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ニューヨーク・タイムズに学ぶ、メディアの新しい形は「ビル」と「ネイバーフッド」 【Off Topic Ep216】

宮武徹郎と草野美木が、アメリカを中心とした最新テクノロジーやスタートアップビジネスの情報を、広く掘り下げながら紹介するポッドキャスト「Off Topic」。このnoteでは、各エピソードから取り上げたトピックを、再構成してお届けする。
今回は「#216 New York Timesのバンドル戦略」から、今回のトピックは、デジタルシフトを成功させるニューヨーク・タイムズのビジネスモデル戦略について、「#215」に引き続きピックアップ。彼らが売上を高めるために推進した「バンドル戦略」は、インターネット時代の中でメディア事業にフィットした施策だった。


ニューヨーク・タイムズの「バンドル」戦略

ニューヨーク・タイムズは、かつては「ボストングローブ」などの新聞社を買収し、コンテンツ制作の効率化を図るサプライサイド重視の戦略を採用していた。当時、ボストングローブとニューヨーク・タイムズは同じようなプロダクトを持ちながらも、異なる地域で展開していたため、競合関係にはなかったのだ。

しかし、インターネットの普及に伴うメディアの「アンバンドル化」によって状況は一変する。オンライン化が進むことで、ニューヨーク・タイムズとボストングローブは同じ地域で競合するようになってしまった。こういった変化を受けて、ニューヨーク・タイムズは事業戦略の見直しを迫られることになる。

Stratechery

従来のサプライサイド重視からデマンドサイド、つまりは「ユーザー獲得」を重視する方向へと舵を切ったニューヨーク・タイムズは、新たな「バンドル戦略」を模索し始める。

現在、同社はニュースを中核に複数のプロダクトを、月額利用料を設けたサブスクモデルで提供している。ゲーム、料理、オーディオといったジャンルの他、買収によって傘下に収めたガジェット・生活品レビューメディア「Wirecutter」、スポーツニュースを提供する「The Athletic」も展開中だ。

Monroe Township Library

ユーザーはこれらを単体で購入するか、複数のプロダクトを組み合わせて(=バンドル)で購入するかを選択できる。当然、バンドル購入の方が割安になる仕組みだ。

ニューヨーク・タイムズとしては、すべてのプロダクトにアクセスできる「オールアクセスバンドル」への加入を推奨しているが、決算情報を見る限りでは、2022年末時点では登録者の26%しか複数プロダクトを利用していなかった。内訳は、ニュースのみが41%、ニュース以外の単体プロダクトが25%、紙媒体が8%という状況だった。

しかし、わずか1年後の2023年末には、複数プロダクトの登録者が41%にまで増加。ニュースのみの利用者は26%に減少し、ニュース以外の単体プロダクト利用者も26%となった。紙媒体は6%にまで減少している。ニューヨーク・タイムズのバンドル戦略は、着実に成果を上げているということだ。

New York Times Earnings Report 2023 Q4

同社の決算発表でも、「バンドル」という言葉が頻繁に登場するようになっており、ユーザー獲得に向けた新たな取り組みが奏功しつつあることがうかがえる。

ゲームとニュースの組み合わせで、ユーザーのリテンションに

宮武がニューヨーク・タイムズのバンドル戦略にとって、白眉に挙げるのが「ゲーム事業」だ。特に、世界中で人気を集めた「5文字の英単語を当てるWebゲーム」の『Wordle(Wordle)』や、ヒントから推測してます目を文字で埋めていく言葉遊び『クロスワード』といったゲームが、新規ユーザー獲得に大きな役割を果たしているという。ちなみに、ニューヨーク・タイムズは2021年に『Wordle』を買収して傘下に収めている。

New York Times

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