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不振マンUに“決断の時” 再建への打開策は「どちらを切り捨てるか」

マンチェスター・ユナイテッドが苦しんでいる。筆者がプレミアリーグに夢中になり始めたのは15年前。ユナイテッドが3連覇を達成する最初の年だった。当時は豊富な資金を手にしたチェルシーが2連覇を成し遂げ、国内屈指の強豪へと飛躍していた時代だったが、それでもユナイテッドの風格は文字通り「別格」だった。計13回のリーグ制覇を果たした“生ける伝説”サー・アレックス・ファーガソン監督が築き上げた黄金期のユナイテッドは、圧倒的な勝負強さを誇示し、「イングランド最高のクラブと言えばユナイテッド」という事実を他サポーターも認めざるを得ない存在だった。

しかし、ファーガソン監督がリーグ優勝を置き土産に退任してから9シーズン、ユナイテッドはプレミアリーグのトロフィーを掲げていない。今季も無冠が決定的であるため、それが10シーズン目になるわけだが、今季に関しては優勝どころか、現時点では6位(2022年4月現在)と、UEFAチャンピオンズリーグ出場権も逃す危機に直面している。毎年のように指揮官を交代し、トップクラスの選手を積極補強してきたが、それでも結果が伴わない、まさに“暗黒期”を迎えているわけだが、低迷の要因の1つには“時代錯誤”があるかもしれない。

本題に入る前に、そもそも最先端のフットボールとはどれを指すのか?そのヒントは、2022年4月10日に開催されたマンチェスター・シティvsリバプールにある。今季のリーグ戦を頭ふたつ抜け出した形で、優勝争いの一騎討ちを演じている両チームによる天王山は2-2の痛み分けに終わった。しかし、試合内容は、まさしく今後のサッカー界の指標となるような“最先端の頂上決戦”と言えるものだった。

リバプール対策を打ってきたシティは、サイドを制圧し相手守備陣の裏を取り続けることで試合の主導権を握った。一方で、リバプールは相手の猛攻に耐えつつ、狙い澄ました一撃必殺のカウンター攻撃で仕留める破壊力を示した。互いの武器を惜しみなく出し切り、真っ向から殴り合い、世界最高レベルの激闘を披露してみせた。試合直後にジョゼップ・グアルディオラ監督とユルゲン・クロップ監督が交わした熱いハイタッチが全てを物語っていた。

両チームそれぞれの強みを活かしつつ、互いに共通していたのは「スーパーハイライン」だ。これは直接対決に限ったものではなく、シーズン通して貫いている。最終ラインをハーフウェーライン付近まで押し上げ、攻撃時はサイドバックがウィングの位置にポジショニングし、実質2バックのような形となる時間帯も多いが、そのCBですら果敢に攻撃参加する。それは通常のハイラインとは一線を画し、まさに「スーパー」の形容詞が付くハイラインの攻防となる。この「スーパーハイライン」を持続させるということは、前線では 相手GKまで徹底的に追い回す「スーパーハイプレス」が不可欠で、後陣に関しても狭いスペースでパスを繋ぐ「スーパーハイポゼッション」が求められることになる。

黄金期のバルセロナが見せたポゼッションサッカー、ブラジルW杯を制したドイツ代表がショートカウンターでサッカー界を席巻した時代は、全世界で多くのクラブがそのスタイルを模範としたように、シティとリバプールが披露する「スーパーハイライン」の戦術は、これからの時代に間違いなく世界のトレンドになっていくだろう。そのような点では、現在ユナイテッドを暫定的に指揮しているラルフ・ラングニック監督は、「スーパーハイライン」とまでは言えなくとも、当時ライプツィヒでハイライン・ハイプレスを徹底したサッカーを浸透させた実績がある。しかし、今のユナイテッドでそのサッカーを再現するのは、はっきり言って現実的ではない。最先端のサッカーを目指すには、あまりに不向きなスカッドだからだ。

攻撃を牽引するC・ロナウドやブルーノ・フェルナンデスは、ゴールとチャンスメイクでチームに貢献している一方、ハイプレスを徹底できる守備能力までは備わっていない。対するスコット・マクトミネイやネマニャ・マティッチは守備のタスクを担えるものの、高い位置でのポゼッションは得意としていない。ポール・ポグバに関してはポゼッションのスキルに長けているが、肝心の守備意識が乏しい。ハイプレスとハイポゼッションを両立できなければ、ハイラインの歯車は噛み合わないため、ハードルの高い課題となる。しかし、ユナイテッドにとって最大の問題点はGKを含めた最終ラインにある。

