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【はすおか船長とえほんの海】第8回 父性性の役割

こどもの本専門店「きんだあらんど」店主の蓮岡船長とともに送る、子どもにも大人にも読んでほしい心ゆたかになる絵本のお話。
第8回目は父性とは何か。お父さんとお子さんとの読み聞かせ絵本にこちらの絵本はいかがでしょうか?

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父性性の役割

父性母性という言葉は一般的に使われていますが、具体的にどんなものと言われると少し戸惑ってしまいます。
母性はお母さん、父性はお父さんというように役割が決まっているものかしら?そんな風に考えてしまいます。

母性は一般的に母親が担う子に対する慈愛のイメージから連想できます。「この子のありのままを肯定してあげる」母と子は、父親よりも身体でつながっていた事実もあるので、特別な、または神秘的な命の絆でつながっています。
その具体相が、「存在に対しての全肯定」です。

人は自分が認められていると感じたら、自分が生きている世界に対して、安心と信頼を感じます。
「自分はこの世界に生きていていいんだ」「ここに存在していることを誰かが喜んでくれている」そんな思いが、生きる元気や、少々何か困難があっても乗り越える力になります。

それに対して、父性とはどんなものでしょうか。

身体や存在を肯定するというのは、ある意味、「無条件の肯定」とも言えます。

ただ、生きていくという事は、社会の中で周りの人に役にたってこそ感謝され、自分の居場所も用意されることになります。
それには、その社会のルールに沿って自分を律して、さらに自分自身が認められ、他の人も認めるという安心できる立場を確保する必要があります。

その安心感を与えてくれるのがいわば父性と言えます。
それは「社会の姿を伝えて、どのようにして生きていくべきかを教える」力。言葉を変えていくと「社会的な肯定」と言えるでしょうか。
自分だけの自己満足ではない、社会的な評価によって自分自身を豊かに考えられるのが、この父性の力です。
そんな父性性を行動や言葉で教えてくれる物語などが、父性を伝える絵本になります。

現代は父性が足りない?

父性を社会性と捉えるのは早急ではありますが、生きる指針を身近で示してくれるのがそもそもの父の役割と言われるものです。
かつては、大家族でその意味を伝えるのは、周りの人の役目でした。
でも、この数十年で常識化した核家族形態で、不在の父親の役割を伝える人もいなくなり、業務時間も増加したために、父親と家族が物理的に接する時間も減少しました。

父性とは、信頼とコミュニケーションによって初めて伝えられます。
それはメールなどではうまく伝わるものではありません。
普段の言動や生き方を含めて生身のやり取りをして伝えられるべきものです。

なかなか時間もとれない時には物語を通して生身の言葉で伝えることもできます。

父性が伝わる絵本

『もりのなか』

文・絵: マリー・ホール・エッツ
訳: まさき るりこ
出版社: 福音館書店

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「ぼくはかみのぼうしをかぶり、
 らっぱをもってもりへさんぽへでかけました」

とても有名な書き出しの名作絵本。
マリー・ホールエッツの代表作です。

少年が、森へ散歩に出かけると、ライオンが昼寝をしています。
ライオンは髪をとかすと一緒に散歩についてきます。
その後に二匹の象も「いっしょにいきますよお」とついてきて、そのあとに熊、カンガルー、こうのとり、さる、うさぎ、もついてきて行進を続けます。
しばらく行くと誰かがピクニックをしたあとがあって、そこでみんなはアイスクリームを食べたり、ハンカチ落としや、ロンドン橋落ちたで遊んで、最後にかくれんぼをしたら、おにになりました。

「もーいーかい」と言って探そうとしていると、動物たちはいなくて代わりにお父さんがやってきます。お父さんにかくれんぼのことを話すと、お父さんは「だけどもう遅いよ、うちにかえらなくっちゃ」と言い、「きっと、こんど来るときまで待っていてくれるよ」と付け加えます。
少年はその言葉で安心して「今度来た時また探すからね」と、お父さんと一緒に帰ります。

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父性の役割は社会性を伝えること、いわば現実的なルールを伝えることでもあります。
でもこの絵本が描いているのは、少年の想像の世界です。
でも、その想像の世界、いわゆるファンタジーを現実世界のお父さんが肯定しているところに、深い父性性があるのです。

人生は、現実だけでなく、遊び心がなければ無味乾燥のものとなります。
お父さんがそのことをちゃんと理解してくれていることに、現実の深さが生まれるのです。

普段はなかなか意識できない父性性ですが物語を通して、伝えてみてはいかがでしょうか。
物語はきっと家族の中での必要な言葉を代弁してくれる力を持っていると思います。

是非、お父さんの絵本読み語りをどんどん進めていってください。

ABOUT -この記事を書いた人ー

蓮岡さんプロフィール

蓮岡 修
子どもの本専門店「きんだあらんど」店主

島根県出身。
紛争地・被災地での人道支援活動を経て、2008年より「きんだあらんど」店主となる。
全国各地の幼稚園の選書請け負いや、雑誌のコラム掲載など様々な場面で選書を行う。
絵本に関する講演も多数。
大学非常勤講師/京都市内の子育て広場代表等多方面で活躍。

■きんだあらんど
家庭で読まれる絵本と読み物をコンセプトに、こだわりの選書で世界の名作を中心とした本を取り揃える。
毎月絵本の読み語りや絵本講座等のイベントも開催。

【店舗情報】
公式HP : http://kinderland-jp.com/
所在地  : 京都市左京区頭町351 きんだあビルディング2階
営業時間 : 10:00 ~ 17:00
定休日  : 水曜日、祝日(不定休)、年末年始
TEL   : 075-752-9275



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