掛け時計の秒針

十年ほど使っていた壁掛け時計が古くなったせいか時間のずれが大きくなってきた。新しい電池を入れて時刻を合わせても、一週間もたてば大きくずれてしまう。何度も時刻合わせするのはけっこう煩わしい。

買い替えることに決めた。近くの量販店に行くと、壁にはたくさんの売り物の時計が掛けてある。次に買うのは、時刻合わせの要らない電波時計にしようと決めていた。デジタル表示の時計はあるが、どうも気に入らない。針のある電波時計のなかから好みのデザインのものを選ぶ。いや、もう一つの選択肢があるの気づいた。秒針が秒ごとにカチカチと動くものか、連続して動くものかを選ばなければならない。

どちらのがいいのかな?

秒針が連続して動く方のメリットとして、「静か」というのが宣伝文句に書かれている。なるほど。周りの静かな夜中に秒針の音が聞こえてくることがある。それが気になる人には気になってしかたがないということもあるのだろう。そもそも、宇宙の始まりのビッグバンで時間軸がリセットされこのかた時間は連続して進んでいる。こちらの時計の方が物理的に理にかなっている。

少し迷ったが、秒針が連続して動く方を買うことにした。デザインはできるだけシンプルなもの。長く使うものだし、この方が飽きがこないだろうと思った。

家に帰ってさっそく新しい電池を入れ、壁にかけてみる。しばらくすると正しい時間を示しだした。少し日に焼けた壁に真新しい時計。嬉しくなって何度も時計を見上げる。

しかし蜜月は長くは続かない。

時々秒針が止まっている。なぜだろう?新品がいきなり壊れるはずはない。説明書を見ると、標準電波を受信して時刻補正するために一日数回秒針が止まると書いてある。一日数回どころか、もっと多いぞ。そう思い出すと、見る度に決まって秒針が止まっているような気がしだした。一日数回がこんなにたくさんあるはずはない。ひょっとして、この時計はこちらに意地悪を仕掛けようとしているのか。敵がそのつもりなら、こちらとしては気にしない風を装うしかない。それからはあまり頻繁に時計を見上げなくなってしまった。

やはり秒針はカチカチと不連続に動く方がいい。運よく秒針が動いているときに時計を見ていると、時間の流れの速さがやたら気になりだした。時間はこんなに早く流れているのに、お前はいったい何をやっているのだという現実を突きつけられているような気分にさせられてしまう。時間の流れは不連続でもいい。「時を刻む」というではないか。すっと流れてしまうよりも、一時一時を刻みつけながら日々過ごす方がずっといい。その方が人間らしい。

次に買い替えるのは秒針がカチカチ動く方を選ぶことにしよう。でも、いつになったら次の買い替えができるのだろうか?

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