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そんなことばっかりやってるから、売れない

 これで何度目だろうか。ベランダに出る。グリーンカーテン代わりに植え付けているゴーヤの株をじっくりと眺める。たまに小さな虫が葉陰に隠れていたりする。嬉しくなって、ピンセットやら使い古しの歯ブラシを使って払い落とす。きれいな形で枝葉が広がるように、少し蔓を広げてネットに誘引する。ここまでで約5分。満足して仕事場に戻る。

 1時間ほどで我慢ができなくなる。またベランダに出る。さっきと同じことの繰り返し。ただ、もうゴーヤにしてやれることはほとんどないので、2分ほどで仕方がなく仕事場に戻る。

 半時間ほどでまたまずむずしてきた。もうベランダに出る理由が見つからない。あきらめかけたその時、そうだ!風呂に入るにはまだかなり早いが、風呂場の掃除にかかることにしようと思い立つ。どうせやらなきゃいけないことだし、と自分に言い訳する。いつもの手順で浴槽や洗い場の掃除をする。今日は特別に浴槽の蓋や椅子、洗い桶も洗剤を使って丁寧に洗う。かなり満足して仕事場に戻る。

 15分ほどして、洗濯物を取り込むためにベランダへ出る。もちろん、取り込んだ洗濯物はきれいにたたむ。今日はいつもより洗濯物が少ないのではないか、とだれにともなく文句を言いたい気分になる。思っていたより早めに作業が終わってしまった。

 白米を洗って炊飯器をセットする。これを忘れるわけにはいかない。そして、夕刊を取りに行く。一面からゆっくりと目を通す。今日はあまり大きなニュースはないようだ。恐る恐る壁時計を見上げる。

 もうやることが思いつかない。刑場に引き立てられていく罪人のような気分になって仕事場に戻る。

 仕事の締め切りは「今日中」。日付が変わるまであと5時間12分ある。

 3行分ほど文字をしたためたら、急にエンジンがフル稼働しだした。4時間ほどで我ながらあきれるほどの集中力で原稿を書き上げる。そして、最終のチェック。なかなかうまくまとまっている。

 少し手直しをして、締め切り時刻の7分前にデータを送る。これで完了。

 準主役のキャラクター設定が少々甘かったように感じるが、いまさら仕方がない。

 いつもいつもこのような作業の繰り返し。デビューしたての頃は、プロットや舞台設定を頭の中で考えているだけでわくわくした気持ちが沸き起こったものだ。白紙の画面に向かっていても、言葉や情景、ストーリーが “天から舞い降りてくる” 瞬間を何度も経験した。脳内に分泌されるドーパミンなのかエンドルフィンのせいか知らないが、その時の恍惚化によく酔いしれていた。それが今ではどうだ...。

 こんなことばかりやっているから、いつまでたっても芽が出ないんだなー。わかっちゃいるんだけどなー。

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