよ発表作りですが、ここでChatGPTを使った作業になります。ここでお二人にお伝えしたことは「発表を通じて相手に伝えたいことは何か」ということです。これは小説に限らず、すべてに通じることですね。自分の中学生時代を思い返しても、学校での発表というのは「調べたことをまとめる」が中心で自分の意見・感想は最後に少し付け加える程度だったのが、小説という形式にすることでこの本質にフォーカスできるようになるというのもこの手法の大きなメリットだと感じました。

ちなみに当日の思いつきで扉絵も生成AIで作っちゃおうということで、二人に絵のイメージを言ってもらい、Midjourneyで出力しました。

AIをテーマにした小説は、女性を主人公にした物語で、目指していた仕事がAIに代替され、代わりに人々の感情に寄り添う新しい仕事につき、AIを活用して共存していくという物語です。この物語の中心的なメッセージは「人とAIは共存できる」というものです。「AIが人間の仕事を奪う」というのが現在多くの人が危惧している問題ですが、むしろ人間を中心とした、人間に寄り添う仕事に対する価値が出現するという予測を立ててくれました。素晴らしいですね。

ちなみに補足情報として、中間発表でいくらかフィードバックを行ったのですが、すぐさまリライトしてプロットを大幅に変更してブラッシュアップしたのがこの発表でした。これもAIとのコラボによるスピード感で、彼女の作業自体がまさにAIの未来を感じさせるもので、小説の内容にも通じていて

月面基地のテーマでは、月面基地で働く若い科学者が未知の元素を発見して地球の社会に応用していくもので、その過程で地球のベテラン科学者との間で宇宙開発よりも地球上の課題解決を優先すべきだという論争が起き、最終的には双方が新しい視点を得て社会が進展していくというものです。この発表で伝えたかった主題は「なぜ宇宙開発が重要視されているのか、宇宙開発をすることでどんないいことがあるのか」ということです。実はこれ、明確な答えが出ていないとても難しい問題で、何らかのテコ入れが必要かなと危惧していたくらいでした。ところが、そこに未知の元素の発見というアイデアを持ち込み、さらにそこから登場人物を増やして今すぐに成果が出る研究 vs 基礎研究という、現代日本の抱える科学研究の問題点に通じるようなストーリーにまとめてきました。

二人のユニークな発想、アイデアを、物語の主人公の生き生きとした視点で聞くことができ、聞き手にとっても理解しやすい発表となりました。まさに想像力のリミッターを外すのに最適な手法で、AIを組み合わせたこのワークフローの可能性を感じました。この成果を中学生がもたらしてくれたわけなので、本当に驚異的だと思いますし、これからはそういう時代が来るのだと思います。

未来のことを考える

最後の挨拶で印象的だったのは、学校での学びは主に過去のことが中心だったのが、今回は未来のことを考える体験ができたということです。答えのある学校のテストに対して、答えのない問題に対するアプローチ方法を学ぶことができのではないかと思います。

今回の経験が二人の今後に役に立ってくれると嬉しいなと思います。二人は今回が初めてAIに触れる機会だったようで、最新の技術や手法に触れる機会を地域がもっと作っていくことが必要なのだと、こちら側も気付かされた面がありました。

職場体験の成果

中学生たちにとって、未来を想像する機会が得られ、新しい手法であるSFプロトタイピングの効果を自分たちで検証することができました。一方、私たち地活研にとっても、SFプロトタイピングの新しい事例を得ることができ、この手法のさらなる可能性やAIとの連携の効果を確認することができました。地域企業に対しても今回の知見は積極的に共有したいなと思えるものだったので、本当に二人には感謝しています。

2日間、本当にお疲れ様でした!

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