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護身武道瞬道 瞬撃 SHUNGEKI 槙坪 毅 (著)

[商品について]
―少年は、瞬道と共にマラヤ独立の夢をみる―
60年前のあの日、仲間にリンチされていたイスラヒムは、ひとりの日本兵に出会い助けられた。そしてイスラヒムは、護身武道である「瞬道」を使うその日本兵の教えを受け、シンガポール作戦が始まるまでのわずかな日々の中、一撃で相手の動きを止め身をまもる「瞬撃」の極意をその身に刻んでゆくのだったーーマレーの地を舞台に、アジアの独立戦争に身を投じる少年と受け継がれていく師弟の絆を描いた物語。

[担当からのコメント]
ひとりの少年の成長の物語である本書には、日本がアジアでいかなる戦争をしたのかということがその背景として描かれています。そうした視点からも本書をお楽しみいただければ嬉しく思います。

[著者プロフィール]
槙坪 毅(まきつぼ・たけし)




護身武道瞬道 瞬撃 SHUNGEKI




いきなりじじいの前から大男が、吹っ飛んだ。大男は立てなかった。2人の若造がその大男を抱えながら去って行った。木陰から見ていたイシュマエルは、恐る恐る近づいて行った。

「おじいさん! ぼくに教えてください」

「教えるほどのものでもないんじゃ。今やったのは、日本の兵隊さんから教わった護身武道なんじゃ。護身武道は、お侍さんに伝わる当身という術を集約して瞬撃という1つの極意にしたものなんじゃ。」

「難しいのですか?」

「極意というのは、それまでの鍛錬の中から生まれるものなんじゃが、生まれた極意は単純で簡単なものなんじゃ。ちょうど日本の刀みたいなもんじゃ。刀は造るときには鉄を鍛えに鍛えて壮麗なものになるんじゃが、出来た日本刀は、誰にでも簡単に斬れるんじゃ。」

「その、瞬撃を教えてください」

「瞬道と言うんじゃ」

じいさんはパームヤシ園の木々を見ながら、60年前そこにあったゴム林を思い出していた。15才だったイスラヒムはそのゴムの木に縛られていた。何度もなんども叩かれた。

「どうなんだ! 盗みに行くのか? 行かないのか?」

「い、いきたくない」また顔にビンタが響いた。

と、突然ゴムの木の枝がガサガサと音を立てて地面に落ちてきた。イスラヒムの腫れた目で見ると、日本刀を手にした日本兵が立っていた。すぐにリンチをしていたやからが、クモの子を散らすようにゴム林に逃げていった。

手にした刀でロープを切りながら

「何があったんだ! ぼく?」

「……」

「まあいい、気をつけなよ」

と、言って帰ろうとした。イスラヒムは

「待ってください! イスラヒムと言います。ここにいるとまたリンチにあいます! 連れて行ってください! お願いします!」と両手を合わせた。この両手を合わせるしぐさは、日本人には弱い。

「そうか、あの連中はお前の仲間か? じゃ ついて来なさい。」

しばらくすると1号線にでた。1号線には、連日、日本兵やトラックなどがジョホルバールに向けて進んでいた。やがて少し開けた場所にテントがはってあるところに入っていった。するとこの兵隊さんに向かって、みんなが直立不動になり敬礼をしだした。

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