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妄想小説「La jiborara」

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ビストロ「La jiborara」を舞台に7人の男たちそれぞれの恋愛模様を描きます(下から順に読んでください)
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執筆感想文(2022.1.13)

執筆感想文(2022.1.13)

全9話の連載小説「La jiborara」を今日書き上げた。それで、また記録のために感想文を書いておこうと思う。

終わってみての率直な感想は「この遊び、やっぱり楽しい♪」と「バンタンってやっぱり凄い人たちだ…」の二つ。一人のメンバーについて書いている時に次のメンバーのストーリーは全く頭にないのに、書き上げて次に移る時、すぐに次回のアイディアが浮かぶ。これは彼らの引き出しの多さ故であって、私を日々

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オーナーの愛②(最終回)

オーナーの愛②(最終回)

「男女の友情は成立するのか、しないのか」

まだソクジンが地元の仲間と飲み歩いていた頃、すなわち、まだ恋人がいて幸せだった頃、よくその話題が酒の席であがった。そんな話を振る人間は大体、異性の友達に少々の好意を抱いているものだとソクジンは思っていた。「成立しない」の答え欲しさに、己れの感情を正当化したいがためにそんな質問をするのだろうと。だから彼はそんな時決まって「成立する」と答えた。「俺とみきえを

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オーナーの愛①

オーナーの愛①

「オーナー、みきえさんがいらしてます」

ランチ営業が終わる頃、ギャルソンは事務所にいたソクジンを呼んだ。店のフロントにダウンコートを着たみきえがいる。

「おう、どうした」
「ちょっと近くに予定があって、はいこれ」
「やー、これはー」

ソクジンの背後からテヒョンが覗く。

「もしかして、モツ煮ですか?」
「今日はテヒョン君の分もあるよ」
「わ〜、みきえさんのモツ煮、めちゃくちゃ大好きなんですよ

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常連客の恋

常連客の恋

「La jiborara」へランチに来たご婦人方がコース最後のデザートを食べ終え長い会話を始める頃、今日も謎の常連客は女性を連れて気怠そうに店に現れた。慣れたように壁側の席につき、ギャルソンに小さな声で「いつものお願い」と呟くように伝える。その間、連れの女性はずっとしおらしく、時々うっとりと彼を見つめる。

「げっ、また来たんか、あいつ」

やっと昼休みに入れると思って厨房から出て来たシェフは常連

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ギャルソンの恋の味

ギャルソンの恋の味

ビストロ「La jiborara」のオシャレな青壁は女の目を引く。ディナー営業時なら特に、店内から漏れ出る照明はいつかの映画で見たパリの街角を思い起こさせ、食事場所を決めていない女たちは「今夜はちょっと自分を甘やかそうかしら」なんて思って店の中を覗くのである。

その店内に、パリッとした白シャツに黒のベストと蝶ネクタイ、少し低めの位置でサロンエプロンをつけたギャルソンの姿が見えようものなら、女はす

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人気シェフ、恋の予感

人気シェフ、恋の予感

ビストロのレセプションに豪華なアレンジメントが飾られている。カードには「祝4周年 La jiborara様 チョンホソク」とある。

「うち、4周年なんすね。なんか祝うんすか?」

花を見てジョングクがシェフに聞いた。

「何もやらんやろ。つーか、うちの開店日覚えてんの、こいつくらいや。オーナーだってすぐには答えられんぞ、多分」
「ホソクさん、すごいなぁ。マメっていうかプロっていうか」
「あいつは

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シェフの愛

シェフの愛

このビストロでアルバイトする女子は8割方、たとえ一瞬でも、恋をする。その対象は美男子のマスターやギャルソンである場合もあるが、圧倒的に厨房の男子である。若い女というのはどうやら、戦場のような厨房で真剣な眼差しで料理する男の姿に強く惹かれるようなのである。

あまりニコリともせず、いつも皆に緊張感を与えてばかりのシェフが、時折、仕事終わりのバイト(女子に限る)に余ってしまったクレームブリュレを「食べ

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配達人の恋

配達人の恋

このビストロでは、まかないの時間に定期的に上がる話題が3つある。ひとつは「オーナーはなぜ結婚しないのか」(但しこれはオーナーが不在の時のみである)、次に「女連れの常連客は何者か」、そして「卸の兄ちゃんは何故卸の仕事をしているのか」である。

ここに食材を配達に来るナムジュンのことは、このビストロの全員が一目置いていた。彼の凄さにまず気付いたのはシェフだ。食材の補充をすべくあれやこれやと必要なものの

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コックの恋

コックの恋

コックのジョングクはもう2年近く、一人の女性に恋をしている。

2年前、ジョングクはまだこのビストロの見習いで、食器洗いとか野菜の下処理とかそんな程度のことしかやらせてもらえない半人前だった。料理人になりたければ専門学校へ通うのが普通の時代に、彼は高卒でこのビストロに飛び込んだ。父親がオーナーと知り合いだったことで実現したのだが、彼は当時千切りが何かもわからない体たらくだったのである。それでも、勉

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序章

序章

吉祥寺駅西口から大通りを越え、レンガが敷き詰められた通りを西へ向かうと一際目立つブルーの建物が見えてくる。古い建物をリノベーションしたのだろう、2階より上は昭和のような趣であるが、1階の店舗は垢抜けて個性的な印象で思わず立ち寄りたくなる雰囲気がある。

La Jiboraraという名前のこの店、ミシュランで1つ星を獲得した人気のビストロだ。営業はランチが11時半からだが、スタッフの出勤時刻はバラバ

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