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ウクライナ戦争は世界をどう変えたか 「独裁者の論理」と試される「日本の論理」(後編)

人気YouTuber東海オンエアの動画で、「川と海の境界はどこなのか?」というものがある。
国土交通省が定めた「河口」の位置に疑問を呈し、川上から順番に水を味見していくという動画だ。

海はしょっぱい。川はしょっぱくない。
そしてその間に少しだけしょっぱい、「海か川かわからない」ところがあり、結論として「川と海の明確な境目はなかった」として締められていた。

今回、この「ウクライナ戦争は世界をどう変えたか」を読んで学んだことは、平時と戦争の間にも「明確な境界がない」ということだ。
平時と戦争状態の間には、「戦争かどうかわからない」微妙な期間がある。
特に本書の中でも台湾統一についての説明を読むうちに強くそのように感じた。


そもそも、台湾統一とは何か?
ということについて本書を読んだ上での私のざっくりとした理解を書いておく。

私自身、漠然と台湾は中国の一部だと認識していたが、台湾の人々はそうは思っていないということを初めて知った。
また、本書によると、中国による台湾への侵攻のリスクは現在かなり高まっているらしい。習主席の意志が固い様子なのを受け、もはや「起きるかどうか」は問題ではなく、「いつ起きるか」という問題らしい。
アメリカや日本の軍事関係者、国際政治学者らによると「2027年ごろに起こる」あるいは「2030年〜の10年が危機」といった予想がされている。

中国が台湾への侵攻を開始する場合のストーリーもある程度予想されており、例えば次のような説が有力とのこと。
細部は端折りながら紹介するがそれでも文字が多くなってしまった。

  1. 中国の人民解放軍を福州市の軍事施設に集める。
    *これも読んでいてなるほどと思った点だが、1発ずつ台湾に向けてミサイルを撃っていては順番に打ち落とされるため、防衛システムで捌ききれない量のミサイルを同時に撃つ必要がある。

  2. 日米はこのような動きについて非難しつつ、在日米軍や自衛隊の艦隊が東シナ海に向けて出航する。
    中国はこれに対し、「大規模な軍事演習をおこなっているだけ」と反論。さらに「台湾統一は中国国内の問題」と改めて釘を刺す。

  3. そうしているうちに中国からと思われるサイバー攻撃が台湾へ集中。
    台湾の都市インフラなどが混乱し始める。

  4. アメリカは中国が台湾侵攻を始めようとしていると判断。
    アメリカ本土から軍を派遣し、日本の自衛隊にも援護や補給活動を依頼。

このシミュレーションの上でも、「福州市にやたらと戦力を集めている」や、「怪しげなサイバー攻撃で台湾インフラが混乱する」のように戦争の準備なのか戦争なのかなんなのか明確にはわからない状況がある。
最近すでに、中国からと思われる風船がアメリカ上空で発見されたり台湾本島と離島を結ぶ海底ケーブルが2ヶ所ほど切断されていたりと嫌なムードが漂い始めている。

このような「戦争かどうかわからない状態」では第三者である日本にもかなり微妙な判断が求められる。
例えば、

  • 台湾の戦闘機が中国からの先制攻撃を警戒して退避するとき、日本は台湾の戦闘機を国内に受け入れるか?

  • 受け入れたとして、戦闘機が再度飛び立つ際にミサイルを積んだまま飛ばせても良いのか?
    (ミサイルを積んだまま日本の基地を飛び立つとなると、台湾軍の後方支援を行っていることになり、中国にとって明確に「敵対行為」となってしまう)

など、細かくてややこしい決断をさまざま強いられる。
中国と台湾で勝手にやっててくれれば良いのに…とも思うがアメリカが参戦するとなると、国内に米軍基地を置き守ってもらっている日本の立場では無視できない。

戦争は絶対だめ!というのは本当にその通りだし、本書を読んでますますその思いは強くなったのだが、同時に主張としてあまりに大雑把で議論の役には立たないな…と思ってしまった。

隣の国同士で戦争が始まった際どうするのか、始まったのか始まっていないのかよくわからない期間にどのような態度を取るのか、解像度の高い議論をするべきだし、していってほしいなと感じた。
それは戦争の準備ではなく、戦争を未然に防ぐための牽制にもつながると思う。

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