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Casper S-1解説〜D2Cスタートアップの上場と影のIPO第一号Purpleの比較〜

自己紹介

こんにちは、宮武(@tmiyatake1)です。普段は、LAにあるスタートアップでCOOをしています。これまでは日本のVCで米国を拠点にキャピタリストとして働いてきました。Off Topicのポッドキャストで発信してきましたが、今回は企業分析やテックトレンドなどnoteでもご紹介できればと思い、記事にしてみました。

はじめに

マットレスを販売するD2Cスタートアップ「Casper(キャスパー)」が、1月10日にニューヨーク取引所にS-1書類を提出した。
今回は、そのS-1書類などをもとにCasperの現状や今後の展開、D2Cスタートアップの業界についてみていきたいと思う。記事を読んでいただく上で、今回ややネガティブなツッコミも多めにあるかもしれないが、それは単純にこれからの話やIPOに対してであり、ここまでの事業を成長させたCasperが凄いことには変わりはない。数あるD2Cスタートアップの中で正式なIPOをしたのは初めてなので、なおさら凄い。

Casperの事業とプロダクトについて

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【事業トラクション】
・2017年売上:$251M
・2018年売上:$358M、$92Mマイナス
・2019年の最初の9ヶ月間で$312Mの売上
・ECサイトでのAOV(平均注文額):$710
・店舗でのAOV:$820
・自社店舗が60店舗、18社とリテールパートナーシップ

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・直近時価総額:$1.09B
・これまでの累計調達額:$340M調達
・2019年は売上20%増
・140万人のユーザー(米国消費者の31%の認知度)

ユーザーの行動変化を及ぼすのは難しいが、Casperはオンラインでマットレスを買う文化を作り出した。また、VC調達したD2Cスタートアップの中で、初めてのIPO。(Harry’sBonobosDollar Shave Clubなどは全てM&A)

2014年にローンチし、1年半は1種類のマットレスのみを販売していた。現在は、販売しているプロダクトは、合計27個(マットレス、シーツ、ベッドフレーム、犬用ベッドなど)。
これまでの過去1年半では、7個の新しいプロダクトをリリース、直近は、良質な睡眠をコンセプトにした、スマートライト「Glow」を発売。寝る時間に合わせて暗くなるようにデザインされていて、アプリでカスタマイズすることもできる。

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さらに、YouTubeとSpotify、Instagram(IGTV)で、「Casper Sleep Channel」という睡眠に関するコンテンツもスタートした。

”ようこそ、スリープエコノミーへ”

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今回のS-1資料で気になったのは、会社のことをEコマースやD2Cではなく、「スリープカンパニー(睡眠の会社)」や「スリープエコノミー(睡眠経済)」とウェルネス文脈を強く押していたことだ。今展開しているプロダクトはやや要素が弱いため、もしかすると上場申請前によりヘルス系のプロダクトがあったほうが良かったかもしれない。
彼らは睡眠自体がウェルネスの大きな部分だと言っていて、米国のスリープエコノミー市場が$79B、グローバルだと$432Bと述べている。

ユニットエコノミクスの問題

これまでのテック企業のS-1には、ユニットエコノミクスにそこまで入り込まなかったが、Casperの場合はここに問題が一部ある。簡単に説明すると、マットレスを$400でCasperが作り、$1,000で売るとする。約20%が払い戻しもしくは返却されるとなると、約$400のマージンが返ってくることにある。

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