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糖尿病患者さんの食事療法~なりたくない人にも有効


糖尿病とはどのような病気か、という問いの答えはいくつかあります。

医学的には、インスリンが働かないために血液中の糖が増える病気(血糖値が高くなる病気)、となります。また、将来的に心臓病、失明、腎不全、足の切断につながる病気、と説明されることもあります(*1)。

そして生活者の目線で糖尿病をみると、次のようにいうこともできます。


■糖尿病とは食事に気をつけなければならない病気である


食事の内容や量などによって血糖値が上がったり下がったりするので、糖尿病の治療では食事の仕方が重要になり、これを食事療法といいます。


この記事では、糖尿病患者さんが取り組むべき食事療法の基礎知識と応用知識を紹介します。

そしてここで紹介する食事の仕方は、「糖尿病になりたくない」と思っている人にも有効ですので、ぜひ試してみてください。


*1:糖尿病とは|糖尿病情報センター

https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/010/010/01.html


糖尿病の食事療法の基礎知識


糖尿病の食事療法の基礎知識として、次の3つを解説します。


●難しくはない「みんなにとっての健康食」を食べるだけ

●なぜ食事で治療になるのか

●糖尿病食事療法5箇条


1つずつみていきましょう。


難しくはない「みんなにとっての健康食」を食べるだけ


国立国際医療研究センター・糖尿病情報センターは、糖尿病の食事療法は難しくない、と断言しています(*2)。

なぜなら糖尿病の場合、食事療法といっても「みんなにとっての健康食」を用意してそれを食べるだけでよいからです。特別な食事を用意する必要はなく、いわゆる普通の食事をつくって食べるだけです。


では、みんなにとっての健康食とはどのようなものかというと、5つのことを守るだけです。これはあとで紹介します。


*2:糖尿病の食事のはなし|糖尿病情報センター

https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/040/020/02-1.html


なぜ食事で治療になるのか


糖尿病食事療法5箇条を紹介する前に、なぜ食事内容を変えることが糖尿病の治療につながるのか(療法になるのか)解説します。


糖尿病は血糖値が異常に上がる病気ですが、その状態が健康を害するのは血液中の糖が血管を傷つけるからです。

では「糖が血管を傷つける」とはどのような現象なのでしょうか。


血液のなかで増えすぎた糖は、血管の壁の細胞である内皮細胞に侵入します。この現象によって活性酸素が発生し血管を傷つけていきます(*3)。

血管が傷つくことによって、網膜症、腎症、神経障害、足の壊疽(えそ)、肺炎、認知症、心臓病、がんにつながってしまいます。これらはすべて糖尿病の合併症です(*3)。


そして体内の糖は食事によって体内へ、そして血中へ運ばれてきます。例えば炭水化物には大量の糖が含まれています。

そのため、体内の糖を減らすには「糖を食べること」を減らさなければならないわけです。これが食事療法が糖尿病の治療になるメカニズムです。


*3:糖尿病の合併症はなぜ起こる? 血管が傷つくことで全身に影響|NHK

https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_768.html


糖尿病食事療法5箇条


先ほど紹介した糖尿病情報センターは、糖尿病の食事療法で行うべきことを5つ挙げています。


■糖尿病食事療法5箇条

●ゆっくり食べる、よく噛んで食べる

●朝食、昼食、夕食を規則正しく食べる

●バランスよく食べる

●夜遅くに食べない、寝る前に食べない

●食事は腹8分目でやめる(満腹まで食べない)


5項目のうち「食べない」ことは2つだけで、残りの3つは「食べる」と書かれてあります。「それなら何とかなりそう」と思いませんか。

そしてこの5箇条は、糖尿病患者さんだけでなく、糖尿病を心配している人にも、糖尿病になりたくない人にも、健康な人にも推奨されます。


糖尿病の食事療法の応用知識


それでは糖尿病の食事療法の応用編にまいります。

ここで押さえておきたいことは次の5項目です(*2、4)。


●食事で摂取するエネルギー量(カロリー)を適正にする

●炭水化物、タンパク質、脂質のバランスに注意する

●主食、主菜、副菜を用意する

●アルコールとおやつについて

●減塩について


1つずつみていきましょう。


*4:糖尿病の食事のはなし(実践編)|糖尿病情報センター

https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/040/030/02-2.html


食事で摂取するエネルギー量(カロリー)を適正にする


糖尿病の原因となる行動の1つに食べすぎがあります。そのため食事療法5箇条に腹8分目があるわけですが、これはより具体的には、1日の食事で摂取するエネルギー量を適正にすることにほかなりません。

