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写真集『タウシュベツ川橋梁』の刊行から間もなく5周年という時期に漂う少し微妙な空気。

2005年から撮り続けているタウシュベツ川橋梁の写真をまとめ、タイトルもそのまま『タウシュベツ川橋梁』として地元北海道新聞社から写真集を上梓したのは2018年1月25日のことでした。
おかげさまで増刷もかかり、いまだ絶版にならずに流通されています。

出版から5周年を機に何かイベントでもと考えていた矢先、タウシュベツ川橋梁が一部メディアを賑わせることになりました。

話題は、タウシュベツ川橋梁に人が上がっていたというもの。

そのことで今週は新聞各紙にタウシュベツ川橋梁の名前と写真が掲載されました。複数のメディアに同時に橋が紹介されるのはずいぶん久しぶりのことです。

この橋を知らない人には、「橋に上がって何の問題が?」という疑問が沸くかもしれません。けれど、この橋はもう10年以上前からコンクリートの劣化が著しく、いつ崩れても不思議ではない状態でありながら、一方で観光スポットとして近年知名度が上がっているという現状があります。

人気が高まるにつれて、現地の状況に理解が浅い人が訪れる可能性が増すのは残念ながら避けられません。実際、北海道内でも美瑛のような有名観光地では、観光客による畑への立ち入りなど同じような問題が繰り返し起きているようです。

1月21日現在までにタウシュベツ川橋梁の橋上立ち入りが掲載された新聞は以下のとおりです。

北海道十勝の地域紙・十勝毎日新聞

北海道の地方紙・北海道新聞

全国紙・毎日新聞


3紙に共通する内容を簡単にまとめると、橋上への立ち入りがあったのは1月12日。その日橋を訪れていた3人組のうち1人が橋に上がって踊り、それを残りの人が撮影していた様子を、別の観光客が目撃して町に報告したのとこと。

じつは僕は翌13日早朝に橋に出かけており、橋の上についた足跡を確認しています。

2023年1月13日撮影

一部の新聞記事では「橋の上に3人が上がって」と書かれていましたが、足跡を見たかぎり、上がったのは1人のようです。

また、新聞記事では触れられていませんが、タウシュベツ川橋梁に上がったり下をくぐったりする人というのはこれが初めてではく、たまに現れています。ある人は無知から、ある人は昔上ったことがあるから、と理由はさまざまですが、いずれにしてもレアではあるものの皆無ではないというのが現状です。

以前タレントの有吉弘行さんが「ブレイクするっていうのはバカに見つかるってことなんですよ」と語っていましたが、人気の観光スポットになるというのは要するにそういうことなのかもしれません。

そして新聞記事では、人が乗ることで橋が崩れる可能性に触れています。
もちろんそうしたことが全くないわけではありませんが、むしろ橋の行く末にとっての心配材料は、橋周辺でけが人が出たりした場合、橋そのものが取り壊される方向に向かうかもしれない点にあります。

タウシュベツ川橋梁自体には現状、所有者がいません。そのため積極的に保存されることもなく、逆に取り壊されることもなく残置されて現在に至っています。一方で立地は、環境省が管理する大雪山国立公園内であり、かつ橋を観光スポットとしている上士幌町内であり、さらに水力発電に水を使う電源開発株式会社が管理する糠平湖の畔という場所です。

所有者がいない危険な建造物が原因で、自身が管理責任を問われる(かもしれない)敷地内で事故があった場合、どのような対応が取られるのか。僕がもっとも懸念しているのはその点にあります。

写真集『タウシュベツ川橋梁』のコンセプトは、コンクリートアーチ橋が元の土地に還りつつあるプロセスを記録していくというものでした。そのプロセスは未完のまま続いているのですが、自然に崩落していく様を最後まで見られるのかどうか。先行きに少し暗雲が立ち込めてきたようです。

いただいたサポートは、引き続きタウシュベツ川橋梁を記録していくために活用させていただきます。