見出し画像

夫と靴下

夫と再婚してまもなく、子供たちから夫の誕生日には何をプレゼントしたらいいか相談されました。再婚するまで独身貴族だった夫は、ブランド品のいいものを身につけていたので、私達のような母子家庭家族だったものがプレゼントして喜ばれるようなものは、なかなか思いつきませんでした。

そんな時、イニシャル入れてくれる靴下のお店を見つけ、これならオリジナルなプレゼントらしくていいね、ということになり、娘がプレゼントしたら、とても喜んでくれました。ところが、夫のきょうだいファミリーからもオフタイムの時に履けるようなブランド靴下が色々とプレゼントされていたので、引出しには靴下が沢山保管されていたのでした。

しかし、夫は非常な倹約家で吝嗇と言ってもいいくらいなせいか、それらを一向におろして使おうとはしませんでした。

挙げ句の果てには、散歩の途中で3足千円のなんてことない紺色の靴下を私に普段用に買って欲しいと言い、「持っているじゃない?」と言うと「いや、普段会社に行く時はこんなんでいいから」と言うので、仕方なく買ってあげました。

まあ、そういう同じ種類の同じカラーの靴下を何足も買うと、穴が空いたら、すぐに取り替えられるという便利さはあるのですが。でも、そしたら、一体いつプレゼントした靴下は履いてもらえるのでしょうか?

普段に?いや、それはもっとありえない話でした。

夫は旅館に備えてある「和たび」ソックスは必ず家に持ち帰るので、旅行に行く度にその数はどんどんと増えて、家ではこれが薄くてちょうどいいと、普段はいつもその靴下で過ごしてました。

そういうわけで、プレゼントされた素敵な靴下たちの出番はなかなかありません。

引出し2つ分はある沢山の靴下は、夫のお気に入りのラルフローレンのものから、丸善の高級靴下、ネーム刺繍入りの靴下などなど、暑い時寒い時、シーンに合わせていっぱいあり、もう一生履ききれないほどの数ありました。

その話を家族が集まった席で話題にした時、そんなに使わずに溜まっていたら、遠い先、葬儀の際には棺にお花を入れる代わりに靴下を入れる儀式にしたらいいと言って、大笑いしたことがありました。

でもまあ、皆がプレゼントし思いのこもった素敵な靴下ですから、燃やしてしまうのもなんだか勿体無い気がして、今回「靴下による納棺の儀式」はやりませんでしたけれども。いや、もし実際にやったら、列席者がびっくりしちゃいますよねえ。

もう何だか笑えないようなことが現実に起きてしまいました。夫は最期までコロナが陽性反応ということでしたので、届けられた衣服に旅館靴下が入っていたかもしれませんが、中身を見ることなく処分しました。

ということで、実際にのたれ死んだりした時は、こういう形で衣服が戻って来るということが分かりました。

以前、私の母が、「私は普段ひどい下着をつけているかもしれないから、万一倒れたりした場合は、すぐにきれいな新しい下着と取り替えてね」と言って、きれいな下着の入っている引出しはここよと教えてくれた話を思い出しました。

でもまあ、死んでしまったら、もう見栄もへったくりもないということで、ありのままの姿で逝ってしまうものなんだなあと思いました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?