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F井君と僕(再会)

僕は友達が少ない。

友達が少ないというと、じゃあ「友達の定義ってなんなのさ?」と聞かれると戸惑ってしまうというか、面倒だ。

僕の友達の定義というと、簡単に言うと「サシで飲みに行けるか?」なんだけど、その中でもF井君という僕の友人の中では特に「異質」な友人の話を今回はしたい。「異質」というのはF井君が「異質」なわけではなく、僕の数少ない友人のレパートリーの中でF井君が「異質」

だということ。

1年に1回は必ず飲みに行っている。それが10年以上続く。そして、多くはF井君から誘ってもらえる。僕にとっては貴重な友人だ。

F井君は高校の時の同級生だ。

もう、出会ってから20年以上たつ。20年以上と文字で見ると驚きだが、F井君は今でも容貌はかわらない。「こいつ、歳とっているのかな?」と不思議に思う。

前回では、F井君との高校での出会いを話した。ほぼ、僕が所属していたラグビー部がどれほどどうしようもなかったか、の話しかしていなかったけれども。

僕とF井君は大学に入ってから離れた。

といっても、僕とF井君は2年間同じクラスだったけど、友人関係になれたといえるのは最後の2カ月からだった。

メールも何も全くしなかった。数年に一度開かれるクラス会的なもので顔を合わせ、特にじゃれあうこともなく同じ空気を吸い、それだけ。

僕は大学を卒業しても社会から隔絶された精神世界にいた折に、めずらしくクラスメートと会い(そいつとは小学校・中学校・高校と同じ)F井君の話を聞いた。

「あいつ今、〇〇市役所で働いてるぜ。それから結婚して子供もいるらしい」

僕が精神世界でさまよっている間にF井君は立派な父親になっていた(ようだ・・・・)というか、F井君に彼女ができていて、さらに結婚していたなんて・・・・奥さん見てみたい。

なんてことより、僕が最初に1人だったら口に出してしまったであろうことが、

「なんで、F井君ほどの人間が〇〇市役所なんだ。」

「どうして大蔵省じゃないんだ?大蔵省じゃなくてもⅠ種じゃなくてもせめてⅡ種で国家公務員だろう」

だった。

実際に口に出していたかもしれないが・・・・

ただ、市役所職員より国家公務員が優れているとか、キャリアとかノンキャリとかどちらが偉いとか上とかという話ではない。

単純に、合格率あるいは試験難度の話。

F井君の性格からいって、それよりも僕が描いていたF井君という人物が市役所でおさまる、それ以上の難度の試験に挑戦しないというわけがなかったからだ。

僕が3%ほどがっかりしたのは事実だった。

それから数年後。僕は〇〇市で仕事をしていた。

ある日、ふと、どうしようもなく、衝動的に、かつ、突発的にさらに破滅的に飲みたくなった時がある。市内に友達も同僚もなく、さらに〇〇市では一人で飲みにいったこともない。

それでもどうしようもない破壊的な感じで一人で飲みに行こうと街へ繰り出した。

商店街を歩き、飲み屋の前を歩き回り、ふと思い出したチェーンのそば居酒屋へ赴いた。

僕は一人でいたわさとだし巻き卵とをあてに頼んで、ビールからそば焼酎に、せっかくならボトルまで入れてしまえとそば焼酎をボトルで入れた。

そう、僕はとにかく破滅的に飲みたかったんだ。

いいころあいにできあがり、僕は初めてF井君に電話をしてしまった。

酔った勢いで電話するなんて、みっともなくて素面では当然ながらできない。

「もしもし、僕だけど。」

「あぁ、久しぶり」

具体的に何を話したのかは覚えていないが、F井君の変わらない声、かわらない、理知的な感情を押し殺したようなしゃべり口調、悪く言えば冷たい、そして、話をするのは数年ぶりにもかかわらず電話がかかってくるのが当たり前のような自然さは覚えている。

その店ではさいごにせいろでしめた。

破滅的な感覚はとうにうせていた。

「やっぱりチェーンの居酒屋で一人のみはつらいな・・・・」などと思いながら、きもちよく酔って帰った。


それから数年たち、僕はまだ〇〇市に住んでいた。

その日もどうしようもない状態で一人でのんでいて(まぁまぁ、早い時間から)またまた酔った勢いでF井君に電話した。

そういえば、ここ数年は酔った勢いで電話するということはぱたりとなくなった。精神世界でさまよう生活より、少しは正常になったのだろう。

というより、毎日電話やメール等で話ができて、聞いてくれる人がいることが何よりなんだろうと思う。

しかし、僕のことはこの際でもどの際でも、とにかくどうでもいい。

F井君は「じゃ、来週の仕事終わりに会おうか。僕も久しぶりにゆっくりと話がしたい」と言ってくれた。

その日が待ち遠しかったこと。

待ち合わせ場所に待ち合わせ時刻の3分ほど前にF井君はあらわれた。

5年ぶりくらいにあうF井君は小さいまんまで、体型も変わらず、髪形も変わらず、眼鏡をつけているのも変わらなかった。

ただ一つ、違いを言うならば、眼鏡が銀縁の丸眼鏡から、黒縁のスクエアにかわっていた。

もう一つあえて付け加えるなら、左手薬指に指輪がしてあった。

「やぁ」

僕はF井君に右手を差し出した。

F井君は「久しぶり。」とにこやかに、かつ、がっちりと僕の手を握り返した。

そのまま、手を握り合ったまま飲みに行ったわけではないが、ことあるごとに、僕はF井君に手を差し伸べ、F井君はいつも僕の手をがっちりとにぎりかえしてきた。


1軒目に創作系の居酒屋に行き、彼のこれまでを聞いた。

大学時代に付き合っていた彼女がいたこと。

彼女が妊娠したこと。

学生結婚したこと。

キャリアに落ちたこと。

合格したのが市役所だけで、本当は夢は捨てきれなかったが家族のために現実をとったこと。

F井君の情報の95%はクラスメートから聞いたものだった。僕にとっては目新しいものではない。

しかし、彼の淡々とした口調で本人から眼前で語られると、僕は100%ふにおちた。

「だってF井君だもの。」

1軒目の飲み屋では飽き足らず、飲み足りない僕はさらにF井君を誘った。

「こないだ、最初に電話した時に1人で飲んでて、ボトルキープしている店があるんだ。よかったら一緒にあけないか」

そう格好つけて誘ったものの、出てきたボトルは5分の1も残っていなかった。

「これ一人でのんだの?啓介君らしいな?」

そう、嫌な顔もせず、あまり飲めない酒をF井君は僕に付き合ってくれた。

これをきっかけに、年に一度くらいの割合でたまに連絡をとりあい、二人で飲みに行くことが10年以上続いている。

年に1度というところが奥ゆかしいF井君らしい、と僕は勝手に思っている。







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