ユナイテッドの守護神を務めるのは、加入して10年目を迎えるダビド・デ・ヘアだが、シュートストッパーとしては、今でも世界でトップクラスと言える。実際チームは、数多くの決定機に見舞われた中でデ・ヘアのスーパーセーブに救われた試合も、決して少なくない。しかし、そんなデ・ヘアにも苦手とするプレーがある。それは「飛び出し」だ。最終ラインの裏を取るようなロングボールを放り込まれると、相手に1vs1の決定機を許す場面がどうしても出てくるが、バイエルン・ミュンヘンのマヌエル・ノイアーやリバプールのアリソン・ベッカーは果敢な飛び出しによるクリアで、事前にピンチの芽を摘むプレーを得意としている。一方で、デ・ヘアは飛び出しに長けていないため、そのようなプレーを期待することはできない。

守護神が飛び出しをしないタイプの場合、センターバックに俊敏な選手を置くことがリスクヘッジになる。レアル・マドリードのティボ・クルトワも、飛び出しをしないタイプのGKだが、ダビド・アラバとエデル・ミリトンの両CBは共に俊足であるため、クルトワの苦手領域をチームとして的確に補填できている。リバプールに関して言えば、飛び出しのうまいアリソンに加え、スピード力のあるフィルジル・ファン・ダイクがDFリーダーを務めているため、「スーパーハイライン」を築く上で最高の土台が整っている。しかし、ユナイテッドは主力のハリー・マグワイアが鈍足であるため、飛び出しができないデ・ヘア、スピードのないマグワイアという“相性の悪い”組み合わせに。その場合、どうなるのか。ロングボールやカウンターを恐れ、最終ラインがズルズルと後退し、最終的には「スーパーローライン」となる。まさに“時代錯誤”の姿だ。

現状のスカッドでの解決方法としては2通りある。GKに関しては、第2GKの25歳ディーン・ヘンダーソンを昇格させるという選択肢がある。レンタル先のシェフィールド・ユナイテッドで頭角を現したヘンダーソンは、昨季デ・ヘアから正守護神の座を掴んだものの、今季はデ・ヘアの復調もあって奪い返された状況にある。安定感のあるパフォーマンスに定評がある期待のGKではあるが、決定機を阻止するビッグセーブに関してはデ・ヘアが上回っていることもあり、ユナイテッドとしても世代交代に踏み切れていない。なにより、不調に喘ぐフィールドプレーヤーに対し、デ・ヘア自身のパフォーマンスは実際研ぎ澄まされている。チームのために孤軍奮闘している守護神を下ろすことが妥当なのかについては、疑問の声が生じることは避けられないだろう。

一方、CBにおいては、マグワイアがシーズン通して不安定なコンディションに終始しており、失点シーンに絡む機会も多い。悲惨な今季の戦犯として各方面から叩かれている状態だが、マグワイアだけでなく、ユナイテッドのCB陣はスピードに長けた選手が慢性的に不足。唯一俊足と言えるのがエリック・バイリーだが、負傷離脱が立て続いており、戦力としてカウントできないのが実情だ。それに加え、マグワイアがユナイテッドのキャプテンを務めているのが悩みの種でもある。チームが不振に沈む状態で、キャプテンを先発から追いやるのは、決して単純な判断にはならない。キャプテンの座が剥奪となる可能性も当然外野で騒がれることになり、チーム全体に不協和音が生じる可能性も大いにある。

最先端の「スーパーハイライン」でプレミアリーグ、CLの舞台に旋風を巻き起こしているシティやリバプールに対し、ユナイテッドは時代錯誤の「スーパーローライン」でかつてない不振に苦しんでいる。来季からエリック・テン・ハフ監督の就任が発表されたが、デ・ヘアを代えるのか、マグワイアを代えるのか。または両者とも起用した上で活路を模索するのか。オランダ人指揮官が下す決断によって、今後のユナイテッドの運命は大きく変わることになるだろう。

text by Jofuku Tatsuya

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