首相と監督

たまたま英文ニュースを見ていて、"German Chancellor Merkel..." (「ドイツのメルケル首相は...」)という見出しを見かけた。そうだった。ドイツの首相は "prime minister" ではなく "chancellor" というのを思い出した。

久しぶりにドイツ語の辞書を取り出してきて調べてみる。首相はドイツ語で "Bundeskanzler"。この中の "kanzler" を英語にすると "chancellor" になる。

前半の "Bundes" は「連邦」や「同盟」を表す。ドイツは連邦国家なので、それぞれの州に「首相」がいる。一方、メルケルさんは連邦政府の首相なので、正確に表す場合に「連邦首相(Bundeskanzler)」を使う。そういえば、数十年前に左派系学生の集まりで「ブント(Bund)」というのがあった、おそらく同じドイツ語からきているのだろう。

関連するような、しないような話だが、スポーツの団体競技の「監督」も英語で表す場合には注意が必要だ。野球の「監督」は "manager"。それに対してサッカーなどの「監督」は "coach"。だから、今の阪神の監督は "Manager Yano" だが、サッカー男子日本代表の監督は "Coach Moriyasu" になる。

日本ではプロ野球で監督の下にコーチがいるから、何となくコーチよりも監督の方が偉いように思ってしまうが、英語の感覚では "coach" というのは、それだけで相手に敬意を払わせる立場のような気がする。黒人俳優のデンゼル・ワシントンが主役の映画で、人種差別の激しい地域でアメリカンフットボールの弱小チームのコーチを引き受け、困難を乗り越えてチームを勝利に導くという実話に基づく作品があった。その中で、差別意識から言うことをなかなか聞かない選手を、「俺がコーチだ」の一言で黙らせる場面が印象に残っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?