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冒険のために

今回はわたしたちのプロダクトづくりについて書き記してみたいと思います。といっても主力のハンカチではなく、靴下のこと。

SOC TOKYOという名前でオリジナルの靴下をもう何年もつくっていますが、ずっとメンズ専門の靴下ブランドとして運営してきました。弊社代表が男性で、立ち上げ当時は世の中に男性向けのおしゃれな小物がいまよりも少なかったことから、ハンカチのかたわらでメンズの靴下をつくりはじめたのでした。

メンズの靴下。
靴下もハンカチと同じく天然素材、日本製にこだわっています。

ところがスタッフは女性が多く、ハンカチは日ごろから使って試せるのに、靴下はどうしたってサイズがぶかぶかで履くことができません。製造過程のこだわりは頭に入っているし、触感がすばらしいこともわかります。お客さまや家族の感想を聞いて履き心地もあるていど、想像はついています。けれど年月を経て、ふつふつとわたしたちのなかにある想いが湧き出てきました。

自分が履いて試さないと、ほんとうに心からあけすけに素直に……誰かにおすすめできないのではないか? 自分が日常的に使用してこそ、製品のことを深く理解できるのではないか? そして単純に、わたしたちも自社製品の靴下を履きたい! という想いです。

それを後押ししてくれるのが「レディースサイズもあるとうれしい」と言ってくださるお客さまの声でした。時代のせいもあるのでしょうか、そもそもとても限られたサイズのものしか店に置いていないことに違和感を覚えはじめたころ、とうとう代表が「つくろう」と一声。新しい靴下をめぐる冒険がはじまりました。

ハンカチと同じく、あまり目にはつかないけれど肌に触れるものだから、まずは質にこだわりたい。顔の見える範囲で、安心して相談できる工場とつくる靴下でなければいけない。そしてデザインもこれまでのSOC TOKYOらしさを大切にしながら、よりよいものにしたい……あれこれ話し合いながら、ときに頭がこんがらがってしばらく放置してしまいながら、ようやく発売まで漕ぎつけました。企画から約1年が経っていました。

素材と履き心地

SOC TOKYOの靴下は現在、東京の下町の工場で3人ほどの職人さんがつくってくれています。工場見学をしてお話を聞いて、天然素材より化学繊維のほうが型崩れしにくく編み目が整然とならぶこと、伸縮性も高く丈夫であることもあらためて学びました。けれど履き心地の点でどうしてもこれまでと同じ天然素材を選ぶことに。足のかたちに沿ってくったりとしてきた靴下もかわいいではないか、という気持ちもあります。ハンカチと同じように、自分のからだになじむよう育てるということも大切にしたい感覚です。

蒸れないように吸水性と速乾性にすぐれた麻が入ったものを素地にしました。麻だけだと、繊維に伸縮性があまりないので足にフィットしません。それに麻特有のざらっとした触感が敏感肌のひとには気になってしまうかもしれないから、それを綿がカバーしてくれるようなコットンリネンという混合素材を選択。

こちらは一度洗濯したあとに履いていて、ジャストフィット。
足のサイズ(いつも履いている靴のサイズ)は23.5㎝です。

数人の社員でサンプルを履いては洗って、また履いてみて、感想を言い合いました。綿のやわらかさと、麻のかたさがほどよく合わさって、沈みこみすぎない安定感のある履き心地。厚みがあるので防寒性の高い靴と合わせれば冬にも、吸水性と通気性にすぐれ、肌に張りつかないから夏にも。一年中履けそうな納得のものを選びました。

デザイン

何度も話し合い、何度も微調整したサンプルを工場につくっていただきました(ほんとうに何度も……感謝しております)。

サンプルの山ができました。中央2種はリブの長さで悩んだ形跡です。

素材の気持ちよさと気の抜けた感じを生かすため、少しルーズなシルエットに仕上げました。ほんのちょっとたるませて履くとかわいいです。たるむ部分とリブ部分の塩梅もこだわり、絶妙なバランスで成り立っています。

革靴にあわせてもリラックス感が出せます。

女性は丈の短い服をあわせて靴下の上部が見えることも多そう。視界に入る色数が多いとコーディネートのなかで主張する可能性があり、合わせる服に悩むひともいるかもしれません。これは「目につかない小物こそ、こだわりを持って選んでほしい」という会社の想いに通ずると感じて、はじめてのレディース靴下だからこそシンプルに、色の切り替え位置を見えない場所にすることを提案。かかととつま先の縫い目だけに違う色を入れてみました。

靴を脱いではじめて見せる表情があるのはいいですよね。

配色はもはや記憶にないくらいの組みあわせを考えました。台帳で並ぶ色と靴下になって見る色とではちがう印象になることもあり、企画担当も悩みながらいろいろなスタッフに何度もアンケートをとってくれていました。違和感なく、それでいてあまり見かけない新鮮な色合わせを目指しました。

冒険を経て、冒険のためにご用意しました

ハンカチのことならお任せ! と言えるようなわたしたちも、靴下についてはまだまだ研究中。悩みながら、どきどきしながら製作したプロダクトがようやく仕上がってすこし緊張しています。

差し色にかわいいベリー色は、アスファルトにも芝生にも映えます。

良い靴は良い場所に連れていってくれる、そんなことわざを聞いたことがあって、靴をおろすときには自分がいつも思い出すフレーズです。靴が前に進むための強固な意志をもつ存在だとしたら、靴下というものはそんな冒険をするときに、自分をやさしく包んで守ってくれる存在だろうと思います。

大切なことは変えないで、それでも一歩踏みだすことを恐れないでいたい。これまでも靴下づくりにこだわりがあったはずだけれど、そのこだわりをもっと開放してみたいま、とてもわくわくしています。今回の靴下づくりは自分にとっても会社にとっても、きっと重要なできごとでした。わたしたちの冒険のために生まれたこの靴下が、どこかの誰かの冒険のおともになってくれるならこんなにうれしいことはありません。

まだ見ぬ場所へ、ぴょーんと行ってみよう。

一応、オンラインストアの特集ページも置いておきます。


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