エネルギー量はカロリーで表されるので、カロリー制限が必要になります。


1日の食事で摂取する適正なエネルギー量(以下、1日の適正エネルギー量)は次の計算式で算出します。


■1日の適正エネルギー量(kcal)=目標体重(kg)×エネルギー係数

●目標体重:身長(m)×身長(m)×22~25

●エネルギー係数:

・軽い労作の人(座って仕事をすることが多い人)25~30

・普通の労作の人(普通によく動く人)30~35

・重い労作の人(力仕事をしていたり活発な運動をしたりしている人)35


例えば、身長1.65mの普通の労作の人なら、1日の適正エネルギー量は1,797~2,382kcalになります。計算式は以下のとおりです。


■身長1.65mの普通の労作の人の1日の適正エネルギー量=1.65m×1.65m×22~25×30~35≒1,797~2,382kcal


つまり、この人は1日1,797~2,382kcalの食事をすれば、糖尿病の食事療法になるわけです。


炭水化物、タンパク質、脂質のバランスに注意する


「糖尿病患者さんは炭水化物を食べてはいけない」というのは間違いで、正しくは「糖尿病患者さんは炭水化物を摂りすぎないようにしなければいけない」です。

炭水化物は悪者ではなく、大量の炭水化物が悪さをするのです。


米やパンや麺などの炭水化物は糖質と呼ばれるほど糖と深い関係にあります。そのため、炭水化物を食べることを控えると血糖値が下がる効果が得られます。

しかし炭水化物は体のエネルギーになりやすいので、体を動かすにはとても重要な栄養です。そのため「炭水化物制限」はしても、「炭水化物を絶対食べない」ことはしないほうがよいのです。


炭水化物、タンパク質、脂質は3大栄養素と呼ばれるくらい体にとって重要な物質であり、糖尿病患者さんでもこれをしっかり食べる必要があります。

糖尿病の食事療法での3大栄養素のバランスは次のとおりです。


■糖尿病の食事療法での3大栄養素のバランス

●炭水化物:40~60%

●タンパク質:20%

●脂質:20~30%


このようにみると、炭水化物は意外に食べて大丈夫と感じるのではないでしょうか。


主食、主菜、副菜を用意する


糖尿病の食事療法に真剣に取り組むには、1食で主食、主菜、副菜を用意してください。理想は、主食1品、主菜1品、副菜2品です。

主食はご飯、パン、麺類など。

主菜は、魚、肉、大豆、卵など。

副菜は野菜、キノコ、海藻、乳製品、果物など。


アルコールとおやつについて


せっかく1日3食を適切なメニューにすることができても、アルコールやおやつ(間食)をしてしまうとバランスが崩れてしまいます。つまり食事療法が失敗してしまいます。

糖尿病患者さんに許容されているアルコール量はとても少なく、1日25gまでです。ビールなら500mlでアルコール25gに達してしまいます。

おやつはそのまま摂取カロリーに加算されてしまうので、「3食+おやつ」を1日の適正エネルギー量以内に収めるようにしましょう。


減塩について


糖尿病患者さんは心臓を悪くしやすいので、減塩食を心がけたほうがよいでしょう。

また「高血圧+糖尿病」の方は、さらに厳格な減塩が求められます。


まとめ~普通を意識して


この記事の内容を箇条書きでまとめます。


●糖尿病の食事療法を難しく考えないで「みんなの健康食を食べるだけ」

●5箇条は「ゆっくり」「3食」「バランス」「寝る前に食べない」「腹8分目」

●1日の食事で摂取するエネルギー量を適正に(カロリー制限は重要)

●炭水化物は「食べない」ではなく「減らす」

●主食、主菜、副菜が理想

●アルコール、おやつ、塩分に注意を


これまで暴飲暴食の習慣があった人には、糖尿病の食事療法は「大変だ」と感じるかもしれませんが、これが「普通の食事」の姿なのでいずれ慣れるはずです。

糖尿病を発症してしまった方は進行させないように食事に気をつけましょう。

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