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【コラム】大変と付き合う。

□「大変」は常に起こる。

いざ自分の作品で70分程の公演を行おうと思うと、作品を作る前にやるべき事、判断すべき事がどっさりとやってくる。

踊りや台詞を使ってあんな事がやりたいなぁーと一人の頭で考えてた時代がとてもメルヘンで懐かしい時期である。

1人自分の価値観に閉じ籠った男がある日部屋に迷い混んだ蝶々と出会い、部屋の壁に空いた隙間から外の世界を知り
希望と絶望でぐちゃぐちゃになっていくダンス劇を作った時、始めて美術、照明、音響、衣装、制作などを引き受けて下さる方々を探し、企画を伝えてスケジュールを確認してフライヤーを作って下さる方々とミーティングをして、撮影をしてさぁチケットを発売しよう!
という流れは、いわゆる“創作"というよりは“制作“の時間。
これが当初はとてつもなく大変だった。

美術は今もお世話になっている上領さんに相談、「今度自主公演をやりたく、そこで本に囲まれた男の話の美術をお願い出来ないだろうか?」と僕の相談を最後まで聞く前に「いいですよ」と答えてくれた。
あの日の「いいですよ」を後悔させる事だけはしたくないと今でも真剣に思っているが、この時の美術が本当に大変だった。

上領さんは知り合いの古本屋屋さんで廃棄になる本を週に1度引き取りに行き、会場の裏階段に運ぶ作業を約2ヶ月繰り返し2000冊の古本を集めてくれた。

本番1週間前に夜中に会場を借り仮組みを行った、上領さんのまわりの方々も付き合ってくださり数時間かけて試行錯誤した2000冊の本が詰まった2面の壁は朝7時に立ち上がり、数分後に自ら音を上げて崩れてしまった。。。

会場の撤収時間が近づいていたので、僕らはまた2000冊の本を会場の裏階段に運び9時頃に帰路につくわけだが、お互いに不安を隠し微妙な会話をして乗った山手線の景色は今もなんだか思い出すことが出来る。

結局このセットは上領さんがその後構造から見直し、天井からのワイヤーで補強する形で見事に畳八畳の価値観引きこもり男の部屋が完成。

朝、会場でセットを見た時の感動と感謝は4年経った今も鮮明である。


□観てもらう「大変」

自分と、自分がお世話になっている人達と作った作品だからかわいいに決まっている。が、それを大勢の方が観たいかどうかは別のお話なのである。

この公演から「制作」として僕と一緒に作品が面白いぜ!と騒いでくれる人を探しお願いした。
その制作の彼がアシスタントとして現場に連れて来てくれた女性が、3年前からメインの制作として僕を鼓舞してくれている水谷さんである。

作品は頭の中では出来ているが、まだ形にならないうちから制作からの紹介で出会った今も映像制作でお世話になっている池尾さんと街で踊るシリーズを公演までに何本か発表しようという企画が決まり、吉祥寺などに繰り出し公園やコインランドリーやエスカレーターで踊った。
楽しそうに関わって下さる人に囲まれ街で踊る僕には、しっかりとした責任のようなものがおそらく生まれたのか...
不思議な肩凝りと頭痛が終演まで続く笑。

チケットも自分達でメール受付するのよりも、プレイガイドで発売した方がなんかいいよねー。という事で、プレイガイドへの登録なんかもするのだが、始めての僕にはとても面倒な作業であった。

そんな隙間でリハーサルをして脚本を書いた。

照明の明子さんや、当時音響を引き受けて下さっていた近藤さん達に始めて観て頂く通しリハーサルは、隙間でリハーサルしてることはもちろん言い訳にならない。
前日にやっと覚えたような台詞を驚異的な集中力と緊張のもと吐き出した。やっと形が見え始める瞬間であり。
この日から、スタッフの方は自分がどんな作品に立ち会うのか、制作はどんな作品を世の中に売り出すのかを知る訳であり、ここから本番までの期間が世の中に観てください!
と叫ぶことの出来る期間である。

当時本番の10日ほど前に行っていたこのリハーサルは、
現在は1ヶ月前に行われる。

観てください!と叫べる期間をどれだけ取れるかが、僕達にはとても重要だという現れであり、とにかく面白いから来て下さい!ではお客様は観に来ない事は痛いほど学んだ結果である。

□引き継ぐ「大変」

今は本番が近づいても肩凝りも頭痛もなく、ただただ楽しく過ごせている事は感謝と驚きである。

少しずつ関わって下さる方が増えてくると、人間と過ごす。
という大変さは出てくるが、1人舞台が多い割には人が好きな僕にはさほど大変なことではなく、今も穏やかに本番2週間前をむかえている。

今ももちろん美術も大変、照明も大変、音楽も大変、衣装も大変、制作も大変、創作も大変、のはずなのだがこんなに穏やかなのは、慣れたからでも、合理的になったからでもなく、当時の「大変」を引き受けてくれている人達がいるということ。

僕のいないところで美術の制作をして下さったり、
照明のチームを作って下さったり、脚本を読んだだけでビシッと作曲して下さったり、衣装を提案して下さったり、チケットや当日運営を管理して下さったり、それら全てを統括して見守って下さったり。
そんな人達が何故か僕の作品の大変を引き受けてくれている事に支えられた僕の「穏やかな時間」。
おおいに感謝して過ごそうと思う。

僕らだけではなく、どんな現場にも組織にも個人にも「大変」は必ず存在している。
場所や規模は違えども必ずあるこの「大変」が、それぞれのユニークポイントであり、大切にしなくてはいけないものなんだろうと思う。

ダンス劇作家
熊谷拓明

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