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権利の主張で自らを崩壊させない組織開発

2024年4月、最高裁はジョブ型雇用企業における同意なき配置転換を無効とする判決を下しました。これにより、今後は、配置転換ではなく解雇通知が従業員に下されることになります。しかし、今回の原告である滋賀県社会福祉法人の職員は、異動前の職場に復帰しており、いわゆる「ゴネ徳」が実現されることになりました。

他部署からの協力要請で受け入れた社員Aが、明らかな業務妨害を成したとき、対応した社員Bが妨害行為の是正を求めたため口論となりました。そのときBは、「これ以上話しても無駄」と袂を別ったのに、Aはその場を立ち去ろうとせず、さらなる業務妨害を重ねたために、思わず「消えてくれ」と言ってしまったがために、パワーハラスメントで訴えられることになったという事例があります。結果、Aが“精神的苦痛”を言い訳に欠勤したため、業務妨害はなくなったのですが、本当に正しい結果だったのでしょうか…。ちなみに、その後Aは、Bの異動を要請するなど、やりたい放題でした。

メンバーシップ型は、雇用の確保を目的とした組織発展を目指しています。したがって互いの権利は、常にグレーゾーンが存在し、話し合いの余地を残しています。一方、ジョブ型は、従業員の能力の提供によって組織発展を目指しますので、明確に権利が存在します。しかし、権利の主張(相手を貶める手練手管)の強弱が“能力”を代弁するようになると、組織は分断するほかなく、融和を求めて“折れた方”が冷や飯を食うことになります。前提となる組織形態が異なるにもかかわらず、法の強制力によって拙速な融合が行われれば、このような悲劇を生んでいくでしょう。

合理的思考においては、前提条件を合わせる必要があります。ともするとディベートでは、自身に有利な土俵に相手を引きずり込むテクニックがもてはやされますが、これでは本質的な合意は得られません。延々と交渉した結果、「土地を売ることが私の最大利益になることは理解した。でも、売りません」となるのがオチでしょう。

では、前提さえ一致していれば、必ず合意できるのでしょうか? 例えば、他者と意見が合わないとき、「どうして欲しいのか?」とチャンクダウンさせて合意を得ようとしても、妥協の繰り返しとなり、最終的にはディベート合戦によって勝敗を決めるしかなくなります。これでは、問題解決に向かっているという満足感は得られるでしょうが、WinWinの関係を築くことはできないのでは…。チャンクダウンは、相手との距離を広げるだけとも言えると思います。

そこで、合意を本当に求めるのであれば、チャンクダウンではなく、チャンクアップさせることが必要でしょう。すなわち、「なぜ、そう考えるのか?」「そう考えたキッカケは何か?」といった問を重ねることで、真意を探る対話をすることです。このような対話は時間がかかるため、タイパ・コスパなどと考えていると、一見、非合理な時間と思えるかもしれません。また、より複雑な(解決できそうもない)テーマへと進んでいくように見えるかもしれません。それでも、それを乗り越える必要があると思います。なぜなら、人は感情に左右される存在だからです。

1960年代は「採用してくれてありがとう」と滅私奉公を旨とする労働市場でした。1970年代は「出世したい」とキャリアパスを求める時代でした。1980年代には「好きな仕事をずっとしたい」という思いを反映した専門職制度が誕生しました。1990年代は「金が欲しい」という実力主義が横行しました。それでは、21世紀はどのような時代なのでしょうか? 多様性の名の下に、どう在るべきかに迷走している時代であるようにも思えます。

「組織とは、意識的に調整された2人またはそれ以上の人々の活動や諸力のシステムであり、そこに集うメンバーには、共通の目的・貢献意欲・コミュニケーションがあること」とは、1960年代のバーナードの定義です。この言葉を噛み締めると、組織であろうとすることが、これから目指していくべき方向性であるように思われます。

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