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ジェラトーニを洗う

 今年の二月にディズニーシーで購入したジェラトーニのぬいぐるみとは、以来共に眠っていた。とはいえ万が一にもわたしのよだれで汚れるなんてことがあってはいけないので、同じベッドで互いに背を向けて眠っていた。停滞期のカップルさながらだった。  そんなジェラさん(自分のジェラトーニのぬいぐるみをわたしはそう呼んでいる)の口から頬にかけて謎の茶色いシミがついているのを発見したのは本当に最近の出来事だった。わたしは盛大な悲鳴をあげた。  汚れないように気をつけていたはずだった。だとい

    • アンバランス

       退職したいと考えている。  上司にそう伝えたわたしの声はみっともないくらい震えていた。心臓が痛くて、拳を硬く握りしめる。それでも上司から目を逸らさずに言うと決めていた。  限界が来たというよりは、来るべきときが来たという、ただそれだけのことだった。入社して三年。積もったものは、とうにわたしの受け皿から溢れてこぼれていた。気がつかないふりをして誤魔化していたにすぎない。  三年は耐えるのだという、おかしな意地がわたしにはあった。耐えた先に何もないとわかっていたけれど、こ

      • mob

         最近、日が落ちるのが早くなった。会社を出ると、夜の真っ黒な世界に圧倒される。周りが田んぼだらけの片田舎は人工的な灯りも少なくて、車を停めた駐車場までの道のりはスマートフォンの懐中電灯が必須だった。会社の敷地内に入り込んだ野良猫がカエルを捕まえて口をもごもごさせている。猫はがりがりに痩せていて、ぎらぎらした目でこっちを見ていた。なにか食べものを持っていたら分けてあげたかったけれど、猫が食べても問題なさそうなものは持ち合わせていなかった。  わたしもお腹が空いていた。二十二時

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