あした せかいが めつぼう するぞ!
「せかいが めつぼう するぞ!」
ほいくえんで、かぼちゃくんが すなばのおやまにのりながら、さけんでいます。
「あした せかいが めつぼうする!」
オニオン坊やは、ブランコをこいでいたので、かぼちゃくんのこえが とぎれとぎれに きこえます。
「あした せかいが めつぼうするんだ ぞ!」
かぼちゃくんは、すっかりぺちゃんこになった すなばのおやまをかきわけて、ずんずんあるいてゆきます。
そうしてブランコのところまでやってきて、オニオン坊やのみみもとで、もういちど、
「あした!」
「せかいが!」
「めつぼうするんだ ぞ!」
と、おおきなこえで いいました。
オニオン坊やはブランコからおりて、
「せかいが めつぼうするって なあに?」
と、きくと、
かぼちゃくんは、ふんっ とおおきく はなをならして、
「おまえみたいな チビには おしえてやらない!」
といって、きょうしつへむかって かけだしてゆきました。
オニオン坊やは、「チビ」といわれたことがかなしくて、じんわりなみだがでましたが、
(ここで ないたら はずかしい。)
とかんがえて、ぐっと がまんしました。
そのよるのこと。
オニオン坊やは おとうさんと おふろにはいっていました。
おとうさんと おふろにはいることは、オニオン坊やの まいにちの たのしみです。
おとうさんに あたまをあらってもらいながら、オニオン坊やは ふと かぼちゃくんのことをおもいだしました。
「ねえ おとうさん?」
シャンプーで うまく め をあけられないまま、オニオン坊やは、おとうさんに、きいてみます。
「せかいが めつぼうするって なあに?」
するとおとうさんは、シャンプーするてを ぴたっと とめて、こういいました。
「どこでそんなことば、おぼえたんだ?」
オニオン坊やは、もしかして、「せかいが めつぼうする」は、とってもわるいことなのかもしれないとおもって、どきっとしました。
「ひるま、ほいくえんで、かぼちゃくんが いったんだ。『あした せかいが めつぼうするぞ!』って、なんかいも、なんかいも。」
そうやってはなしているうちに、オニオン坊やのこえはどんどんちいさくなって、さいごのほうは、なにをいっているのか うまくききとれないくらいのこえに なってしまいました。
ざばあん、と、おとうさんが、オニオン坊やに おゆ を かけます。
なんども なんども おゆ を かけます。
ぴかぴかになった オニオン坊やを、くるりとこちらに むきなおし、おとうさんと オニオン坊やは、まっすぐ むかいあうように すわりました。
コホン、と ちいさく せきばらいすると、おとうさんは ぐんっ とたちあがり、こういいました。
「あした せかいは めつぼう 、、、、」
「しません!」
オニオン坊やは、ぽかん と くちを あけました。
おとうさんは つづけます。
「あした せかいは めつぼうしません!
あしたのあしたも せかいは めつぼうしません!
あしたのあしたの そのまたあしたも せかいはめつぼうしません!」
オニオン坊やは あわてて いいます。
「おとうさん、めつぼう って なあに?」
おとうさんは、ふぅ と いきをはいて こういいます。
「ぜんぶ ぜんぶ なくなっちゃうって こと。このおうちも ほいくえんも おとうさんのかいしゃも このまちも かぼちゃくんも もちろんオニオン坊やも おかあさんも おとうさんも ぜーんぶぜんぶ なくなっちゃうって こと!」
オニオン坊やは きゅうにこわくなって なみだが じんわり にじみました。ついには ぽろぽろ おおきなつぶになって、なきだしてしまいました。
「あした せかいは めつぼう するの?そんなのぼく、やだやだ、やだよ、ぜったい、やだよ!」
なきながら あたまをふるオニオン坊やを おとうさんは ぎゅっと だきしめました。
「だから いっただろう?あした せかいは めつぼうしないって。あしたの あしたも めつぼうしないよ。あしたのあしたの そのまたあしたも めつぼうしないよ。」
オニオン坊やを もっともっと ぎゅっとだきしめると、おとうさんは
「それに、」
「それに?」
「もし もしあした せかいが めつぼうするなら おとうさんは オニオン坊やを ずっと ずーっとだきしめるよ。ずーっと ぎゅーっと だきしめるよ。ずーっと ずーっと なにもかもが なくなっちゃう さいごのときまで ずーっと ずーっと だきしめるよ。」
「ほかのものが ぜーんぶ なーんにも なくなっちゃっても、ずーっと、ぎゅーっと、だきしめるよ。だきしめつづけるよ。それなら なんにも こわくない。さいごのさいごまで、おとうさんは、オニオン坊やを、こうやって、ずーっと、ずーっと だきしめるよ。」
と いいました。
そういわれると、「せかいの めつぼう」ってものが ちいさなことにおもえてきて、オニオン坊やは、おとうさんのむねのなかで、おとうさんの しんぞうの おと をききながら、なんだか すっかり あんしんしたのでした。
おふろあがりの、ぽっかぽかのからだで おふとんにはいるとき、オニオン坊やは もういちど、おとうさんのことばを、おもいだしました。
ずーっとずーっと だきしめるよ。
ずーっとぎゅーっと だきしめるよ。
さいごのさいごまで、ずーっと、ずーっと、だきしめるよ。
おとうさんのことばを、なんどもなんども くりかえすうちに、オニオン坊やは すっかりねむくなってしまいました。
ねむるまぎわに オニオン坊やは こうおもいました。
あした せかいは めつぼうしないよ。
きっと あした せかいは めつぼうしない。
かぼちゃくんに ちゃんと そう いおう。
あした ちゃんと いってあげよう。
あした せかいは めつぼう しないよ って。
投げ銭?みたいなことなのかな? お金をこの池になげると、わたしがちょっとおいしい牛乳を飲めます。ありがたーい